【01】2

 夜詩くんは体力すらないので、セックスすら長続きしない。僕はもっとしたいけれど、いつも早めに射精して終わらせる。我に返った叔父は逆に開き直って、僕に湯船を溜めさせたりシーツを交換させたりする。

「初雪」

 ときどき、叔父は僕のことをあだ名ではなく名前で呼ぶ。もう僕が雪ちゃん雪ちゃんと呼ばれなくなったからかもしれないし、僕のなかで「夜詩くん」と「叔父」が似て非なるように、夜詩くんのなかでも「ハツ」と「初雪」は違うのかもしれない。

 夜詩くんは面白い数学の本を貸してくれる。たった一段落を理解するのに半日を費やすような、それはそれは難しい専門書なのだけれど、帯には分かりやすい入門書と書かれてある。どこがだよ。

 夜詩くんの書いた小説は相変わらず売れて、コミック化もされることになる。夜詩くんからすれば、どうでもいいらしい。絵柄は僕の好みじゃなかったので、僕はそれを買わないけれど、当然叔父の本棚には見本のそれがずらりと並ぶ。

「印税、どのくらい?」

「知らない」

 夜詩くんは慎ましい生活と高額な医療費さえまかなえればよくて、お金には無頓着だ。




「本当に、初めて?」

 そんなことを言われて、戸惑った。大学で知り合った年上の女性は、僕が童貞だと知って誘ってきた。だからホテルについてきて、僕はセックスした。

「初めてだよ」

 形のいいおっぱい、びしょびしょに濡れたあそこ。初めてリアルで、見た。それまではAVでしか、観たことがなかった僕は、液晶を眺めてるだけじゃ知ることの出来ない、色々を知る。女性の唇の柔らかさ、舌の小ささ。汗の臭い。女の人の、あそこの味。肌の柔らかさ。乳首の固くなっていく感触。

「初めて潮、噴いちゃった」

 女の人は言う。僕はこの人の名前すら、ろくに覚えていない。ホテルに来る前に寄ったコンビニで、買った飲み物で二人とも喉の乾きを癒しながら、話をする。

「ねえ、またしようよ」

「今から?」

「じゃなくて。また今度ってこと」

 僕は是非、なんて頷きながら、もうしたくない気持ちになる。今、発散したばかりだからかもしれない。時が経てば、男はどうしてもまた欲望を持つ生き物だから、逆に僕のが焦れったくなって、催促するのかもしれない。

 僕は夜詩くんに童貞を捨てた話をするだろうか。そんなことを考えたら、気持ち悪くなって、少し目眩がした。

「疲れちゃった?」

「ちょっと寝ようかな」

「うん」

 僕より疲れているはずの女の人は、僕にすり寄ってきて、静かに呼吸をする。僕は夜詩くんのことを考える。あの人は女の人の身体を知らないのに、どうしてあんなにも淫らがましく、リアルな物語を書けるのだろう。

 自分が、される側だからだろうか。その肉体に他人を受け入れて、滅茶苦茶にされたい側の人間。

「…………元気だねえ。もっかい、する?」

「する」

 今度は導かれての正常位ではなく、彼女をベッドに四つん這いにさせて、後ろから犯す。細いくびれと、丸いお尻。くねる背筋。絶えない喘ぎ声。

 僕は夜詩くんのことを考えながら、彼女の膣奥、ゴムの中に吐き出す。





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