第13話 でも、拾ってしまってからさ、全部。だから、大切に仕舞っておくよ。

「じゃあ、デカ迷子も復活したことだし! アイファくんと! えーと」


「僕ですか? ジェンです、ジェン・オネットといいます」


「ジェンくん!」


 低身長でピンク髪のボブカットなジョリー・クロウは、暗緑色あんりょくしょくの癖毛で黒いアンダーリム眼鏡をかけたアイファ・シューラーと、彼の幼馴染みで、柔らかい茶色の短髪をしているジェン・オネットを見据えた。


「このデカ迷子と一緒に薬を作って! できたらすぐに私が村人さんたちに届けるから!」


「だったら僕らも手分けした方が」


「うん! 確かにその方が効率的だよね! でも病因も病名もわからないこの病! 何がきっかけで感染うつるかかわらないから! だから! 駆け回るのは私一人でいいの!」


「よっ! かっこいい! さすが俺の妻!」


「でしょでしょー? もっと褒めなさい! デカ迷子!」


「美人! 聡明! 才色兼備!」


「ふふーんっ」


「貧乳!」


「それはー! 言わんでいいことだー!」


「ぐはおぅ!」


 ジョリーは夫であり、濃いベージュ髪の筋肉質な男、ディック・クロウの下半身にドロップキックをした。

 ジョリーの蹴りを受け、また地面に転がったディックを見て、呆れながらアイファは言った。


「ディック、先輩」


「先輩か! いい響きだな!」


 ディックは下半身を押さえつつ、ニカッと笑った。


「楽しそうなところ、悪いんですが、いいんですか?」


「何がだろうか!」


「大切な奥さんを危険な目に遭わせて」


「大切な奥さんだって! まぁ!」


「ジョーリー先輩は黙っていてください」


「はーい」


「危険な目か、確かにそうかもしれんな。だが、大丈夫だ、薬を作り終えたら、俺も村人たちに飲ませに周る」


「それは、さらに危険というか無謀では……。先輩方のことですから、救助は呼んでありますよね?」


「ええ、もちろん」


「だったら、それを待った方が……」


 ジョリーは微笑むと、ゆっくり目を閉じた。


「感染る、かもしれない。薬は、効かない、かもしれない」


「はい」


「そうやって、怯えていたらね、何にも前に進めないの。誰も救えないの」


「…………」


「だからね、私は“負”のかもしれないじゃなくて、“正“のかもしれないで動くことにしているの。感染らない、かもしれない。薬は、効く、かもしれない、ってね」


「正の、かもしれない……」


 ジョリーの言葉は、何故か重みがあり、アイファの心に沁み込んだ。


「そう、“正の予測”よ! ……って、どっかの誰かの受け売りだけどねっ」


 ジョリーはてへっと笑い、ウインクをした。


「…………」


 アイファがジョリーの言葉を噛み締めていると、


「それ俺の言葉ー! 俺の信条ー!」


 ディックがゴロゴロ転がりながら、叫んでいた。

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