第5話 それは今も昔も変わらない

 結局、三年前のあの日、ミッチェル・クロウはアイファ・シューラーを入所式に連れて行く事は叶わなかった。

 だが、あの後、


「ミッチー!」


 ブロンド髪をポニーテールにし、今では白衣をピンクに染めてしまったイアリ・ドレイユは、その染められた白衣よりピンク髪のミッチェルを見つけると、また抱きしめた。


「イアリちゃん、苦しいよ。というか、ミッチーって?」


「え? だって名前、ミッチェルでしょ?」


「うん」


「だから! ミッチー! ちっちゃくて可愛いから! ミッチー!」


 何が“だから“なのか、何も理由になっていなかったが、


「ミッチー……。えへへ、うん、私、ミッチー」


 “謎の天才ベビー”と言われてきたミッチェルは、年齢問わず特別扱いをされてきたので、こんなに親しくしてくれるのが嬉しく、頬を緩ませた。


「そうだ! ミッチー聞いて! 私ね! ジェンさんの助手になったの!」


「爽やか教授の! すごいね! 色んな人が自分を推薦してくれって言ってもダメだったのに!」


「そうなの? ってか、爽やか教授って?」


「だって、私が入所した時から、ずっとあの笑顔なんだよ? すごくない?」


「うん、すごいけど。ミッチーって何歳の時に入所したの?」


「私? 四歳」


「四歳! 四歳ってシューラー教授に恋をしたっていう!?」


「そうそう、よく知ってるねー。あ、オネット教授から聞いたのか」


「うん、そうだけど……。ってことは、入所してすぐに助手になったの!?」


「うーん、詳しくは覚えてないんだどね。所長から、なんかお堅い名前の特別なんちゃら教授になってほしいと言われてー」


「うんうんっ」



『わたち、きょーじゅちない!』



「って、ズバッと断ったらしいよ? あ、オネット教授から聞いたんだけどね」


「すごい四歳児ね……。それで?」


「うん、その後ね」



『わたち、このひちょとけっこんすゆ! だから! そのちゃめにこのひちょのじょちゅになゆ! だから! きょーじゅちない!』



「って、先生に、アイファ先生に抱きついたらしいよ」


「……シューラー教授、困っただろうね」


「うん、私が成人してから教えてくれたんだけど、オネット教授が」



『あの時の大口開けた「俺かよ」みたいな、アイファの間抜け顔! 傑作だったよ! いやー、録画しておくべきだったなー、あははっ』



「って、大笑いしていた」


「……ミッチーって本当にすごいね。ジェン先生をそこまで笑わせるなんて」


「そうかなー? えへへー、照れちゃうよー」


「いや、褒めてないけどね。兎にも角にも、ミッチー!」


「うん!」


 二人はがしっと手を組んだ。


「頑張ろう!」


「先生たちを落とそう!」


「今! “恋する助手同盟”を結成した!」


「おー! なんかかっこいいねー!」


「でしょでしょー? 若さと助手の頑張りでメロメロにしてやろう!」


「してやろー!」


「「我ら! 恋する助手!」」


 こうして、二人の仲はさらに深まった。







 


 その頃、第二研究室にて。


「——なんか、今、寒気がした」


「——奇遇だなジェン、俺もだ」


 “何か”を察知した教授二人であった。

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