第14話 大事に仕舞って、思い出したように取り出して、君を形作ったら、

 それからアイファ・シューラーとジェン・オネットは、ディック・クロウの調合に協力し、ディックの妻、ジョリー・クロウはすぐさまそれを村人たちに届け、薬が飲めないほど体が動かせない者には、薬を飲ませてあげた。


 ディックも村人の人数分、調合し終えると、ジョリーを助力し、薬を届けに加わった。


 アイファとジェンは、ジョリーの言いつけを守り、中には入らずに、その場に止まっていた。ここにいるしかできない、自分の無力さを感じながら。



 数十分後、ディックとジョリーは汗をふきながら、運動後のような爽やかないい笑顔で二人の所に戻ってきた。


「村人たちは?」


「全員、薬を飲んだわ。この人の見立て通り、進行は遅くなったみたい!」


 ジョリーはディックの背中を勢いよく叩いた。


「わっはっは! さすが俺だ! 冴えているな!」


「迷子になったこと意外ね!」


「わっはっは! わははのはー!」


 そう言って腕を組み豪快に笑い、ディックは後ろから倒れ、


「疲れた! 寝る!」


 いびきをかいて寝てしまった。

 二人が呆気に取られていると、


やかましいでしょー? ごめんねー」


 ジョリーは文字通りディックを尻に敷いて、彼の腹の上に座った。


「いえ、何というか……。電光石火のような方ですね」


「うるさいって、はっきり言ってくれていいんだよー?」


「うるさかったです。口を縫ってやりたかった」


 アイファは、いつでも辛辣しんらつだった。


「アイファ!」


「あっはっは! あなた面白いわねー。魔法科学大学MSCの後輩だけど、専攻は?」


 ジョリーはディックの腹を、トランポリンみたいに尻で跳ねさせながら尋ねた。


「物理です」


「物理か! 物理も面白いよな!」


 突如、目覚めたディックに、

 

「あなたは寝てる」


「ぐほぉ!」


 ジョリーは思いっきり体重をかけ、ディックに座り直した。


「ねぇ、君たち」


「はい」


「魔法薬理学者、目指す気はない?」


「魔法薬理学、ですか」


「薬理学は面白いよー!? 無限だよー!? あと、物理にも似てるかな」


 この時のジョリーの子供のように輝いていた瞳は、



『わたち、このひちょとけっこんすゆ! だから! そのちゃめにこのひちょのじょちゅになゆ! だから! きょーじゅちない!』



 と、言った時の、ミッチェルと同じだった。

 あの時の彼女も、この時のジョリーも、アイファに出逢え、喜び、彼の秘めた魅力を感じていた。

 そんな彼女の気持ちを知ってか知らずか、


「物理と?」


 アイファはジョリーの話に食いついた。


「そ。物理は自然界の現象とその性質を、物質とその間に働く相互作用によって理解すること、及び物質をより基本的な要素に還元して理解すること。でしょ?」


「はい」


「だから、薬理学では複数の薬物、あるいは食物などに含まれる成分が摂取されたとき、その薬効あるいは副作用などに単独で摂取した場合と比較して相違がある場合、これを相互作用というの。この薬理学的相互作用は、二つに分ける事ができる」


「二つに?」


「そう。一つは、吸収、体内分布、代謝、排出において、ある薬物が他の薬物の濃度を変化させる。もう一つは、薬効や副作用に直接関わる段階で薬物間の影響があるの」


「それは、例えば」


 アイファはずいっと前に出て食いついた。それを見たジョリーはニヤリと笑い、


「ど? 興味を持ってくれたかな?」


 と、言った。


 二人は、あっという間に、植物と魔法薬理学の可能性に惹かれていった。

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