クリスマス会

「ご馳走様でした。今日も美味しかったです」

「お粗末様でした」


 また同じ夢だ。


 俺と目が合うと微笑んで、休日の予定を一緒に考えて、好きだって言ってくれる。


 そんな彼女から逃げるように後ずさりする優太の姿を第三者として見る。


 俺と隣の誰かと一緒に見るのだ。


 だが、誰なのかは分からない。


 振り向けるはずなのに、体が俺の意思に抗うように動こうとしないのだ。

 

 ……なんで手を取らないのだろう?


 ふと思った。


 一度は考えようとして放棄した疑問を再び考え直す。


 どうして――


 体が動いた気がした。


▽▼


「どうしたの? 話聞こうか?」


「……わかってて言ってんだろ」


「ん? 何のこと?」


 すっとぼける由依は満足そうに口角を上げ、クラスの中心に行く。


「みんな、飲み物持ったぁ?」


「おう」

「持ったよー!!」

 

「それじゃあ、今日は楽しみましょう。かんぱ~い!!」


「「「「かんぱ~い!!」」」」


 由依の音頭でジュースの入ったカップを近くの人とぶつけ合い、飲み始める。


「悠誠も、乾杯!!」


「ん。乾杯」


 智也に促され、コップをぶつける。


 コップの中に入ったウーロン茶に口をつけ、ぐるりと教室中を一瞥する。


 並べられたお菓子を食べ始める人、会話を楽しむ人、女子に話しかけられてデレデレする原西など全体が見えるからこそ気づくクラスメイトたちの雰囲気を一歩下がったところから観察する。


「盛り上がろうぜ、悠誠!」


「じゃあ、みんなのところに行ってこいよ。蒼井さんのところにさ」


「いや、行けねぇし。あそこ女子しかいないだろ」


 蒼井さんの方を見るとそこには女子だけで集まった集団ができており、男子の姿は一切ない。


 そこには神崎さんもいるため、男子たちはチラチラと他のクラスメイトにバレないように視線を送っている。


 この機会に少しでもお近づきになりたいと思っているのも無理はない。


 クラスメイトだけのクリスマス会。


 今こそ他の男子たちからリードを取りたいという魂胆なのだろう。


「女子だけで固まってないでさ、俺たちとも話さない?」


 クラスの陽キャ代表であるサッカー部の男子二人が果敢にも声をかけに行く。


「全然いいよ。みんなで喋ったほうが楽しいだろうし」


「そうだね。みんなで話そっか」


 神崎さんが答えると、近くの女子たちもそれに賛同する。


 その中には文化祭の時に神崎さんを騙そうとした女子たちもいる。


 こういうところが女子の怖いところだ。


 健の周りに群がっている女子たちの中にも険悪だと言われている女子が隣り合って仲良さそうにしている。


 表ではニコニコ仲良さそうに振舞える胆力には素直に尊敬できる。


 仕事中は俺もできたけど……


「行かなくていいのか?」


「いいよ別に。悠誠を置いていけないし、それに変わってないし」


「確かにな」


 智也の言う通り、蒼井さんを取り巻く環境は何も変わっておらず、女子だけで話している。


 蒼井さんの男嫌いが有名だからという考え方もあるが、おそらく神崎さんが気を遣って男子たちと話そうとしたことが大きいだろう。


 自分を含めた女子数人で壁を作るように男子たちと向き合って話しているのだ。


「すごい友達思いだよな。神崎さんって」


「だよな。俺にはできないね」


「そんなことねぇよ。悠誠も十分友達思いだって」


「確かにな~」


「そこは謙遜するとこだろ」 


 そんなくだらないやり取りをしながらゆっくりと過ぎていく時間を楽しむ。


 途中で小林や健、原西たちとも話し、チーム対抗レクリエーションの時間になった。


 様々なゲームをしながらプレゼント交換の優先順位を上げるべく全員が必死になっていた。


 おそらく目当ての異性のプレゼントが目的なのだろう。


 だが、俺は違ってぼーっと考え事をしていた。


 ずっと今日見た夢のことが頭から離れなかったのだ。


 あの夢の中で俺は大事なことに気づいたような感覚が寝覚めの時にあった。


 それからずっと思い出そうとしているが、何だったのかさっぱりわからない。


 おそらく、自分が神崎さんを諦めるべき理由であるはずだと予想していたのだが、しっくりくるものが思いつかない。


 身を引く決意をして彼女の前でひどいことを言った俺にとっては今更のことだし、考えたところで意味がないのかもしれない。


 けれど、知らなくちゃいけないと俺の直感は信じているのだ。 


 そこに希望があるように……希望って――


「おい、学年二位の頭脳をここで使わずにどうすんだよ!?」


 隣にいたサッカー部の陽キャである来栖が肩を揺らしてくる。


 おかげで我に返ったがすでにレクリエーションの最後のクイズが終わり、結果発表が行われる。


「ごめん、マジでわからんかった」


 俺たちのチームは俺がいるということでクイズで巻き返せると予想されていたが、そんなことはなく見事に最下位となった。


「いいよ。俺が最後で」


 せめてもの贖罪のつもりで一番最後を申し出る。


 全然気にしなくていいよと他のクラスメイトたちは言ってくれたが、活躍できなかった俺としてはそのほうがありがたい。


「当然だろ」


 来栖は俺にしか聞こえないように低い声で言うと、「じゃあ、ごめんだけど一番最後で頼むわ!」と笑顔で肩を組んでくる。


 男子も大概だなとさっきまでの自分の考えに付け加える。


 それからは決められた順番にくじ引きをして番号にあった物をもらっていく。


 誰のプレゼントなのかは秘密にしているが、人気のある人については内容が噂になっているらしく、「よっしゃー!!」とか「やったー!!」と叫んでいる者がちらほらいる。


 俺のプレゼントであるでっかいトッパは小林が大事そうに抱えていた。


 そして、最後の俺に届いたのは隣の台で俺の倍かけて獲得された刺激系菓子の箱詰めの茂樹EXだった。


「それじゃあ、二次会行く人はカラオケ集合で」


 そんな由依の声が響くと、一斉に片付けと帰る準備を始める。


 俺も机に広がったゴミをゴミ袋に入れて、捨てに行きながらそのまま帰ろうとすると、それを察知したかのように前に立ち塞がってきた。


「ありがとう、斎藤君。私もゴミ捨てに行くから一緒に行こ♪」


(え? 帰ろうとしてるの? 私が無理して頑張っているのに?)


 こうして由依の監視のもとカラオケへと強制連行されることとなった。

 

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