第1話 ダンジョンのサービスカウンターは何処ですか
ピチョン....ピチョン...
洞窟の天井から雫が滴り、水溜りに落ちる音が鳴り響く。この洞窟ダンジョンを探検開始してから40分程経過するが、最終地点まではまだ到達していない。
至って静かで涼しい洞窟内の不気味さは続く。ここまでで、3人は怪我なく計十四匹のゴブリンを仕留めている。
ゴブリンの死体は売るので、俺は3人が攻略している間に入り口まで運ぶ為に一定間隔で死体を置く往復作業を終え次の作業に移った頃だった。
帰り道はほぼ一本道だが、分かりやすいように設置型の松明を等間隔で置いている為どこかの国の映画で見る炭鉱などの採掘場のような背景が広がっている。
カンッカンッ
俺は松明を横に立てかけ、30cm程の魔鉱物をツルハシで叩いて採取する。鉱石を運ぶ用に持ってきた複数の皮の袋に魔鉱石を入れる作業をしていた。
「ダン!それ、一個100万円くらいよね!?」
休憩中のユウカはしゃがんで胸を寄せて近寄ってきた。
ユウカはローブを着ているが胸元が広く露出させたいのかさせたくないのか....アンバランスな見た目になっている。これは狙ってやってるだろ。
「そうっす!今回は結構美味しい回になりそうですね!!」
でもおかしい...。何がおかしいかと言うと、"魔鉱物"はモンスターの魔力の影響で周りの石などの無機物が時間の経過とともに変化し生成される物でここまで大きい魔鉱物は2週間程経っているはず。
一般的なダンジョンが依頼を出される時間と大体、ギリギリの同じ時間くらいだ。
俺はそれとなく危険かもしれない事を伝える事にした。
「それにしても、このダンジョン、ゴブリン達は弱いくせにやたらと広いっすね...!あの....魔鉱物って結構時間たってからじゃないと出ないですけど....この先ちょっと危険だったりしますかね....!?」
ユウカは少し考え込む。
「そうね...もう目標額くらいはいってるしね、引き返しても全然良いわ」
だがツヨシとユウタは傲慢だった。
「第三級冒険者の俺というタンクがいればもうちょっとくらい頑張れるぞ!?」
「俺は第四級だけど錯乱とか逃げスキルあるよ?」
冒険者には強さの階級があり、ミッションを受ける時の基準にもなる。第五から第一級にかけて数が少なくなっていくにつれて強くなる。
それぞれ冒険者協会で定期的に開催されている「能力診断テスト」で用意された様々な能力測定器を使い総合的な強さをテストする。
ダンジョンも階級で分けられ、A級、B級、C級の順番でA級が最も難易度が高い。
一般的なC級ダンジョンをクリアする為に必要な戦力人数の例を挙げると
四、五級の冒険者10人以上
三級の冒険者8人以上
二級の冒険者6人以上
一級の冒険者3人以上
で、余裕をもってクリアできる人数となる。
その上の階級も存在し、
日本には片手で数える程しかいない。
有名な冒険者で言うと、関西の冒険者ギルド「
A級のダンジョンを1人でクリアしたという伝説を叩き出し現状日本で最も強いと賞賛され話題になった冒険者もいる。
だが、今のパーティは第三級の【重戦士】【火の魔法使い】の2人、第四級の【盗賊】1人とバランスは良いが、C級の出来立てのダンジョンだとしてもギリギリの戦力だと思う。予想外の事が起きて強めのモンスターが出てきたら俺は真っ先に見捨てられるだろう...。
「そうね...ここまでずっと弱いゴブリンしかいなかったし、もうすぐダンジョンも終わる頃だと思うわ。滅多にない機会だし稼げるだけ稼ぎましょっか!」
「よっしゃぁ稼ぐぞぉー!」
「やったぁー!」
まぁ、グレーゾーンの仕事をやる人達だ...。こうなるのは当たり前だよな....。俺も覚悟はしていた。おっぱいとその仲間達には申し訳ないけど、1番弱い俺が真っ先に逃げてやるからな...。
ダンジョン開始から2時間程たったころだろうか。
奥に進む事を決めてから30分ほど。風景が変わらず、同じような視界が続くがゴブリンどころかモンスターの気配が無く、より一層不気味な雰囲気になってきた。
メンバーも集中力が切れてきたのが伺える。
「どんだけ長いだここ‥..」
「もう全部狩り尽くしたんかな?」
やる気満々だったツヨシも流石にもう何もないと諦めかけた。
「あっもう....次の広い空間で終わりだ」
【盗賊】のユウタが"気配察知"と"空間把握"スキルでこの先が行き止まりという事を察知した。
「敵はいるの?」
「いやぁ....敵反応は感じられな....」
ユウカの質問に答えかける瞬間だった。
ギギギギ...ガラガラ....
