第3話 初めての経験
「我は復活したのじゃぁ!!!」
3000年ぶりに出した生声、第一声は自己主張そのものだった。
どれだけ勢いよく起き上がったのか、淡を覆っていたダンジョンの壁の一部である大きな岩が狂人化したツヨシに向かって吹き飛ぶ。
ズドーーーーンッッ!!!ガチンッッ
岩はツヨシの頭に直撃し、頭の鎧にぶつかる鈍い音が鳴り響いた。そのまま真後ろに吹っ飛んで倒れる。
飛んでくる細かい岩の破片から身を守るために反射的に両手で身を守るユウカ。
「きゃあぁあぁ!?!?」
突然の出来事に悲鳴をあげる事しかできなかったが、おかげで正気を取り戻す。
淡の声で発されたが、口調が「淡」ではなく、ユウカは
淡の瞳は黒色から蒼く透き通った色に変わっていた。
「お...?何じゃぁ?ふん、この肉体は本当にハズレのようじゃな...よりによって下等な人間に...まぁよい...。サタンを問い詰めるとしよう...」
ルシファーの独り言から、さっきまで淡に話していた"無害のフリ"は淡の身体を乗っ取る為の演技だった事が分かる。
「ま....待ちなさいよ‼︎アンタ何?ウチの"荷物持ち"をどうしようっての!?
淡に嫌味ったらしく、男を利用する"ユウカ"の姿ではなかった。
ユウカに振り向き首を傾げる。
「ん?何じゃ?我が
言いかけた時。
淡は復活してから、一部始終を幽体で自分の身体を3人称視点で見ていた。
「コイツ....!俺を利用して出る気しかなかったんだな!?」
激おこだ。
「このやろぉおぉおおぉおお‼︎‼︎」
淡は幽体で自分の身体を引っ張った。
すると薄らルシファーの幽体が淡の身体から引っ張り出すことができた。
「や、やめろッッ何故じゃ!?人間の癖に幽体のままでなぜ居られる!?受肉した我を肉体から剥がすことができるなどッッ.....!?」
「どけぇえぇええ‼︎俺の体を、俺の人生を...‼︎返せぇえぇ‼︎」
ルシファーの首を掴んで剥がし、入れ替わり様に自分の身体に入る。
「何じゃ‼︎お前は!?この魔王である我が何故、、、お前如きに....‼︎」
淡は気合いのみでルシファーから身体を取り返した。
自分の身体を両手で触って確かめる。
「この感触....戻ったのか...?」
刹那、明らかな違和感を感じる。
「こ、これって....魔力か...!?しかもこんなにも....‼︎」
浮浪者が突然、1億円を手に入れるようなものだった。欲しいと思っていた力が手に入る。人が大金を手に入れた時の感覚と一緒だった。何でもできる。これが俺の力。溢れる万能感は自分の内側に存在する魔力から来るものだと直ぐにわかった。
「だ、だん....?自力で戻ったの...!?」
ユウカは"大神淡"の独り言を聞いていただけだったが、話していた様子から淡が身体を取り戻したと察した。
俺はあたり一面を改めて見渡した。周りの物にも魔力が溢れているのが感じられる。
ダンジョンそのものにも魔力がある....
ユウカの魔力はこのくらいの大きさで....
俺にある魔力はユウカの比にならないくらい大きい...でも何でこんな力...俺の中に....
あっ、"ルシファー"のか!?
淡は背後の狂人化したツヨシの気配に気づく。
「ダン!後ろ‼︎」
ユウカが淡に危険を伝えるよりも早く、淡はツヨシの剣の一振りを避ける。
ツヨシは淡の背後から、胴体を真っ二つにする勢いで思いっきり左下から右上にかけ長剣を振り奇襲を仕掛けた。
ブゥバンッッッ!!
ツヨシは狂人化の影響で馬鹿力になっており、長剣を振った音とは思えない程分厚い音を鳴らした。だが、淡は華麗に上半身を右に捻り長剣をかわす。
その動きは武術の達人のような域に達していた。
!?
えぇえぇ!?避けれちゃったんですけどぉおお!?なに「ブゥン」って!?ってかツヨシ!?モンスターみたいな顔になってんだけど!?どゆこと...!?!?
ユウカも淡の華麗な動きに驚く。
「スゴ....」
淡はかわしながら、一歩下がると"何か"に躓く。ユウタの死体だ。血の気が引いた。
自分の事で精一杯だった為、気づかなかった。
「え....おいおいおい....これツヨシさんがやったんですか.......!?」
淡はユウカを見て問う。
ユウカは無惨なユウタの姿を見てダンジョンに連れてきた責任を感じ、言葉が出ず頷く事で返事をした。
「イッショにヤロウぜ...ッ...フッッーー」
ツヨシはブツブツ独り言を挟みながら息を荒げ突発的に襲いかかってくる。
「ジャマァ...!スルゥナァァアア!!!!」
淡は新たな感覚である魔力、そしてその流れ、日々の鍛錬からくる運動神経で攻撃の立ち筋を予測し難なくツヨシが振る長剣をかわす。
「何の邪魔なんだよッッ!?アッブ!やめろよ!ッッー」
ツヨシの猛攻撃がついに淡に当たりそうになると淡も余裕がなくなり避けきれないと察し咄嗟に右拳を顔面に入れてしまう。
ドゴォンンンン‼︎
ブシュッッッッーーーーーー!
爆発音だった。パンチでツヨシの頭が吹き飛び、首から大量の血が吹き出て、倒れる。
「うぁあああああ!」
「きゃあああああ!」
淡もユウカもツヨシの血を浴び、悲鳴をあげる。
真っ暗な洞窟でユウカ達が持ってきた松明3つが乱雑に転がり所々明るく照らす中、2人の叫び声だけが鳴り響いた。
ーーーーーー
ーーーー
ーー
ー
ダンジョンの岩砂や土埃で小汚く血塗れになっていた淡とユウカはお互いに一言も話さず、5m程距離をとって30分近く壁の端っこに座っていた。
その近く直ぐそばにはユウタとツヨシの死体が横たわっており、淡は初めて人を殺した事にずっと手が震えていた。
それを見ていたユウカが先に口を開く。
「ごめんなさい.....さっきは...ありがとう....。」
「え...?」
淡は初めてユウカの弱った口調を聞いた。
ユウカとは1年前に冒険者協会から提出される『依頼クエスト』で知り合い、度々ミッションを共にする仲で、その時はいつも憎たらしく馬鹿にしてきて偉そうにしていた。どんな失敗も自分の非として認めず、いつも誰かのせいにしていた。そんなキャラが謝罪と感謝を伝えてきた事に驚く。
「え....あ....こちらこそ...すみません....」
19歳の淡は23歳のユウカに敬語を続ける。
「もう...1年くらいにもなる付き合いなんだから...敬語はよして」
軽くクスッと笑いながら、話をするが声のトーンの低さから相当メンタルにきている。
「あっ、じゃぁ、徐々に...。」
黙っているとおかしくなりそうで、ユウカは続けて色んな質問をする。
「あの力...魔力に覚醒したの...?あの達人みたいな動きとか...パンチの威力とか...近接格闘の
経緯を聞かれて、さっきまで忘れていた"ルシファー"の事を思い出す。
「いや...そう!ルシファー!ってやつが...!あいつが、」
「あぁ...ルシファーね...なるほどね...」
話をしているのを遮ってユウカは相槌をするが、その目はボーっとしていて意識が何処へ飛んでいっている。
ユウカは質問した癖に話を全く聞いていなかった。そもそも、今いるこのダンジョンの"精神を狂わせる効果"が続いているのかもしれない。そう思った淡は脱出方法を相談する。
「ここからどうやって出ようか....」
「そりゃぁ、ダンジョンボスを倒せば出られるじゃろ」
!?!?
いつの間にかユウカと淡のちょうど間に、気怠そうに座り込み話し出したのはルシファーだった。
冒険者エボリューション! Aze @Azeworld369
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