第16話

 教室を出た後、私はいつも通り少しお高めのメニューを注文して先にテーブルを陣取っていた不知火と大橋の元へ行く。


「新しい席でも仲良くしているみたいじゃねーか、石倉」

「冗談よして。本当にそう見えたなら目が腐っているから病院行ってねー」

「まあまあ、開口一番喧嘩腰はやめようよぅ。不知火くん……何故かさっきから機嫌悪いんだ。どうしてかなぁ」


 癖の強いグループ。別に仲良しという訳ではない……私はただ話し相手が欲しかっただけで、適当に選んだこの二人が個性の強い連中だったに過ぎない。


 不知火は顔が良いだけでとんだ地雷男だし、大橋は天然。


 私だってもっと平和な昼食にしたかったし、出来れば友達は選びたかった。クラス内でヒエラルキーは高い方だと思うのに、どうしてこうなった。


「不機嫌ってどうして? 珍しいじゃない」

「さぁ、好きな人が遠くの席だったからとかじゃない」

「何その面白い話。って、あんたの悪知恵があれば席替えくらい操作できなかったの?」


 学年内で彼が散々暗躍していることは知っている。良いこともあれば悪いこともあると、不知火本人が言っていたことだ。


 まあそういう悪いことを自慢したくなっちゃうお年頃なのかもしれないけど。


「席替えともなると、どうにもならねぇ。てか、大橋てめぇ言うなや」

「ごめんごめん」

「ふうん。んで、狙ってる相手って?」

「香崎花音。これでも結構本気だぜ」

「へぇ、あんた香崎狙いだったの。ああ、どうして塩峰空奈を諦めたのか不思議だったけど、ようやく合点がいった」


 以前、不知火は塩峰空奈に近づこうとしていたけど、何故か毎回失敗してある日からばったり関わろうとするのを止めた。


 ふーん、香崎花音……お人形みたいに可愛らしいしね。


「でもそう……運が悪かったのね~。日頃の行いが悪いからかな」

「はっ。席については想定内だ。こんなことで諦めたりなんてしねぇよ。やりようはある」


 そう言って不知火は悪い顔をする。


「運動大会の後、人気投票やるだってな」

「みたいね……私は興味ないけど。それがどうしたの?」

「ジンクスがあるんだよ」

「……ああ。毎年の恒例? 伝統? で男女の一位同士が付き合うんだってね」


 先輩から聞いたことがある。ただの噂話だし真に受けなかったけど。


「え……そんなロマンチックなもの信じているわけ?」

「雰囲気作りの大切さがわからねぇとは。だから彼氏の一人もできないんだよお前は」


 プッツンきた。


「というか、香崎さんは勝てるの? あたしが一位になる可能性もあるのに」

「ああ、だからどうにかして一位を避けろ」

「はぁ?」


 意味不明な要求に、あたしは素っ頓狂な声を零した。


「お前のことが好きそうな男探して、誘導すりゃいいんだよ」

「私にメリットないし、断るかな」

「じゃあ運動大会だ。あれは運動できるお前のアピールチャンスだろうし、下手を売ってくりゃそれでいい。安いもんだろ」

「なんで私がそんなことしなきゃいけないのかな」


 アピールできる機会を自分から手放すような真似はしたくないし……不知火への当てつけで面倒くさいけど頑張ろうかな。


 気にしなくたって、塩峰さんとか私より運動できる子はいる。他には黛も良い方だけど……まあ黛の方はものぐさなのかやる気を感じないか。


「……二人とも一位で良いと思うんだけどなぁ」


 大橋が面倒臭そうな話を始めようとする。


「馬鹿は黙ってろ。金やるから今すぐ飲み物買ってこい!」

「あ、これパシリだぁ。きっとクラスのみんなに教えてあげたら、不知火くんの人気下がるんだろうなぁ」


 大橋はさり気なく煽ったけど、不知火は余裕そうな顔をしている。


「ワイルドでいいじゃねーか。むしろ好感度上がるぜ? そういうのがいいんだよ」


 こいつも馬鹿だ。私以外、馬鹿しかいない。きっと不知火はそれでも今回の投票、男子の中で一位を取るんだろう。けど付き合いたくない男子ランキングがあったら断トツ一位だ。


「何でもいいからさっさと買ってこい! 値段は後で言えや」

「わかった!」

「あっ、私のもお願い。寒いからココア買ってきて」

「はいはぁい」


 ついでに頼んだら快諾してくれた。

 二人きりになった不知火に何か言われる前に、先制して適当にケチを付ける。


「何でもいいって、適当に生きている男の常套句よね」

「けっ、お前本当に可愛くねぇよな」

「あんたは彼女作っても同じこと言いそう。もっと褒めることを覚えたらどう?」

「俺は一途だから、好きな女以外褒めねぇんだよ」

「きっしょ」


 心の奥底からの本音が漏れた。シカトすれば良かった。

 もう……明日からは弁当作りをしてみようかな、と少し検討した。

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