腐れ縁
パソコンの前に座り、ヘッドセットを装着してから通話用のアプリを起動し、ビデオ通話を開始する。
そのままウィンドウを最小にして、ジャンプして頂上を目指すゲームを起動。
うん、前落ちたところだな。
通話中にゲーム内VCをするとキレられるし、仲間にも迷惑がかかるので、シングルプレイの高難度ゲームをセレクトした。
夏休み前に買ったのだが、落ちる度に自分のやる気も落ちていき、永久封印の烙印を押したゲームだ。
だが、暇つぶし位にはなるだろうとのことで、インストールし直したのだ。
「おつかれ~」
ポロンという通知音と共に通話に入ってきたのは健だ。
声音からして眠たそうなので顔を確認すると、目がトロンとしている。
クラス1のイケメンの風呂上がり姿はセクシーというよりはキュートなもので、女子からしたら母性をくすぐるような雰囲気を醸し出している。
そして、もう一度ポロンという音が鳴る。
悪魔が来たようだ。
「こんにちは♡声聞こえてるかなぁ?」
開口一番、猫をかぶったようなあざとい声を出してきた。
「ぶりっ子すんなよ」
「対男子用の挨拶やってみたんだけど、可愛かった?」
「全くときめかなかった。現に健の声がしない」
「いや、起きてる。大丈夫です」
二窓にして見ているが、限界そうな顔をしている。
これでは寝落ちも時間の問題だろう。
「早速、文化祭の展示案出してほしいんだけど」
「メイド喫茶」
「先輩がするからナシ」
「お化け屋敷」
「それはアリだけど、競争率高そうかな」
「たこ焼き」
「だけは厳しいかな」
こうして俺たちは文化祭の案を出し始めた。
室長である
正直、健と俺はこんなことで自由時間を消費したくはないのだが、協力しないわけにはいかない。
「メイド喫茶」
「無理だって言ったでしょ」
「男子も着るならアリじゃね?」
「男女逆転したりすれば人集まりそうだけど」
「……貞操逆転ってこと?」
「「ちげぇよ!」」
由依は俺たちの幼馴染みであり、健の従姉だ。
そして、健が最高傑作と言うならば、由依は最強傑作と言えるだろう。
幼少期、俺たち三人はよく一緒に遊んでいた。
その頃は由依が住んでいる家も近くにあったので、頻繁に集まっていた。
その中でもおままごとはよくやった。
三人で役になりきって熱演していたと思う。
ただ、これがあまりにもリアリティを追求したものだった。
特に、由依をぶっ壊したのは不倫もの。
健と由依が夫婦で俺が愛人役。
それも、健の愛人役だ。
これからは多様性を認めていくべきということで早い段階から彼らに馴染ませようとしたのだ。
その頃は俺もノリノリだったので、健に顎クイしたり、壁ドンしたりした結果、由依の可能性の扉が開かれたのだ。
そして、もう一つ。
健と俺が読んでいた格闘漫画がある。
地下格闘技場で繰り広げられる主人公と強敵たちによる激闘が描かれていた。
由依にも面白いから読んでみろよと渡した結果、一日十巻のペースで読み進めていた。
ハマったんだなぁと思い、感想を聞くと予想していたものと遥かに異なっていた。
出てきたのはキャラクターデザインについてがほとんどで、全て筋肉について語っていたのを覚えている。
こうして高橋由依は俺のせいでBLが好きになり、筋肉フェチになった。
現在では、SNSに自身が描いた漫画やイラストを投稿している。
バッキバキのマッチョの作品より、爽やかイケメンとかセクシーなお兄さんが求められていて、むかつくとのことだ。
これだけだったら、俺たちも苦労しないし、彼女に服従しない。
「チャイナドレス」
「却下」
「ケモミミ」
「却下」
「ナース」
「却下。次に私利私欲に任せたこと言ったら、ばら撒く」
「はい、すみません……」
「健もね」
「はい、わかりました……」
由依は写真を持っている。
