第4話 皆に笑顔を降らせる流れ星だった
ピンク髪で童顔低身長のミッチェル・クロウは、
「ミッチェルー! アンダーダウン!」
「うおっ!」
アイファの膝裏に、自分の膝を曲げ押し当てた。アイファはがくんとよろけ、膝から崩れそうになった。
「おチビ……、五十四のオヤジに膝カックンするとは、いい度胸だな。骨が折れたらどうするんだ」
「大丈夫です! 先生はがっしりしているので! それよりも! 入所式に出ましょうよー!」
「出ねぇ。そんなもんに出ている暇があるなら、研究する」
「じゃあ今、何をしようとしていたんですかー?」
「
「ほらー、
「出ねぇ」
「出ーまーしょー! ついでにお風呂も入りましょうー!」
ミッチェルはアイファの腕を掴み揺らした。
「面倒くせぇ」
「あ! でしたら! 私が永久脱毛剤を開発して! お風呂に入れてあげます!」
「んなことしたら、アソコの毛までツルツルになるだろうが! 見てぇのかよ!」
「はい!」
「変態か!」
「そうしたら! 記念撮影して家宝にします!」
「やめろ!」
「お風呂に入りましょーよー! 入所式に出ましょうよー!」
「嫌だ! ぐあっ! 離れろおチビ!」
ミッチェルはアイファの下半身にしがみついた。
「離れませーん! 共同浴場はあっちですー!」
「俺は喫煙室に行きたいんだ!」
ミッチェルをくっつけたまま、アイファはずるずると喫煙室に向かった。
二人の姿が見えなくなると、
「あははっ、相変わらずだなー」
ジェン・オネットは楽しそうに笑った。
「えっと……」
「ああ、僕はジェン・オネット。ジェンでいいよ」
「ジェン、さん。さっき、背の高い人をアイファって呼んでいましたが……。アイファって、史上最年少で医師免許を取得しちゃった、“神を超える手”を持つと言われている、あのアイファ・シューラーさんですか?」
「そうそう。史上最年少で医師免許を取得しちゃった、“神を超える手を持つ”と言われている、あのアイファ・シューラーさん」
イアリ・ドレイユの問いにジェンはふふっと楽しそうに笑いながら答えた。
「そして、その助手、あのちっさ可愛い子って、クロウくんと呼んでいましたけど……。古代人が書いたと思われる万能薬の数式を、解いちゃったっていう、“謎の天才ベビー”と言われている、あのミッチェル・クロウですか?」
「そうそう。古代人が書いたと思われる万能薬の数式を、解いちゃったっていう、“謎の天才ベビー”と言われている、あのミッチェル・クロウくん」
ジェンは口元に右手を添えると、またふふっと笑った。
「めちゃくちゃすごい、コンビですね……」
「いいコンビだと思うんだけどねー」
「ジェン、さんは、シューラーさんのことをよく知っているような話ぶりでしたが」
「ああ、僕ら幼馴染みなんだ」
「幼馴染み!」
「そろそろ入所式が始まりそうだから、歩きながら話そうか」
ジェンは右手を大研究広間の方に向けると、左手をそっとさり気なくイアリの背中に添えた。
「はっ、はい!」
その所作は紳士的かつスマートで、イアリはさらに頬を紅潮させた。
イアリは鼓動が高鳴る中、ジェンと並び、話を戻す。
「でも、ミッチェルのシューラーさんに対するあの執着ぶりはすごいですね」
「うん、彼女はね、四歳からアイファに恋をしているんだ」
「四歳! さらに行く末が気になってきましたー!」
「……なら、僕の助手なんて、どうかな?」
「えぇ!?」
イアリが顔を赤くしながら振り向くと、少し不安気に、でも穏やか且つ爽やかに笑うジェンがいた。
「アイファとクロウくんを見ていてね、ああ、人手は欲しいなと思っていたところなんだ。このラボの助手制度は教授からの推薦制だし、僕は第三研究室で、アイファの隣室で幼馴染みだから色々と教えてあげられると思うよ?」
イアリの答えは、最初から決まっていた。
「ぜひ! お願いします!」
「そっか、これからよろしくね。ドレイユくん」
「イ、イ、イアリでいいです!」
「そう? じゃあ、イアリくん」
「——……」
大人の色気、そして、爽やかさもあるジェンに、
(キャー! “イアリくん”、だってー! キャー!)
イアリは一目惚れをした。
こうして、イアリはジェンの助手になり、この日から彼への猛アプローチが始まった。
そして、イアリとミッチェルは、同い年で教授に恋する助手という共通点もあり、一気に意気投合したのだった。
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