第4話 佐竹 優 12歳

「はぁぁあっ…。」

私は佐竹優    ゆう。12歳の小学6年生だ。

今は近所の図書館にいる。

小学生になったばかりの弟の守に借りてきてと言われた、加古里子かこさとしの「からすのパン屋さん」

という絵本と数冊の文庫本を持ち、

深くため息をついた。

…私には、友達と言える友達がいない。

幼稚園から5年まで一緒のクラスだった麻綾まあやは違うクラスで

友達を作り、

同じく幼稚園からクラスが一緒で今もクラスが同じ琉唯るい

やはり友達を作った。

今までその2人と仲良くして満足していたので、今友達はいない。

それならほかに友達を作ればいいと思うだろう。

それは不可能に近い。限りなく、限りなく近い。

大袈裟、ではない。

「ねえ、あなた、今友達いないでしょ。」

え?だれ?

「ふえ?」

その顔を見た瞬間、思わず間抜けな声を出して驚いてしまった。

周りに人がいなくてよかった。

二重の紫の瞳はお母さんの指輪にはめられたアメジストのよう。

夜空のように黒い髪は艶々で、肌も透き通っている。

ってか、それにしても、ほんと、だれ?

「それは秘密。ってか、なんで皆最初びっくりするんだろう?」

「そ、それはそうとして。なんで私に友達がいないってわかったの?」

「んー、それも秘密。」

秘密が多い。

…この子になら、私の今の事打ち明けられるかも。

「あ、そういえば。私、あなた以外の人には姿見えてないから。

周りに人いなくてよかったね~っ」

「は?」

まるで話についていけない。

まあとりあえず、人ではないことが分かった。

そして小声で話した方がいいということも。

人ではないだなんて、こんなことがさらりと言えてしまうくらい私は動揺している。

「わ、分かった。…私は佐竹優。あなたは?」

「私の名前は内緒。あなたの名前はもう分かってるから。

ああ、あなたの弟、一回会ったことあるよ。」

「うっそ?守に?」

そういえば、守が1度

「ふしぎな女の子にあった」

と言っていたような気がする。

ものすごく綺麗な子だった、と言っていたような気がする。

適当にスルーして忘れていたが、それはこの子のことだろう。

「確かに前言ってたかも…?」

「とにかくさ。他がもっと良い友達作ったなら。

私を友達にしちゃえばいいじゃん。」

「え?」

「…私も友達いないんだよ。」

少し悲しそうな微笑を浮かべて、そう言った。

「そ、そうなの?」

こんなに綺麗で、素敵な人柄なのに。

守や私に見えているなら、こんな広い世界、誰かしら友達が出来そうなのに。

「うん…。」

このメンタルがコンクリートレベルに頑強そうな子が、突然悲しそうな顔になるのだから、何となく理由を聞いてはいけないような気がして。

「あ!私、良いこと思いついたよ。優!」

「え、何?」

「私が誰にでも姿が見えるように変身して転入生として優の学校に通ってさ。

普通に友達~みたいな感じで、仲良くしようよ?

だったら他の家族とかクラスメイトにも怪しまれないし。

他にも友達ができるかもしれないよ?」

「それ、名案!」

「じゃあ、来週くらいに学校で!」

「バイバイ!」


一週間後。

眼だけ黒になった状態のあの子が、

ついに紺色のランドセルを背負って学校へ転入生としてやってきた。

キーンコーンカーンコーン…。

朝の会のチャイムが鳴る。

担任の伊東先生があの子を教室に入れて、自己紹介を促した。

「○△市の✕✕小学校から来ました。今日から6年4組に入ります、永上ながかみ愛乃瑚あのこです!

よろしくお願いします。」

…ガチで来たね。ってか長い髪のあの子っていう文章をそのまま名前にしたみたいだな。絶対本名じゃないぞ、あれ…

「永上さんは佐竹さんの右横の席に座ってください。」

「はい。」

1時間目の終わった5分休み。

愛乃瑚の隣には多くの人が押し寄せた。

「✕✕小ってどんな所?」

「愛乃瑚ちゃん、よろしく!」

「髪めっちゃきれいじゃんっ!」

「俺の名前はひろしっす!」

「うちは麻綾。」

「私はうーだよ。」

数々の質問と自己紹介を凄いスピードでかわしていく。

瞬く間に愛乃瑚は学校中に名をとどろかせることになった。

そして愛乃瑚と1番の仲良しとなった私は、他の今まであまり喋っていなかった子と仲良しになることが出来た。


6年後。優、大学2年生。学生寮にて。

「みんな、無事進級おめでと~っ!」

「かんぱぁーい」

チリーン、とガラスの音が鳴った。

お酒が飲める子はビールやレモンサワー、お酒の飲めない子は

ジンジャーエールとアップルジュースでお祝いだ。

私はお酒が飲めないので、アップルジュースを飲んだ。

「かぁーっ!美味しいっ!」

「はあっ!それにしても、よくみんな留年せずに進級したね!」

同じサークルの田中葵が言った。

「だよねー!ほんとさ、みんなよく頑張ったよ。」

しみじみしながら言うのはムードメーカーの霧山晴夏。

だけど…

「いやいや、あんたは学年トップで進級しただろーがっ!」

そう。面白いことをポンポンと言うのに。

めちゃくちゃ頭が良いのである。

そんな晴夏にツッコむのは川邊琉紀。

そして、レモンサワーがすでに2杯目のお酒大好き人間。

私の一番の友達、伊籐櫻である。

「優はさ~っ、なんで酒飲めないのよ~っ」

18歳位からお酒を飲んでいたという、元(今も?)不良の櫻。

ぎりぎりでこの大学に入学し(特別に頭が良い大学ではない。

そんなに勉強が好きではない私だって合格者真ん中ちょっと上の成績で合格できるレベルである。晴夏が入ったのも何故か謎なレベルである)、ぎりぎり留年せずに進級できたのである。

「いやいや、あんたの方が異常だわっ」

そんなこんなで会が終わり、櫻と2人部屋へ戻る。

楽しかったねと言い合い勉強をし、早めに就寝する。

ちなみに愛乃瑚は私が他と愛乃瑚がいなくても遊んだりできるようになった中学2年くらいに転校した。

その後も人間ぶりっことやらにハマり、他の学校で活躍しているという。

(メールは繋がっている)

「懐かしいなぁ」

あの頃を思い出し、私は眠りについた。

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