第11話 欠片を拾う度、君に触れているみたいで、嬉しかった。

「いや違うんだジョリー! 時間がかかったのには訳があるんだ!」


 耳を摩りながら、濃いベージュ髪の筋肉質な男、ディック・クロウは慌てた。


「どんな訳か、聞こうじゃないの」


 低身長でピンク髪なボブカット、ディックの妻であるジョリー・クロウは、腰に手を当て大柄なディックを見上げた。


「道に! 迷っていたんだ!」


 同じく腰に手を当て、何故か胸を張って偉そうなディックは、


「——……」


「ふぎゃ!」


 低身長を活かしたジョリーに股間を力強く握られた。

 ディックは地面に倒れると股間を押さえ、のたうち回った。


「理由になってないどころか! ただの馬鹿じゃないの!」


「ぐおぉー! いーたーいー!」


 夫の苦しみを気にも留めないジョリーは、アイファ・シューラーを見て、彼が手にしていた魔法薬理学者の聖書バイブル、『魔法植物大全』も見ると、確信を得たかのように頷き、二人に近づいた。


「君が、アイファ・シューラーくんだね」


「そうですが」


「その『魔法植物大全』読破した?」


「はい」


「頭には?」


「入っています」


 ジョリーは力強く頷くと、白衣のポケットから魔法ペンと呼ばれている光る文字がかけるペンのキャップを外し、空中に数式を書いた。


「この式にある魔法植物を採ってきて! そこに転がってるデカ迷子のせいで! あともう一種類足りないの!」


「デカ迷子ですいませーん!」


 ディックは涙目になりながら反応した。


「この数式は、この村の病の特効薬なんですか?」


「いいえ! 違うわ!」


「それはー、このデカ迷子が書いたものだー」


 ディックが転がりながら答える。


「この村の病に似たような症状を見たことがあるんだー。それを覚えていたんだー。治すことはできなくともー、きっと進行は抑えられるはずだー」


「そこの転がりデカ迷子は、デカい上に歳で役に立たないの!」


「ジョリーよー、許してくれー」


「だから! 若い君たちに頼みたい!」


 ジョリーはアイファの両肩を力強く掴むと、彼が胸元に付けてある校章バッジを見てニッと笑った。


の優秀な後輩くんなら、できるよね?」


「母校というと、あなたは」


「そう、私は魔法科学大学MSCのOBよ。ちなみに、そこのデカ迷子もね」


「後輩だったのかー、嬉しいぞー」


「……優秀かどうかはわかりませんし、先輩後輩関わらず、苦しんでいる人がいるのに、見過ごすわけにはいきません」


「それでこそ! 後輩くんね!」


「この数式のものを、採ってくればいいんですか」


 アイファはしっかりジョリーを見据えた。そして、彼女の言葉を忘れていなかった。



『時間との勝負だって言ったでしょー!』



 と、言っていたのを。


 もう、この村人には、時間がないことを。


 アイファの言葉を聞き、ジョリーは、


「わかってるねー」


 不敵に笑った。


「十、七、……いや、五分でお願いできる?」


「…………」


 アイファは数式をもう一度見ると、


「この右側の植物ですよね? それなら、三分で足ります」


 冷静且つ自信ありげな声で答えた。


「さっすがねー! どこぞのデカ迷子とは本当に違うわ! 雲泥の差!」


「酷すぎるー、ジョリー」

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