第32話

 人気投票の結果は、凡そ予想通りだった。

 女子の中では花音が一位、次いで石倉……そして健闘したお嬢様の順に並んだ。


 最後、那由多に一票が入っている事を二度見する。

 那由多も運動大会で活躍はしていたけれど、上位三名が同じクラスでは、仕方ない。


 そして男子の順位。想定通り不知火が一位だったが、何故か俺に三票入っていた。

 優しい花音が入れてくれて一票、他に宛が無かった那由多が一票。


 しかし最後の一票が見つからない。シュレッダーの一票だ。


 運動大会で悪目立ちしてしまったから、誰かがふざけて入れたのかな。

 朝から教室は人気投票の話題ばかり。皆、誰が上位にくるか予想を立てている。


 まだ俺以外は結果を知らないから、気になるんだろう。


 温かいドリンクを飲んで落ち着いていると、前の席が目に付いた……小野塚もまたソワソワと落ち着く様子がないみたいだ。


「な、なあ笹江」

「何だよ」

「俺の順位聞いてないんだが……」

「…………」


 0票を突き付ければいいのか?

 絶対に慰めにはならず騒ぐのが想像に容易い。


「確認したいなら発表まで待てよ。煩くならないように発表時間は昼休みが終わる五分前に指定しておいたから」


 一応、小野塚にも集計結果を共有すべきだったが失念していた。

 集計に加え掲示板に載せる準備をしていたら、夜も遅くなっていたからな。


「何々~? 小野塚も運営なのに、集計全部秀吏にさせたってことかな?」

「うるさっ……運営様は忙しかったのに見下しやがって」

「逆に小野塚って何したの?」


 石倉からの鋭い指摘。

 いや、集計自体にはそんなに時間のかかる作業ではなかったし、加えて投票箱は俺が持っているから小野塚の作業量は仕方ない。


「昨日、放送を担当していただろ! 何も仕事していないように言わないで……」

「あっ、素で忘れていた……純粋にごめん」

「……謝罪が逆に俺の心をじわじわとすり削っていくーっ」


 小野塚が傷付いているけど、以前より平気そうだ……小野塚のメンタルは成長している。


 一見仕事していないように見えるが、裏ではSNSで人気投票についてわかりやすいように事前説明を広めてくれたりしていた。


 そういうところを言えばいいのに、謙遜か?


「小野塚、お前が縁の下の力持ちだってこと……俺だけは知っているから」

「ふざけんな! もっと広々と伝えてくれよ!」


 じゃあ自分で誇示しようぜ……那由多みたいに他人に気付かれたいタイプ?

 男の繊細な部分に気付くと、逆に言いたくなくなってきた。


「広報は元から小野塚担当だっただろ。自分でやれば良かったじゃないか」

「他人事みたいに思っているだろ! まるで俺が承認欲求の塊みたいじゃないか!」

「それは……そうか」

「臆病とも言えるけどね」


 俺は納得したのに、那由多が追撃の一言を呟いた。

 澄ました顔で言っているから煽っているつもりはないんだろうけど、小野塚には効いている様子が見られる……不憫なので帰りにアイスでも奢ってやろう。


 那由多が会話に加わると、石倉が嬉しそうに声をかける。


「ねえねえ、そんな事より那由多は人気投票について気になるかな? かなかな?」


 困った顔を見せる那由多。和解するとは言っていた気がするけど、こうまで馴れ馴れしくされるとは思っていなかっただろう。


 露骨に話しかけられたくなかったと言いたげな顔をしているが……苦手なのだろうか。


「気にはなる……まあ、あたし自身に順位が付くとは思えないから、一般人目線」

「ふーん。それだけ?」

「友達の……花音や空奈の順位は、気になっている」


 無難な回答をしておく。

 お嬢様については、期待通りの結果になっていればいいかな。


「そっか、仲良い子は気になるか~。確かに私は那由多の順位気になるかな」

「は? ど、どうして?」

「私は過小評価していないってことかな。私の知らない所で、秀吏とどんな話をしたのかも気になるし……ね?」

「え、知らない所って、どうして石倉が……」


 那由多がその言葉に目を丸くして驚いているが、俺も一瞬震えた。

 何か疑っている? 他人を装えているはずなのだが。


「私のこと石倉って……前に和解の印で下の名前で呼んでくれるって約束だったんだけどな~。ていうかそこ戸惑うとこ? 保健室での話だよ?」

「え? う、ううん。それはほら……昨日言った通りだけど?」

「本当にそれだけかな~? 気になるな~」


 本当に気になっているのだろうか。

 つかみどころがない。


「それだけ! 自分の順位でも心配したら?」

「うーん、順位にはあんまり興味無くなっちゃったかな」

「なら、あたしの順位もどうでも良いと思うけど?」

「それは別腹みたいな……ってあれ、一時限目って移動教室?」


 話の途中だったが、教室から出て行く生徒を見て気付いた。

 そういえば、今日の化学は実験室で行うと事前に言われていた事を思い出す。


「急いだ方が良さそうだ」

「ははっ、どうせ何人か遅刻だぜ?」


 小野塚が楽観的にそう言う。さっきまで凹んでいたのに、復活早いな。


「そんなだから、やる気のない奴だと思われているんじゃないか?」

「マジか……そうかもしれねぇ。俺達も急ごうぜ」


 何だかんだ、小野塚が羨ましい……ストレス消化が早いところが特に。

 柔軟と言えなくもない考え方で、どうも憎めないと思った。

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