2章 ????

秘密って守るためにあるんだぜ

「おーい、高校生どもー。双子ちゃん連れて神社行ってきてくんね?」


 一万円札を持ちながら、寝間着のような格好で男は頼んできた。


 男の妹にあたる、双子ちゃんのお母さんを休ませてあげたいのだろう。


「神社って近所の所ですか?」


「まあ、そこが安心かな~」


「じゃあ、俺と悠誠だけで行くか」


「だな」


 ソファから立ち上がり、ダウンジャケットを羽織る。


 和室では俺の両親と、健や由依の親戚が昼間にも関わらず、缶ビールやワインを開けて騒いでいる。


 三が日の両親の実家への帰省が終わり、今は正月の挨拶をしに中村家に訪れている。


 親戚の集まりなので斎藤一家は部外者なのだが、俺と健が仲良くなってから毎年お邪魔させてもらっており、両親も含めてかなり気に入られている。


「コウく~ん、アヤちゃ~ん一緒に神社にお参りしに行こう」


「オマイリってなに?」


「パンパンして神様にお願いすることかな」


「おみくじとか美味しいもの食べに行こうぜ」


「リンゴアメある?」


「もちろん」


「行くー!!」


 アヤちゃんは元気いっぱいに手を上げるが、コウくんは車のおもちゃを片手にぼけーっと虚を見つめている。


 ハイテンションなアヤちゃんとマイペースなコウくんの双子で、今年で四歳だったはず。


「コウくんも行く?」


「……ユイおねえちゃんは?」


「行かないって」


「えー!! アヤ、お姉ちゃんと一緒がいい!!」


「だってよ」


 双子は目を輝かせて由依の方を見る。


 それに合わせて健もじっと見つめるが、由依にデコピンをされてしまい、額を押さえて床に倒れる。


 ちなみに由依のデコピンは本当に痛い。


 経験上、父である圭祐けいすけの次に強いと言えるほどだ。


「……行きます」


 双子のお願いを無視することができなかったようで、渋々といった様子で支度を始める。


 行きたくない理由を知っている身としては無理をしなくていいとは思う。


「たぶん、あいつらとは会わないと思うよ」


「なんでそう言い切れるの? って、悠誠に聞いても無駄か。はぁ~、会わないことを願うばかりだわ」


「ユイおねえちゃんは行きたくないの?」


「ううん、めちゃくちゃ行きたいよ。よ~し、楽しむぞ~♪」


 双子の手前、元気なフリをしているが、内心気が気でないのだろう。


 この一年の努力が水の泡と化すかもしれないのだから。


「おい、悠誠。わかってるよな」


 健が耳元でささやく。


 由依に見つからないようにコソコソとしているのだが、かえって怪しいのでもっと堂々と言ってきてほしい。


「当たり前だろ。絶対に知られてはいけない。こいつだけには……」


 俺と健には秘密があった。


 いずれバレることではあるのだが、できる限り遅延させたい。


 この悪魔に少しでも情報を渡すわけにはいかないのだ。


 遡ること、一週間前。


 クリスマスの夜のこと……


▼▽


 駅前近くのファミレスに行こうと神崎さんと手を繋いで歩いている。


 クリスマスのイルミネーションが施された駅前にはカップルやそれを妬むように睨みつける者で溢れていた。


 だが、そんなことはどうでもよかった。


 気になることは一つだけ。


 手汗やばいかな?


 心臓の音とか聞こえてたりするのかな?


 緊張で周りなんて気にしている場合ではなかった。


 肩が触れ合うくらい近いので、必然と顔も近くなる。


 念入りに手入れされていることがわかる艶のある金髪、小顔ということもあって一段と大きく見える目、真っ白とまではいかないにしても白く綺麗な肌、ぷるぷるとした潤いのあるピンクの唇……顔のパーツのどれをとっても魅力的でずっと見てしまう。


 やっぱり美人だなと改めて認識していると、神崎さんと目が合う。


「やっぱり気なるよね?」


 神崎さんは頬にできた黒い涙の跡を手で隠す。


 顔を見ないでほしいって言ってたな。


 それなのに、ガン見するのってデリカシー無い奴だよな。


「ごめん、普通に見惚れてた。これからは気をつける」


「えっ!? あっ、そっか……」


 やはり顔を見られるのが恥ずかしかったようで、耳を赤くしている。


 付き合ってすぐに相手に幻滅するというカエル化現象が世の中では流行っているらしいし、言動一つでも気を付けないといけないよな。


「あっ」


 神崎さんが急に立ち止まる。


 それに伴って足を止めると、裏道に入っていく女性の一歩後ろ歩く親友の姿があった。


「あれって、中村くんだよね」


「うん……ごめん、追ってもいい?」


「いいけど……無粋なんじゃ」


「そうだといいけど、あいつに限ってそれはないと思うんだよな」


 突然のことで驚いたが、すぐに行動しなければならない。


 カラオケの集まりが解散して約一時間ほど経っているはずなのに、どうして健が、それも女性と一緒にいるんだ。


 何か厄介ごとに巻き込まれているのでは?


 だとしたら、俺はあいつに教えないといけない。


 健と女性の後ろ姿を追っていく。


 夜道ということもあり、後ろからでは表情が見えない。


 この先は住宅地しかなく、これといった店もない。


 家に連れてかれる可能性がある以上先に声をかけるべきでは……


「ねぇ、どうして中村くんに限って女性関係が無いって言い切れるの?」


「それは……秘密にしてくれる?」


「うん。秘密にする」


「あいつ、実は……」


 二人を尾行しながら健が過去に何があったのかを話した。


 神崎さんは口が堅い人だと信頼していたから。


 話の流れで文化祭に来たイカレ女についても説明し、あの女の本当の狙いは健だったと言うと「へぇ~」と心底興味の無さそうな低い声が返ってきただけだった。


「じゃあ、中村くんは女嫌いだってこと?」


「というより、三次元が無理になっていたはず」


「じゃあ、勉強会のときとか無理させてたんじゃ……」


「本当に嫌なら何かしら理由をつけるはずだから、それはないと思うよ」


 健の女性に対する苦手意識は徐々に改善されているはずだが、完全に払拭されたわけではない。

 

 特に女性と一対一になるのを極度に嫌がっていたはず……それなのに、どうしてだ?


 健と女性は公園の中に入っていく。


 見失わないように小走りで寄ると、そこで意識外からの攻撃を受ける。


 テレンテンッテンテンテッテ!! テレンテンッテッテッテッテ!!


 スマホの着信音だ。


 だが、そんなことよりも目を疑う光景に唖然としてしまった。


 健も俺の着信音に気付いて驚愕しているようだった。


「あっ」

「えっ」


 俺の目の前で健が自ら女性に抱き着いていたのだから。




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