第1部 世界+君=日常

第1章 まだ君がいる

第1話 君は

「せーんせっ、先生ってばー」


「……何だ」


「本ばかり読んでいないで、私を見てくださいよー」


 乱れた暗緑色あんりょくしょくの長髪をした男は、


「見たぞ」


 隣で白衣を着て頬を膨らませている女を横目で見た。


見たじゃなーい!」


 研究室にて、白衣を着て座り込み分厚い薬学書を読んでいる男は、アイファ・シューラー、五十七歳。この“第二研究室”教授だ。

 隣で地団駄を踏んだピンク髪で、頭の天辺の髪がアンテナのように飛び出ている女は、ミッチェル・クロウ、アイファの助手である。


 二人とも、ここ魔法植物研究所、通称MPLで働く、魔法薬理学者だ。

 アイファは黒のアンダーリム眼鏡に、海藻みたいな髪、剃らない無精髭。

 こんな姿から、「加齢臭ならぬ加齢藻」や、「海藻教授」などと言われている。


 身長も百九十以上あるため、深い隈の目つきと相まって、彼には皆、近づきたがらない。


 だが、彼女は、違った。

 何故なら、ミッチェルは、四歳から彼の助手をしているからだ。

 そんな彼女は、アイファの隣で頬を膨らませていた。


見たじゃなくて! 意識を! 意識をくださーい! 私を意識してくださーい!」


「邪魔だ、おチビ」


 アイファは立ち上がると、しっしと手を払った。


「——せんせー! 私を見てー!」





 ✧ ✧ ✧





 ミッチェルはトボトボと、第二研究室を後にした。その背中は哀愁が漂い、彼女の低身長がさらに小さく見えた。

 彼女の行く先は決まっている。親友で、“恋する助手”仲間の、イアリ・ドレイユの所だ。何かあれば、アイファのことで何かあれば、いつも悩みを聞いてもらっていた。


 そんな小さな背中が見えなくなると、アイファは少し振り返り、苦々しく呟いた。


「……わかれ、おチビ。……俺はもう、人を、んだよ」








✧ ✧ ✧ ✧



 あとがき。


 はい、というわけで、初めましてな方は初めまして、二度目ましてな方はお久しぶりな、あの四人のお話です。


 そして、今回は、彼が、おっさんが主人公です(笑)


 実は、前作的なものがあるこのお話ですが、前作を知らなくても読めるように、書いている、つもり、です。


 前作的なものに、もし興味を持ってくださった方は、声をかけていただければと思います。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る