第18話 証券があった!

「おばさん、あたしと一緒にもう一度探そう。今日のあたしはすごく冴えてるから、猫の時みたいに奇跡が起こるかもしれないよ」


 お腹もいっぱい、元気もいっぱい、おまけに神様までついている。

 あたしはおばさんと一緒に部屋を回って探しだした。 


 証券は紙だから薄っぺらくて、どこにでも隠せちゃう。

 その上おばさんは思い出が胸に詰まって、なかなか作業が進まない。

アイザックおじさんの幽霊は、黙ってかあたしたちの後についてくる。

 最後に、今日引き取ってもらう家具のそばに来た時、初めてアイザックさんが動いた。

 それは、ジェシカおばさんがお嫁に来るときに持ってきた、たくさん引き出しのついた立派な鏡台だった。その一番下を指差している。


 あたしが引き出しの取っ手を掴むと

「中は空っぽよ、全部調べたもの。ねぇもうやめましょう。散々探したんだもの」ジェシカおばさんはあきらめムードだ。


 でもアイザックさんは、引っ張り出せと必死に手を動かしている。あたしは、思いっきり引き出しを引っ張った。抜けた! 勢い余って尻餅をつく。


 放り出された引き出しの裏側には、茶色の書類を入れる封筒が、テープでがっちり貼り付けてあった。これだ! 

 引き出しの裏なんて誰も気にしない。まして一番下なんて、引き抜かない限り見えないもの。


「まぁこんなところに! アナありがとう。今日はなんていい日なの」

 ジェシカおばさんは泣き出した。


 アイザックさんは、お祈りの時の形に手を握り、あたしに頭を下げて消えた。きっと安心して天国に行ったんだ。


 散々探したので、もう三時のおやつの時間。

 ジェシカおばさんは、お礼にたくさんスコーンを焼いてあたしにくれた。


 おばさんのスコーンはおばあちゃんのとおんなじ味がした。 アガサおばあちゃんに教わったレシピなんだって。


 狼の口がパックリ開いた(スコーンの裂け目をこういうの)

ほかほかのスコーンをかじりながら、スキップして家に向かう。


 今日は本当にいい日だ。これでダニエルおじさんが帰ってきてくれたらな。


 角のバス停のとこまで来た、もうちょっとで家だ。

その時、高校生くらいのきれいなお姉さんが立っているのに気がついた。


 影がなかった。


「もしかして、ダイアナさん?」

 お姉さんはうなずいた。


 ダイアナ・ロー十七歳、自殺。

 おばあちゃんの隣のお墓の人だ。

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