第17話 アイザックさんの心残り
そう思ったら、とたんに膝がカクンとなって、尻餅をついた。
グゥッってお腹が鳴る。
そういや朝から何も食べてなかったんだ、もう一歩も歩けない。ジェシカおばさんがママに電話してくれて、お昼はおばさんの家で一緒に食べることになった。
アイザックさんの幽霊は、おばさんが料理を作る間ずっとそばに立って、優しい目でおばさんを見ていた。死んでからずっとそうしてたのかな。一ヶ月も?
人間て、みんな死んだら見えないだけで、大好きな人のそばに幽霊になって立っているものなのかもしれない。
そして、心残りがあるといつまでも天国に行けなくて、本当の幽霊になっちゃうの。だから神様は、死の際の祈りを特別に叶えてくれるのかもしれない。
そうしないと世界中幽霊だらけになっちゃうものね。
もし、今まで死んだ人が、みんな幽霊になってこの世に残ってたら、幽霊でギチギチの世界になっちゃう、こわいよー。
だけどアイザックさんの心残りって何なんだろう?
ジェシカおばさんのお手伝いをして、洗った食器を拭いて食器棚にしまおうと思ったら、あれ? 洗いカゴはあるけど、食器棚がない。廊下や隣の部屋にも段ボールがいっぱい。
そうだ、ジェシカおばさんは、家を売って引っ越すことになってたんだった。
この家は、ジェシカおばさんとアイザックさんが結婚して建てた家。二人はとっても仲良しだったけど、子供には恵まれなかった。
一年前、おじさんは脳梗塞で倒れた。お医者さんは、植物状態で意識は戻らないと言ったけど、おばさんは諦められずにつきっきりで看病を続けた。
だから先月おじさんが死んだ時、病院に借金がたくさんできてしまったのだ。
「あの人が死んで年金も半分になるしね、とてもこの家を維持していくことができないの。あぁ、でもあの証券さえ見つかればなんとかなるのにねえ」
昔知り合いに頼まれて買った、IT関連の会社の証券が見つからないと言うのだ。
「ものすごく値上がりしてて、あの人ったら喜んでどこかに隠しちゃったの。泥棒に取られないようにってね。そして、そういう大事なことをいつも私に言わないのよ。あの物置の南京錠の番号みたいにね。
わかってみたら1205、十二月五日。私の誕生日じゃない。あの人らしいわ」
そう言って南京錠を握り締めて泣きそうになっている。
行方不明の証券、きっとこれがアイザックさんの心残りなんだ。
午後には不動産屋さんが来て家具を引き取り、明日には引っ越しだと言う。
この家のどこかに証券が隠されているはずなのに。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます