第2話 我の名はーーーー

 空気は冷たくヒンヤリとしていて、体の疲労もピークに達していたはずだが、目の前のあり得ない出来事にそれを忘れていた。


 そう、俺は洞窟ダンジョンで迷子になった。

 一本道を進んでいたのだから、あり得ないが...

 100歩譲って迷子はありえる。でもダンジョンでこんな美少女に会う!?

 薄い青色の長髪で小学生くらいの美少女の服装は、髪の色と合う青と白色の派手なドレスを着ていた。地球の文化にある服ではないのが伺えるが、こんな洞窟で着るような服ではないのはわかるくらい。

 そして、少女の頭には小さな角が2つ生えており頭の上、左右に青色の炎がユラユラと灯火が浮いている。絶対人間じゃない。

 そもそも人類と意思疎通ができるような異界の扉ゲートからの使者は噂だけの話だ。

 他にもそのような種族がいるのか...?


「お主、なぜここまで辿り着けたのじゃ?」

「なんだと!?生きて本物のじゃロリと話す時がくるとは....ッッ!」

「ノ、ジャ、ロ、リ...?なんじゃその言葉は」

 のじゃロリは不思議そうな顔をする。

「王道の返し、バッチリです!!!」

 淡は思わず、ありえない状況とアニメにありがちなシーンに興奮する。


 暗い洞窟の中、のじゃロリをよく見ると首と両手両足に鉄製の枷がついており、枷から重そうな鎖がたらんと垂れ下がり、それぞれ壁に大きい杭で固定されている。のじゃロリはそれを全く気にしていないかのように気だるそうに壁にもたれ掛かっている。

 これだけ大掛かりなもの....少女につけるものとは思えない。

 少女が体勢を変えようとしたその時だった。


 ギギギギ、ガガガガガ、ガッチャン...


 鎖が大きな音を立て、洞窟内に鳴り響くと壁一面に魔法陣の様なものが"ヴゥーン"と鳴り薄ら光を放って浮き出て来た。何かかが作動しているのか?あと、音的にも凄まじい重さなのが伺える。

 さっきから聞こえていた音の正体はこれか....。


「なんじゃ、そんなジロジロと見て。我の美貌に見惚れたか?」


「確かに可愛いとは思うけど....もうちょっと大人になってくれないと...あと胸が大きい方がタイプなんだ。ごめん。」


「何がごめんなのかわからないのじゃが...ふん、生意気な奴じゃ、こんな風にか?」


 煙がポンッと一瞬巻き上がり、のじゃロリの全身を覆う。

 顎が外れるかと思うくらい、驚愕した。先程のロリっ子が、そのまま大人になった感じで、セクシーな体型と容姿に変わったのだ。


「えぇえええぇえええ!!ど、ドタイプすぎます、すみませんでしたぁああ!お姉様!!!」

 俺は土下座をした。崇めなければならないと直感がそう言っている。


「うるさいのじゃ」


 そういうとポンッと先ほどと同じ煙が舞い上がり、のじゃロリに戻る。


 淡は無言でむすっとした表情をし、悪態をつく。

「ケッここから先は別料金ですかぁえぇ?で、幾らなんですかい...?」


「あからさますぎじゃろ!まったく...」

 のじゃロリがクスッと笑う姿は微笑ましかった。


「ほんじゃ、また何処かで〜さいなら。」

 颯爽と帰るそぶりを見せる。


「いや待て待て待て〜!話をしろ!名前も聞かずに何処に行くのじゃっ、えっちなサービスもしてやったではないかッ!」


「はぁ!?あれの何処がぁ!?如何にも捕まって封印されてそうなやばい奴の話なんて聞きませんから!」


「そんな事を言うでない〜。我はな、今となっては憎き同胞の裏切りによって、かれこれ3000年近くここにおったのじゃ。ここに辿り着く者なんて3000年もおらんかったのじゃ....久しぶりに話したいよう...」