突然、奥から何かの重い金属を引きずるような音がしてきた。チェーンのような物を引きずる時によく聞く音だ。皆んな咄嗟に身構え、小声で確認をし合う。
ツヨシ
「聞こえたか?」
ユウカ
「気配はないのよね...?モンスターなのかしら?」
ツヨシ
「向こうのレベルが上すぎる可能性もある」
ユウカ
「じゃぁ引き返す?バレてないでしょうし」
ユウタ
「俺1人で見に行ってこようか?危険を察知したら走って逃げれるし」
ツヨシ
「じゃぁユウカ俺からあんまり離れないようにしてくれよ」
ユウカ
「そうね、お願いしたいわ。あっ、足手纏いは先に帰ってなさいよ」
淡
「あっ...ありがたや〜お先に入り口で待ってますね...!お気をつけてっ...」
ユウカ
「あっ言っておくけど何かくすねたらこれからの良い仕事呼ばないわよ。物資のメモしておいたリスト持ってるからね〜」
淡
「あはは、大丈夫っすよ〜それより皆さん早めに引き返してきてくださいね..!」
ユウカは嫌味っぽいが可愛いから許せる。おっぱいもあるし許すしかない。
それにしてもよかったぁ...意外とちゃんと考えてくれてたみたいで、今まで少し良いように利用させてもらってたけど、物分かりは良い人達で助かった。
コミュニケーションって本当大切っ。
3人を残し、俺は颯爽と歩いて来た道を戻り入り口に向かって洞窟を引き返す。
行きは慎重に進んでたのもあり時間がかかったが、大体30分くらいで戻る事ができるであろう。
「いやぁそれにしてもこんなでかい洞窟、モンスターが掘ったのかな?日本の、しかも市街地だった場所にこんな洞窟ができるのが普通になる時代が来るとはなぁ...」
静かすぎて、不気味な雰囲気を紛らわせる為に独り言を言っていた。
景色が変わらないから、余計なことを考えてしまう。5年前、
ちょうど中学校を卒業間近で進路について悩んでいた時……いや、俺は悩んでいなかったか。
俺はネッ友とかリアルの友達、皆でワイワイしながら企画を立ててゲームするのが好きで、ゲーム実況者と動画編集者をしていた。
中学生ながらに日本の平均月収ギリギリの金額を稼ぐことができていて、順調に行けば人気も集まって大金を稼ぐことができていた。このまま中卒でもアルバイトでもしながら「好きなこと」をして生きていこうと思っていた。
周りの同級生とかは真剣に悩んで、どの高校に進むのか進路を悩んでいたけど、正直バカバカしかった。
皆と同じように親に行けと言われて学校に行って、企業に就職する未来。そんな社会に対して疑問しかなかった。
俺はもっと稼ぎたい。楽しく生きたい。誰もみたことがない世界が見たい。俺だけの人生を歩む。
そんなことを考えていた時に
映画さながらに
正直、恐怖より興奮が勝った。知り尽くされていると思われていた常識。それが大きくハズれ地球以外の、「この世界以外の世界がある事実」それが何より嬉しかった。知りたい。まだ見ぬ世界を。絶景をこの目で見てみたい。
人生という1度きりのものを、俺だけのものを。どうせなら味わって死にたい。
すぐ後に現れた【冒険者】という存在は俺こそがなるものだ。そう思っていたが、現実はそう甘くなかった。
4年経っても魔力に覚醒することができず、【荷物持ち】を続ける毎日。でも、やっていることや気持ちは冒険者だから楽しい。
人一倍体力が必要だけど……。
今もこうして50kg近い荷物を背負って歩いている……
状況を変える「なにか」を見つけなきゃな……。
そんなことばかりを考えて歩いていたが
流石に疲れてきた。
リュックの重みで肩に紐がめり込んで少し筋肉痛を感じる。
ふぅ....
