ジェラシー

「おいしー!!」


「そっかそっか、それならよかった」


 双子ちゃん、由依、健と一緒に神社に初詣に来た。


 地元に根差した小さな神社で、近隣住民の方で賑わっている。


 出店もあって、子どもたちがフライドポテトやからあげ串を大人にねだっている。


 そんな姿を見ながらベンチに座っていた。


「ここまで喜んでくれると払い甲斐があるな」


「叔父の金だけどな」


 健と由依の叔父にあたる人物からお小遣いとして二万円をもらった。


 割り切れないようにしておくから、残った分は返せよと言っていた。


 この場合、残らないように上手く分けろよというのが叔父さんのメッセージだ。


 他の大人がいる手前、気を遣っているのだろう。


「コウくんはどう? おいしい?」


「……」


「夢中になってるな」


「だな。なんというか、集中力すごいよな」


 俺たちが声を掛けてもコウくんは立ったままりんご飴を食べ続けている。


 それだけりんご飴を気に入っているのだろう。


 一人では食べきれないだろうから途中で回収しないといけないけど、渡してくれるだろうか……


「……いたか?」


「いないけど」


「じゃあ、もう少し落ち着けよ」


 由依は忙しなくキョロキョロと首を回して周りを確認している。


 他の生徒に俺や健といるところを見られるのが嫌なのだろう。


 偶然会って一緒にいるんだよね♡ でいいと思うのだが、由依曰く「女はそんなのすぐに嘘だってわかる」とのことだ。


 女の勘はよく当たると言うが、そこまでか? と疑ってしまう。


「そういえばだけど、三人とも行かなかったな」


「あー、クラスの集まりのやつか?」


「めんどい、だるい、うざい」


「子どもの前でそんなこと言うな。仮にも室長だろ」


 今日はクラスの連中で集まって初詣に行っているらしい。


 希望者だけで集まって行くらしいのだが、メンバーは陽キャとされる「自称一軍」たちがほとんどで退屈そうだなといった印象だ。


 そんなくだらないメンバーが集まったのは樋口さんが参加するからだろう。


 その付き添いで神崎さんとナギちゃんも行くらしく、樋口さんたち目当てで集まった男子とその男子たち目当てで集まった女子といったところだ。


 うん、地獄絵図だな。


「俺はともかく、お前らはクラスの人気者だから行くと思ってたわ」


「行っても楽しくないしな」


「それな。双子ちゃんといる方が楽しいし。ねー♪」


「ねー♪」


 由依の膝の上にいるアヤちゃんは由依にほっぺをツンツンされながら楽しそうに答える。


「コウくんは座らなくていいの?」


「……うん」


 羨ましそうにアヤちゃんを見るので声を掛けたのだが、断られてしまった。


 おそらく、膝の上に座りたいのではなく由依に甘えたいのだろう。


「でも、みんなで行くってなったら学校近くでしょ? こっちに来るかもしれないじゃん」


「もう一個の方に行くらしいよ。出店の数が多いからって」


「へー、クラスのグループに書いてあったっけ?」


「いや、原西から聞いた」


 嘘である。


 実際は神崎さんから今日のことについて連絡があった。


 誰が一緒で、何時にどこで集合するのかが事細かに書かれており、どこか事務連絡のような感じがした。


 俺に心配をかけたくないからということらしく、絶対に女子一人だけにはならないようにすると送られてきた。


 確かに男と一緒と聞いて俺も行きたいと思ったが、先約もあったし、ナギちゃんがいるので安心できる。


 ……会いたいな。


 クリスマスの日以来、神崎さんと会っていない。


 お互いの予定が合わず、冬休み中で会えるのは明日と明後日だけになった。


 しかし、明日はナギちゃん主催の樋口さんの家で宿題を終わらせる会が開催されるので、二人きりで会えるのは明後日だけだ。


 《ライム》を通して神崎さんから写真が送られてきて会話をするのだが、その度に会いたくなってしまうのだ。


 けれども、そこで会いたいと言ってしまったら神崎さんを困らせてしまいかねない。


 そもそも会いたいとは思っているが、神崎さんと面と向かって話せる自信がない。


 メッセージだけでも嬉しくて、気が舞い上がってしまうのだから。


「あっ、室長じゃーん♪」


 座っていたベンチにぐらっと衝撃が走る。


 この中で室長と言われるのは由依だけであり、そしてクラスメイトしか室長と言わないから。


「ユウセイと健もいますよ!」


 おっと、一人わかりやすい人がいるな。


 でも、ここにいるってことは……


 最悪を想定して振り返ると、そこにいたのは三人だけ。


 ナギちゃん、樋口さん、そして神崎さん――っ!?


 顔を見ようとしたのだが、思わず目を背けてしまう。


 こんなことしたら誤解を与えてしまうと分かっているが、反射的にやってしまった。


「えー、三人で集まってるなら呼んでほしかったー」


「たまたま会っただけですので」


「クラスのやつらは?」


「くそつまらなくて高速で解散させてきた。それでちょっと聞いてほしいんだけど――」


 ナギちゃんによるマシンガントークが始まった。


 話を要約すると、男も女も異性を気にしすぎだし、一緒に来たんだからと個人行動も認めてもらえず、居心地が悪かったらしい。


「あんなチンパンジーどもと一緒にいても……この可愛い子たちは」


「私のいとこ。双子なんだよねー♪」


「ねー♪」


「うそ!? 可愛いすぎない!?」


 急に話に区切りをつけたかと思えば、ナギちゃんはアヤちゃんに興味津々なようで由依の隣に座る。


 二人に可愛がられているアヤちゃんはとても楽しそうで、お歌を歌ったり、いっぱいお喋りをしたりしている。


 そんなアヤちゃんを見て、コウくんの嫉妬が爆発するのではと視線を向けると、コウくんはりんご飴から口を離し、一点を見つめている。


「あたしかな?」


 神崎さんが自分に向けて指をさすと、コウくんは頷く。


「あたしはあまね。僕の名前は?」


「……サトウコウキ」


「そっか、コウキ君か。よろしくね」


 しゃがんでコウくんの目線に合わせてから右手を前に出してコウくんと握手をする。


 コウくんの目を見れば、神崎さんに夢中になっているのはすぐに感じ取れた。


「彼女がコウくんに取られるぞ」


「さすがにそれはない」


「まともに顔も見れないのにか?」


 くそっ、気づかれていたか……


 耳打ちしてきた健は俺の反応に面白がっているようだった。


 俺も紗季さんとのことを秘密にしているというのに……だが、健の言う通りだ。


 恥ずかしがっている場合じゃない。


 一週間ぶりに会ったんだ。


 俺だって話したい。


 けど……どう話せばいいんだ!?


「天音ばっかズルいです。天音はユウセイの相手をしててください!!」 


 え? 樋口さん、今なんて言った?


 突然の発言に健は思いっきり噴き出している。


 だが、これだけなら大丈夫なはずだ。


 悪魔には気づかれないはず……


「ちょっ、エマ!? なに言って――」


「一週間ぶりに会えたのですから、二人で楽しんできては?」


「由依ちゃんまでなに言ってるの!?」


 見る見るうちに神崎さんの顔が真っ赤になっていく。


 それに合わせて俺の顔もどんどん熱くなっていく。


 あれ? もしかして、由依も知ってたってこと?

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

前世で政略結婚した冷徹な嫁がギャルになっていた 水没竜田 @ryu108

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