 淡は、目をきゅぴきゅぴさせてぶりっ子をする"のじゃロリ"を全力無視して、話を進める。


「え、さ、サンゼンネン....?何歳なの、アナタ。」


 マヌケな顔をして質問する淡を笑いながら答える

「くはははッ、8369歳じゃ!年上お姉様じゃぞ!」


「ほんと、何者なんだ...お前は...」


「お?よくぞ聞いてくれた!聞いて驚くが良い!!我の名前は....」


 ーーーーー


 一方その頃、音の正体を探る為に奥へ進んでいたはずの3人も迷子になり、長時間歩いていた。


「ちょっと......真っ直ぐ引き返して来たはずなのに、松明置いて来た所に辿り着かないってどうゆう事なのよ!」

「結局、奥にすすんでも変な枷と鎖があっただけだったし...あいつ、松明消して全部横取りしたんじゃねぇか!?」

「出たらただじゃおかねぇ!!!」

 ユウタとツヨシは完全に怒りの矛先を淡に向けてストレス発散をしていた。


 ユウカは焦りながら先頭を歩く。

 3人は1時間ほど歩いていた為、段々と正気を失っていく。

 ユウカの後ろを歩いているツヨシがユウタを片手で静止を促し、ユウカと少し距離を取り会話をする。

「おい、ユウタ、ここに連れて来やがったのユウカだよな...」

「う、うん...」

「もし、このまま出られない状況になったら....アイツのせいだ...ヤっちまおうぜ....」

「はぁ!?......な、何をだよ...」

「わかってんだろ?お前はいいのか?このまま死ぬくらいなら...な...?美味しい思いをして死んだ方がいいだろ...?」

 ユウタは唾をゴクリと飲み込み、無言で頷く。

 2人は明らかに、理性を失い、目の瞳孔が開き、その前の性格とは全く異なる性格になってしまっていた。

 焦りからかユウカは2人を気にせず、どんどんと前に進む。その時だった。

 ユウカが洞窟の奥にユラユラと燃える松明が見つかる。

「あっ!!!....灯りよ!2人とも!見て!」

 3人は走って灯りの方へ向かう。

 そこには淡が大荷物と一緒に倒れダンジョンの壁に埋もれかけている姿があった。顔の色は青白く、息をしていない。

「ダン!?!?」

「こいつも迷子になってたのか...」

「まてよ...なんでコイツ岩に埋もれかけてるんだよ....」

 ユウカは淡に近づき、顎を片手で持ち首筋を調べると何かに気づく。

「ダン....紫色の血管が沢山浮き出てる....高魔力障を引き起こしてるわ....魔力に耐性がないから急な高魔力で気絶したんだわ....ここは高い魔力が行き交う不安定な場所って事になるわ...」

 高魔力障は魔力に対応できない人類にとって天敵のような障害であり、軽度から重度まで幅広く、その原因と治療法は確立されていない。新たな医学会でも日々議論されているものだ。


 淡はまさにダンジョンに喰われ養分となりかけていた。

「何がどうなってんだ...!!」

「俺らもダンジョンに喰われるのか...!?」

 余計に取り乱す3人。

 洞窟内には3人の声だけが鳴り響く。


 ーーーーー


「我の名は魔王ルシファーじゃ!!!」


「魔王!?ルシファー!?!?」


「え、本当に驚くのだな...見るからに異世界の者じゃろ....?知っておるのか...?」


「いやぁルシファーって言ったら、こっちの世界では、わっっっるい悪魔の事だよ...!忌み嫌われて、サタンの息子?だったっけ...?口にするのも恐れられている存在だよ....そもそも男じゃなかったっけ...諸説あるけど...」


「なんじゃと!?サタンは我の弟ぞ!?それに我は女じゃぞ。同じ名前なだけかもしれぬぞ...?いや、サタンが裏切ったのか...?ぐぬぬ.....」

 魔王と名乗っているのを聞くと、俺らが知っている一般常識の存在「ルシファー」と似た存在という事はなんとなくわかる。ただ、その詳しい背景は大きく異なりそうだ。果たして、地球の神話は何を元に作られたのか.....気になる....。

 淡はワクワクを抑えれなかった。


「お前、悪い奴なのか...?」


「なんじゃその質問は。我が悪とすれば善はどうなるのじゃ。神の奴らか?あやつらはまさに神出鬼没。自らの行動のせいで災害が起こっても気にもとめず、気が向いた時のみ現れる。あやつらこそ悪じゃろう!?全生物を統治していたのは我じゃ!まぁ、イラつく人種族の者達を虐げた事は何度もあるがな。ガハハハ」

 ルシファーは聞いてもいない事まで、まるで今までの鬱憤を晴らすかのように話す。


「そう言われれば...そうだな...神って存在するのか....ルシファーは凄い存在だったんだな...!それなのにこんな仕打ちは悔しいな...。神を1発殴ってやりたいな!」


