第13話 * 街 2*
アリスは天井を見上げて声をもらす。天井の発光は今日もいつも通りの輝きだった。
「それは配信者の種類っていうか……。きちんとしたカテゴリがあるんじゃないんだけどね。配信者とか視聴者の間でおおまかにジャンル分けして呼ばれているものがあるんだよ」
「ええ、と?」
「だから、その。うーん。見せた方が早いかな」
悩みながらアリスが首をひねる。
「えんま亭に戻ったらご飯食べよう。その時に教えてあげる」
アリスはにっこりと笑った。
「あら、おかえり。アリスちゃんにあずみちゃん」
「おばさん! ただいまー」
「戻りました」
えんま亭に入ると、おかみさんが明るい笑顔で迎えてくれる。
アリスは元気よく手をふり、あずみはぺこりと会釈した。
「配信はうまくいったかい?」
おかみさんはテーブルを拭く手を休めずに聞いてくる。
「うん! うまくいったよ! あずみちゃん、早くもチャンネル登録してもらってたもんね」
「そうかい。そりゃ、よかったね」
挨拶代わりの会話をしつつ、アリスは手短な椅子を引いて席についた。向かい合って、あずみも座る。
「おばさん! 定食ちょうだい!」
「あいよ。あずみちゃんも同じでいいかい?」
「はい。お願いします」
席について、料理を頼む。
このえんま亭は、アリスの定宿だった。
料理の味はそこそこ。値段もそこそこ。ベッドは清潔。アリスの懐具合とクオ
リティを天秤にかけ、いろいろ探した結果アリスはえんま亭に落ち着いたのだった。
ちなみに、自分で部屋を借りている配信者もいる。しかし、定期的な家賃を確保しようとするプレッシャーがアリスにとってはきつかった。
こうして宿に泊まっている限りは、その時の収入に応じてランクを下げたり戻したりすることがたやすいからだ。
そうこうしていると、定食が運ばれてくる。
今日は白身魚の煮付けがメインらしい。すこし、スパイシーな味付けを堪能しつつ定食を食べる。
「それで、配信者のジャンルの話なんだけど、していい?」
アリスがお茶を飲みながら、あずみに話しかけた。あずみもほとんど食べてしまっている。
「お願いします」
あずみはぺこりと頭をさげた。
「うん、これも正式なものではなくてあくまでも配信者の中で言われているジャンルの話なんだけどね」
と言って、アリスは話始めた。
配信者はその配信スタイルや取り扱う話題によってカテゴリが分けられているということだった。
「パフォーマンスをしているパフォーマー。モンスターとの戦闘がメインの戦闘系。ダンジョンや街で材料を採取してまわっている採取系。道具やアイテムを作る過程を配信する生産系。ダンジョンを歩き回って探索する探索系。これは徘徊系とか言われるけど。あとは、お店とか経営している人がお店の様子を配信したり経営講座を運営する経営系。この世界の秘密を探る実験系とか。ああ、自警団が警邏の様子を配信する警備配信なんかもあるよ」
「へぇ。いろいろあるんですね」
「そう。配信者の数だけ、配信があるからね。ジャンルに当てはまらないのも多いけど、大体はどれかかな」
喋っているとおかみさんがお茶のおかわりと小鉢を持ってきてくれた。
「わぁ、ありがとう。おばさん」
「これ、あずみちゃんのちゃんねる登録のお祝い。よかったら食べてみて。新作の小鉢なんだよ」
「じゃ、味わって食べないとね。ありがと」
「ありがとうございます」
「まずは第一歩だね。ここからが大変だよ。頑張って」
「はい!」
おかみさんの激励にあずみは嬉しそうに返事をした。
おかみさんは笑顔で手を振りながら、厨房に戻っていく。
「えーと、どこまで話したっけ」
「大体のジャンルを聞きました。アリス先輩はどのジャンルなんですか?」
「僕? 僕はね、徘徊系だよ。ダンジョンの色々なところに行ってギミックを解いたり、観光案内みたいにダンジョンの見どころを紹介したりとかかな」
「面白そうですね」
「まぁね。でも、毎回、ネタを考えるのが大変。有名なところはもう、いろいろな配信者がいっぱい配信しているし」
「そうなんですね」
「まぁ、どの配信も大変よ。配信者の数は多いし、ネタを考えるのは大変だし。いまさら、ジャンル変えて行きたくても一度、ついてくれたお客さんを逃すのは怖いし」
頬杖をついてそう語るアリスはどことなく憂いがあった。この悩みは配信者共通の悩みだろう。
配信やジャンルに飽きたと言って、止めることはできない。やめれば待っているのは垢BANによる死だけだ。
だからと言って、ジャンルを変更する勇気ももてない。ジャンルによってはそもそも前提となる知識が必要だし、大きく配信のテコ入れを図って視聴数減、収入減と泣きを見る配信者も星の数ほどみてきたアリスだ。
人気を取るまでは楽しい。でも、一度山にぶつかってしまうとあとは苦しいだけだった。
*** ***
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