そこには俺たちの幼少期の恥ずかしい思い出達も含まれているが、それとは違うガチでヤバい奴がある。
「あ、書きたい構図あるから今度健の家に集合ね」
「嫌って言ったら?」
「仕方がないから拡散しようっと♡」
「オオセノママニ!」
「カシコマリマシタ!」
彼女は俺たちを写真で脅し、さらなる写真を作り出している。
基本は絵の資料として使っているらしいが、脅しの道具としても利用され、エンドレスループとなっている。
由依もちゃんと配慮してくれて脱ぐのは上半身だけだが、写真が広まったら、少なくても学園生活はお先真っ暗となるだろう。
ゆえに、由依の絵を見たことは一度もない。
俺だってやり返したいが、あいにく由依の恥ずかしい写真を保存していないのでやられっぱなしになっている。
「ていうか、俺たちだけに聞いて意味あんの?」
「あぁ~、先に選択肢絞ってから投票とかでもしようかなって思ってたんだけど…」
その方法だと早く決定しそうだが、やる気ある人とない人でしっかり別れるだろう。
クラスを一致団結するためにも案を出す時間をクラスで設けるべきだとは思う。
「多分だけど、水曜のロングホームルームとかで決める予定だろ」
「そうだけど?」
「じゃあ、後ろの黒板とかに書いていってもらうようにしておいたら?そうしたら、みんな書きやすいだろうから」
「じゃあ、そうする。男二人に聞いててもこれ以上なかなか出なさそうだし、一人寝てるし」
「だな」
画面を見ると、腕を枕にしながら寝ている姿が映っている。
「変な癖ついちゃったね、健は」
「そうだな。まあ、部活動で疲れていたから仕方ないと思うけどね」
「じゃあ、二窓にしてゲームしてるのも仕方ないの?」
「スゥーーーー、……すみません」
こうして俺は有名コーヒーショップのクーポンを奢ることとなった。
翌日の放課後、クラスの後ろの黒板を見ると、様々なアイデアが並べられている。
着ぐるみ喫茶、パチンコ、カジノ、バニーなど三人では出なかったアイデアも沢山ある。
あとはクラス全員が一つになれるものを明日に話し合えば、自然と落ち着くところがあるだろう。
あとはこいつに教えるだけだな。
「お前が勉強できて良かったって初めて思ったわ」
「おう、そうか。喋ってないでペンを動かせ」
智也の隣に座り、彼が数学の問題を解き終えるのを待っている。
今日の昼、真剣そうに俺に頼み込んできたと思ったら、数学を教えてほしいとのことだった。
なんでも、親に隠していた小テストの点数がバレて怒られたらしい。
今回の小テストで赤点だった場合、パソコンを没収されるらしい。
智也は宿題はしっかり出すが、写経という名の丸写しなので学力が定着していない残念なタイプだ。
「全然わからん。これどう解くん?」
「……これは定義からおさらいかもな」
「マジかよ…、しんどいって」
力を失ったように額を机にぶつける。
ガンッと痛そうな音がなったが、そのまま伏したままだ。
ちなむと、健はまあまあヤバそうだが、赤点は取らないくらいには勉強しているはずで、小林は意外なことに……
「柊斗のやつはできるんだもんなぁ」
「あいつは天才肌だからな」
小林は勉強ができるのである。
毎日コツコツというよりは大事なタイミングでしっかりやるタイプなので、要領よく高得点を取っている。
今日はバイトのようで、授業が終わるとダッシュで自転車置き場に行ってしまった。
「まあ、二人で頑張ろう。それで明日、一緒にゲームしようぜ」
「おう、本当にお前がいなかったら…俺……」
「うん、そういうのいいから早く解け」
こうして男二人による勉強会が始まるかに思えたのだが――――
「ねぇねぇ、斉藤達さぁ、一緒に勉強しない?」
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