第7話 だって、きっと、君が産まれる前から、僕らは、導かれていた。

 三十七年前、魔法科学大学MSCに通っていたアイファ・シューラーとジェン・オネットは、今とは違い物理学者を目指していた。


 ただ幼い頃から植物オタクだったアイファは、フィールドワークを兼ねた植物採取が趣味だった。


 人の手が入っていない、鬱蒼うっそうとした山林に出かけ、採取し研究するのが彼の楽しみだった。


「相変わらず、人気ひとけのない山林を選ぶな。野生の猪なんて、初めて見たぞ」


 幼馴染みであるジェンは、文句を言いつつもアイファの趣味に付き合っていた。


「だから、嫌ならついてこなくていいと、いつも言っているだろ」


 先頭を歩くアイファは、魔法薬理学者の聖書バイブルと言われている、『魔法植物大全』を片手に、刈っていい植物かを確認にしつつ、魔法で風の刃を放ち、刈りながら進んでいた。


「馬鹿言うな。そんな事をして、お前を一人で行かせ、怪我でもさせてみろ。僕が教授や、先輩方、後輩たちから非難されるじゃないか」


「何でだよ」


「お前は何気に有名人なんだぞ。“神を超える手を持つ”アイファ・シューラーさん」


 史上最年少、十五歳で医師免許を取得したアイファは、当時、各メディアから引っ張りだこだった。


「やめろ、お前にさん付けで呼ばれると鳥肌が立つ。それに、勝手にメディアが騒いだだけだろ。俺としてはいい迷惑だ」


 どこで情報を入手したのか、家にまで押し寄せてきたメディアもいた。


「でも、追い返したんだろ? そして、逮捕に役立てたそうじゃないか」


「当たり前だ」


 個人の住所や名前を、闇ルートで入手し、密売している買人バイヤーがいた。当時のアイファは、その者が誰かを突き止め、魔法治安MOに通報した。


「後でやっていた特番でさ、買人バイヤーと手を組んでいた、保釈金を払って解放された記者が言っていたよ。「あの子は末恐ろしい少年だ」ってね」


「何も恐ろしくないだろ。人として当然の事をしただけだ」


「いやー、それには僕も激しく同意して、笑っちゃったよ。だってさ、その少し前の特番でさ」


「お前、特番好きだな」


「まぁいいじゃないか。でさ、少し前の特番でさ、医師の試験の様子を放送していたんだけれど。お前が受けた時の試験官、世界で五本の指に入る名医だったのに、お前の手腕を見て、自信をなくして辞職し、故郷に帰ったらしいよ。いやー、あれには大笑いしたなー」


「医師免許は国家資格、試験は毎年開かれるわけではない。だから、持てる力を全て尽くしただけだ」


 この世界の医師試験は、五年に一度。故に、医師を目指す者は若い内から、もう勉強を重ねて、全力で挑んでいる。


「というか」


 アイファは立ち止まり、振り返った。


「お前、何気に酷いよな」


「えー?」


「消沈して帰国した医師を笑うなんて」


「だってさ、インタビューの最後に」



『あの少年は、全医師の敵です……』



「なーんて言うからさ、いや、同業者じゃん、と思って可笑しくてっ」


 ジェンはケラケラと笑った。


「お前な……」


 その時、前方の草むらが動いた。二人に緊張感が走る。


「また野生の猪か?」


「そうかもしれないし、もっとデカい奴かもしれない、気をつけろ」


 二人は臨戦態勢になり、いつでも魔法を唱えられるよう構えた。

 そんな二人の前方の草むらから現れたのは、野生の猪ではなく、


「お!? こんな所で人に出会えるとは! 俺はついているな! わっはっは!」


 頭や衣服、そして白衣に、草や枝をつけ、あちこち土で汚れた、濃いベージュの髪をした筋肉質で大柄な男だった。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る