洗礼
くっそ、ここまでか……
仲間が一人ずつ死んでいく。
タンクとヒーラー二人が死に、残りは俺ともう一人だけ。
だが、ここを耐えなければ相手が第二関門を突破し、最終関門のみとなってしまう。
相手はヒーラーが一人死んでいて、全体的にHPは低い。
ここを踏ん張れれば、形勢逆転も夢じゃない。
やってやる!!
『りゅうしんのけんをくらえ!!』
「勝手に使うなボケ!!」
「は!?バカだろ!!」
俺がウルトを切ると、智也と小林が大声で俺を罵倒してくる。
だが、関係ない。
相手のタンクとダメージさえ落とせば、俺はMVPだ。
俺にはそれを可能にする技術がある!!
こいつらを切り刻む!!
『SLEEP』
一閃した瞬間だった。
赤い文字で表示された瞬間に体は硬直し、動けなくなっていた。
抵抗することができないまま地に這いつくばる俺は降り注ぐ電撃と銃弾によって死んだ。
「2V4で勝てるわけないだろ。舐めてんのか」
「いや、いけるかなって」
「アンナのナノブと合わせるって話しただろうが!!」
アンナの人もそのつもりだったようで名指しで『noob』とチャット欄に送ってきた。
それから、挽回を図ったものの最終関門まで突破され、萎えた味方がトロールして敗北した。
「こっちは始めて三日目だぞ!!」
「始めて三日が触るキャラじゃないって言ったのに悠誠が無視しただけだろ。大人しくリィパー使っとけ」
初日は何をしても許されたのに、一つのミスでここまで責められるとは……
これが『越見2』の洗礼なのか。
「明日からやらねー」
「なんでだよ」
罵倒されるゲームをやっていて面白いと思うほど、俺の心は強くない。
ゲーム自体が面白い分、そこが残念でしかない。
「テスト週間、勉強、がんばる」
「勉強しないとだよな〜」
「えぇ~、ゲームしようぜ」
「健とやれよ。アイツ、テスト週間をゲーム週間と履き違えているからさ」
文化祭から一ヶ月が経ち、期末テストまで残り一週間ほどの今日。
あれから、学校内での大きなイベントとしては中間テストや文化祭の打ち上げなどがあった。
うちのクラスは文化祭での売上が1位になった賞品として打ち上げ代を手に入れた。
そこで問題になったのは、サボった生徒五人に対しての対応についてだ。
これを担任に求めたところ、自分達で決めろと言われた。
投げやりだろと反発する意見もあったのだが……
「連絡をせずに欠席した者、朝の点呼をせずに出席確認を怠っていた者、その両者に落ち度がある。それを俺が一方的に裁いたところで納得しないだろ。それに、当事者同士でケリをつけたほうが
こんなことを生徒に語っていた。
公平性に焦点を当てた担任の発言だったが、生徒からは今までの言動のせいで責任を持ちたくない大人の逃げの言葉と解釈されてしまった。
結局、特に何も決まらないまま、この問題は風化していった。
風化といえば、樋口さんに対しての陰口が減ったように感じる。
中間テストで樋口さんが他の生徒と同じテストを受けて、同じ基準で赤点になり、同じように追試や補修を受けていたことで、先生達による贔屓がないと証明されたのだ。
彼女にとっては全てのテストが日本人にとっての英語のテストなので、彼女にとって楽な教科は一つもない。
ちなみに、国語系の教科は全て引っ掛かっていた。
特に古典は壊滅しており、「何の意味があんねん!!」と渾身の関西弁を披露し、ナギちゃんと一緒に神崎さんに縋っていた。
俺はというと、順位は十二位。
自分でも勉強に集中できていなかった自覚がある。
親には褒められたが、俺自身としてはあまり満足できる結果ではない。
なんとかして、順位を上げなければならない。
さもないと……
「いやぁ、期末は楽しみですね〜」
「なぜでしょうか、柊斗選手」
「三位だった斎藤選手が十二位まで落ちてきてくれたおかげで、勝てるという希望が見えているからですかね」
「なるほど。しかし、斎藤選手は前回は不調だったと言っていましたが」
「言い訳ですね。一週間ゲームをせずに勉強をして調子が悪かったというのは聞き苦しいです。まあ、悔しくて素直に認められないというのは同情しますが」
中間テストで小林は十七位を記録した。
元から要領がいい奴だとは思っていたが、ここまでできるとは思っていなかった。
ゆえに、負けたくない。
これは仲間内には負けたくないというちっぽけな俺のプライドだ。
「我々、英雄教メンバーを蔑ろにして神崎さんとイチャイチャしてた罰だな」
「…………」
「おい、なんか言えって……」
「そうかもな」
あれから神崎さんと話す機会は減った。
というより、減らした。
元々、自分からは話し掛けていなかったのだが、今は話し掛けられても適当な理由を見繕って回避することが増えた。
文化祭の打ち上げも気が進まず欠席した。
厄介な女の件はあったが、それでも俺や原西達の対ナンパの接客に感謝しているようで、女子に参加してほしいと頼まれた。
原西達は報われたと盛大に喜んでいた。
でも、俺としては神崎さんと距離を置きたかった。
そうすれば、疎遠な俺より別の人を好きになって……
自分の言葉できっぱりと言えば、すぐに解決できるだろう。
君のことが嫌いだって嘘をつけばいいだけのことだから。
後夜祭に五人から告白されたのだから、いくらでも素敵な人は見つかるだろう。
でも、言えない自分がいる。
どっちつかずのままのカッコ悪い自分がいるのだ。
「ごめん、俺寝るわ」
「はーい、おつかれ~」
「おつかれでーす」
俺は通話を抜けると、パソコンの電源を落としてベッドに寝転がる。
スマホを開くと、『侍』からメールが届いていた。
『侍』は俺が知り合ったイタリア人のオタクゲーマーだ。
とても感情豊かで、日本文化が大好き。
個人的な関わりを持つようになってから三年が経つ。
彼と話していたおかげで樋口さんが転校してきた時にイタリア語がスラスラと出てきた。
そんな彼から送られてきたのは、来年の春に日本に行くから観光の案内をしてほしいというお願いだった。
場所のリストを送ってこい、と返信して俺はスマホを閉じた。
【あとがき】
お待たせしましたゲームネタ回です。(勝手に思ってるだけ)
こういうのを書いてる時が一番楽しいです。
需要があるのか気になりますが、ちょくちょく書けたらなと思っています。
気に入っていただけましたら、フォローと星の方をよろしくお願いします。(作者のモチベーション維持に繋がります)
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