一息をつき、数秒休んだらまた歩き始める。
「ここら辺に設置型松明置いてた気がするんだけどなぁ....」
なんか、おかしい。中間地点に置いていた設置型松明が見えてくるはずなのに、灯りの気配が無い。
「あれ、道間違えたか...?でもほぼ一本道で迷うような所なかったぞ....」
焦るように早歩きで足を進める....。
「終わった」
ポツンと声が出た。
帰り道を進んで、腕時計を見ると約1時間半。途中でもう気づいていたが、信じたくなかった。
迷子になってしまった。
「いや、あの道の何処に迷子になる要素があったんだ俺!?!?」
何処か別れ道があったならまだしも
「えぇ...これ....引き返す....?」
こんな一本道のダンジョンで迷子になってたらみんなに笑われるな....どうしよう。
なんの魔力もスキルも無い、少し体を鍛えた一般人。大神淡。どうすんだこれええええ!!!
洞窟なんてサバイバルもくそもねぇよ....。
疲れが周り情緒不安定になりかけてた、その時だった。
ギギギ…ガガガ…ガラガラ…
さっき、3人と一緒にいた時に聞いた重い鎖を引きずるような音が前の方から聞こえてくる。
!?!?
真っ直ぐ進んでたよな!?!?!
ってかあの3人は…!?
自分のあたまの中にあった地図が狂い、方向感覚がわからなくなり気持ち悪くなってくる。
俺は道を覚えるのは得意な方だった。なのにさっきの音が前の方から聞こえてくる。おかしすぎる!!!
「今の音前から聞こえたか…?違うよな…?どうしよう…引き返すべきか…?余計にわからなくなるかな…?曲がったりしているならまだしも、正面にしか進んでいないのだから後ろに進んでいるとかそんな訳がない…」
淡は混乱していたが、ありえない状況を少し面白がっていた。
「こんな面白いことあるんだな……俺がアホすぎるのかな…」
真っ直ぐ正面を進み続けることを決心した淡は念のため片手に持った松明の火を消す。
暗さに目が慣れ岩肌の表面が認識できるようになった頃。
さっきより集中力を高めて前からモンスターが来ないか警戒しながら、護身用に買った20cmほどの短剣を握りしめ真っ暗な洞窟の壁際を進む。
洞窟内が心做しか寒くなってきた。今は6月で真夏なのもありその寒さが余計に不気味さを感じさせる。
完全に入り口に向かっていない感じがする。
「ゴブリン1〜2匹なら逃げながら戦えばなんとか……」
そう思っていた矢先、さっきよりはっきり大きな音で前方からまたあの音がする。
ガラガラ…ギギギ…ガガガ…
「!?」
淡が音にびっくりしたその瞬間、前方に2つの青色の炎の灯火が現れる。
その2つの炎の明るさはさほど明るくなく薄っすらと照らす程度だったが真っ暗な洞窟では十分明るくその炎と炎の間に人がいることに気づく。
「ナンジャお前」
薄暗い中だったが、確認できた。
薄い青色の髪をした長髪でよく見ると頭に2本小さな角が生えており、超絶美少女だった。人間ではないであろうが人間でいうと小学生くらいか…?
「何だお前ッ」
淡は思わず口に出してしまった。
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