「そうじゃ!我は魔王じゃ!神を殴る....ガハハハ!いいぞ!面白い人間じゃな!名乗ることを許す!名はなんというのじゃ?」


大神淡おおがみだんだよ。ダンって呼んでくれよ!友達になろう!?」

明らかな大物を相手に、淡は何か企てれる気がしてくる。


「トモダチ?それは契約か?何を対価にするのじゃ?」


「なんだよ契約って...強いて言えば契約より堅い絆だぜ!!!」


「ほぉ...3000年経った外の世界は色々と変わってそうじゃの...」


「それで...俺、外に出たいんだけどさ....」


「ほう....ダンは外に出てどうするのじゃ?」


「俺は冒険者(心は)なんだ!この世界を知りたい!絶景を見たり、色んな場所へ行くんだ!!!楽しい仲間達とワイワイやって死ぬまで生きていくんだ!」


「ほうほう、、楽しそうじゃな。そうゆう欲望は我の好物じゃぞ。」


「おっ!わかってるねぇ!!お前...人類滅亡させたり、悪い事しないって約束するなら、ここから出る為の協力するよ!?」

 淡は初めて自分の夢と欲を理解してくれる相手ができて、嬉しく思う。

 ルシファーに邪悪さを感じない淡は軽々しく提案をするがルシファーは出ることに執着していない様子だ。


「だが残念じゃな。」


「何が?」


「お主、死んでるもん」


「はい.....?????」


 ふと自分の姿を見ると先程まで握っていた荷物や短剣が無くなっており、さっきと同じ服装だが、自分の体は少し透けていた。

「は、、、、なんで、、、、俺....」

 数刻前、突然気絶する瞬間を思い出す。

「あっっ、、、なんで...そんな..まだやりたい事が...」

 頭が混乱し、ぐらぐらと視界が揺れる

「ここは我の牢獄じゃ。この迷宮は我そのものと言っても過言ではない状態に近づいておる。入った者を永遠に閉じ込め迷わせる。迷った者の魔力を媒体とし、やがて欲望のままに生きる生物へと成り果てさせる。と言ったところじゃろうか....?」


 淡々と説明するルシファーが気づいた。

「はっ!?お主もしや魔力が無いのだな!?」


「え?あっ...うん、、魔力を感じる事もできない....パーティの荷物持ちでここに入った...」


「冒険者などと大それた事を言っておったが魔力も無しに言っておったのか!赤子でも少しは持っているのだがなガハハハ!それでここまで来れたのだなぁ!?お主の探究心と欲望だけは一端じゃのぉ〜こんな所で魔力に当てられ死んでるのは滑稽じゃが、ガハハハ」


「う、うるさいなぁ...!人が死んだのをガハガハ笑うなよ!!」

 だが本当に死んだとすれば、これからどうなるのだろうか...このままコイツと彷徨い続ける?消滅...?


「我はもうここから出られん。だがお前の体に我の魔力を流し込み、蘇生をさせる事は可能じゃろうな。」


「え...まじで...?」


「元はといえ我の不甲斐なさで、数々の命がここで意味もなく耐えていったのじゃ、最後に誰かの贄となるもまた一興。ここから出てお前の欲を我にもっと見せてみろ...ホレ、こっちへ来い。」

ルシファーがそう言うと淡の霊体はルシファーの方へと引き寄せられる。

「何言ってんだ....お前....ちょっえっ....‼︎」

 一方的に話が進んでいる感じで、淡はタジタジになってしまう。

ルシファーは淡の首に噛みつき自分の魔力を流し込む。

「エッッチョッッッあっっーーーー」


気持ちい感覚と一緒にピリピリとした刺激が全身を覆う。正に快感。

淡の視界がぼやけ気を失う。


 ーーーーー


 同時刻、ツヨシは特に自我の崩壊を引き起こしていた。

「私のせいだわ...」

「いや、そんな事ないよ....」

ユウタは下心でユウカを慰めていた。

「うう...、、、うううう!!」

ツヨシの目が充血し、真っ赤になる。

「なっ、何よその目...大丈夫...?」

「なんだよ...お前ダイジョッ...ピュギャ」

ブシュッッッッーーーーー‼︎

「きゃああぁあぁあああぁああ」

突然の出来事にユウカは悲鳴をあげる。

ユウタが心配して近寄った時、ツヨシは持っていた長剣でユウタの頭を真っ二つにしてしまう。人形のようにそのまま膝から崩れ落ち倒れる。

全ての音が生々しく洞窟内に響く。ユウタは即死だった。

「フッッッーー、フッッッーーー‼︎ヤルッッーー‼︎」

ツヨシはユウタの血に塗れ真っ赤に染まり、鎧の間から全身の血管が浮き出ているのがわかる。正気を失っていた。人間としてのツヨシはもう存在していなかった。まさにモンスターと化していた。

「や、やめて....、、来ないで....」

ユウカも洞窟内の魔力に当てられていたのだろう。魔法使いの分、耐性はあったが精神は蝕まれており戦うという手段が取れなかった。次の瞬間。


バカバキバキッッーーーー


死んでダンジョンに埋もれていたはずの大神淡がダンジョンの岩を砕きながら起き上がる。


ガラガラガラ....


大神淡の声で

「我は復活したのじゃぁあぁあぁ‼︎」

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