第9話 その欠片は、いつかの僕の、運命の分岐点だった。

「そういえば!」


 麓の村に向かっていた三人は、濃いベージュ髪のディック・クロウを先頭に歩いていた。

 そんな中、ディックは、急に振り返った。


「何ですか、いきなり振り返らないでください」


 彼の後ろにいた、暗緑色あんりょくしょくの髪に、黒いアンダーリム眼鏡をかけているアイファ・シューラーは眉をひそめた。


「ああ、すまない! そういえばだな! 海藻のような髪の青年!」


「…………」


 アイファの眉間の皺が深くなった。


「む!? 俺は何かまずいことを言っただろうか!?」


「こいつに、“海藻”は、禁句なんですよ」


 アイファの後ろを歩いていた、ジェン・オネットはケラケラと笑った。


「む!? そうか! それはさらにすまない!」


「別にいいですが、もう言われ慣れているんで」


「そうか! ならよかった!」


「なんにもよくねぇけどな」


 アイファはボソッと呟いた。


「海藻青年! どこかで見た顔だと思ったら! 特番に出ていた! “神を超える手を持つ”と言われている! あのアイファ・シューラーじゃないか!」


「…………」


 アイファの眉間の皺が、さらに深くなった。


「むむっ!? 俺はまた禁句を言っただろうか!?」


「ええ。“神を超える手を持つ”、“あの”、は、“海藻”より、こいつには禁句なんです」


 ジェンはまた柔らかそうな髪を揺らしながら、ケラケラと笑った。


「む!? だが! 悪い事ではなかろう!?」


「そうかもしれませんが、いい迷惑なんですよ。俺は静かに暮らしたいんです。勝手にメディアが取り上げて、騒いで。本当にいい迷惑です。まともにフィールドワークもできなくなった」


「それは辛いな! だが! 海藻青年よ!」


「アイファです」


「アイファよ! 特番で見ていたお前の手腕は見事だった! メスの入れ方! 切り口! そして縫合! 全てが滑らかで丁寧だった! お前になら解剖されてもいいと思ったぞ!」


「しませんよ、あんたなんか。大体あんた、ピンピンしているから、長生きするでしょう」


「そうとも! 俺は長生きする予定だ!」


「はいはい、残念残念。俺の出番がなくて」


「そうだな! 残念だ! わっはっは!

お!? 話している内に着いたぞ!」


 三人は麓の小さな村にようやく着いた。その村人たちは、


「……どういうことですか」


 肌を白く硬直させ、苦しんでいた。

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