第36話 決着
後方でキューピット級が撃ちぬかれ爆発している音を拾いつつ、四機は権天使級に接近していく。
権天使級は機銃で弾幕を張り、ミサイルも四機に向けて発射するが、一向に衝撃波を放つ気配は見当たらなかった。
「やはり教官が片方の角を破壊した事で相手も使用を控えてるようですね。」
「それとも、もう生み出す事が出来ないんじゃ…。」
ソフィアとリンがそれぞれ思考を重ねるが、結論が出る前にシャナが行動する。
「考えてる暇が惜しいわよ!一発撃てば全てが分かる!」
そう言って大型エネルギーライフルの引き金を引くシャナ。
そうして放たれたエネルギー弾は権天使級へと寸分違わず進んでいく。
先ほど衝撃波によって防がれた一撃であったが、今度はその頭部に直撃…したかの様に見えた。
だが権天使級は未だ健在であり、反撃とばかりに攻勢を強める。
「効いてないのかしら。」
アンジュが盾で攻撃から皆を守りながら、そう疑問を口にする。
その疑問を否定したのは撃った本人であるシャナであった。
「いえ。僅かだけど衝撃波が確認出来たわ。恐らく向こうは衝撃波は防御に専念して他の武装でこっちを調理するつもりのようね。」
「なるほど。こちらにそれを破る手立てがないと判断したようですね。」
ソフィアがシャナの推察に頷く。
実際、クレオパトラのナイルを除けば彼女たちのA²にあの衝撃波の防壁を破るだけの武装は無い。
そのナイルもチャージの時間を考えれば、弾幕が張られている現状で撃つ事は不可のであろう。
だが、その事実は今の彼女たちを諦めさせるには足りなかった。
何せ彼女たちの後方は、信頼できる仲間。
そして彼女たちが知っている中で最も強いA²乗りが守ってくれているのだから。
「マツナガ。あの角、叩き切れる?」
シャナがまるで日常会話の如く軽く聞くのに対して、リンはいつものネガティブさは鳴りを潜め戦士の顔で答える。
「やれます。皆さん、援護をお願いします。」
「ええ勿論。」
「ではこれよりリン・マツナガを援護します。トリグラフ、機動。」
アンジュの頷きと同じく同意したソフィアは、今まで使用しなかったビット兵器であるトリグラフを使用する。
今でも機銃による弾幕は張られているが、それでもキューピット級の妨害の無い今が使い時と判断したソフィア。
最小限な動きが出来るように二基を展開したソフィアは、まるで兵士に下知を下す女王のようにただ淡々と指示を送る。
「…動け。」
アンジュがそう命じるとトリグラフは左右で挟み込むように動いていき、エネルギー砲を発射していく。
機銃でトリグラフを墜とそうする権天使級であったが、その殆どをソフィアの脳波で動かしているトリグラフは回避していく。
段々とトリグラフに弾幕が集中するのを見逃さず次の行動に出る。
「隙だらけです!」
「墜ちなさい!」
ジャンヌ・ダルクがショットガンを、クレオパトラが大型エネルギーライフルをそれぞれ撃ち尽くすかのように連射していく。
範囲の広いショットガンを躱す事も出来ず、大型エネルギーライフルのエネルギー弾も無視できなかった権天使級は衝撃波を展開する。
両者の射撃を防ぐ事に成功した権天使級であったが、ここまでの展開は候補生たちの予想どうりであった。
夜の帳が辺りを包む中、月を背負い急降下してくるA²が一機。
それは当然、二刀のブレードを構えて権天使級の角を折らんとするリンが乗るツルヒメであった。
「二刀!!両断!!」
気迫の籠った声と共に急降下の勢いのまま次の衝撃波を張れずにいる権天使級の角にブレードで切りつける。
そしてその結果は、権天使級の角が砕け散るという最高の成果を上げるのであった。
「よくやったわマツナガ!やれば出来るじゃない!」
「え、えへ。す、少しは役に立たないと。ですから。」
シャナの心からの称賛にリンは照れ笑いで返す。
だが権天使級もこのまま黙っている気は無く、さらに機銃を展開し無差別にミサイルを撃ってゆく。
「向こうも必死なようね。」
「それだけ我々が追い詰めてる証拠です。ここで決めましょう。」
ジャンヌ・ダルクの盾でルサルカの身を隠しながら、展開していたトリグラフを戻すソフィア。
彼女の意見に異を唱える者はなく、一気に仕留めるべく攻撃に転ずる。
「当たって!」
「このぉ!」
リンはブレードで、アンジュはハルバートでそれぞれ少しずつではあるが機銃の数を減らしていく。
権天使級は焦ったのか近距離であろうとお構いなくツルヒメとジャンヌ・ダルクに向けてミサイルを発射する。
しかし、光が通り過ぎそのミサイルを撃ち落とすのであった。
「させません。」
それはルサルカのエネルギーライフルから放たれた光であった。
爆炎に包まれてA²を見失う権天使級。
その目の前に現れたのはナイルのチャージを済ませて発射体勢に入っているクレオパトラであった。
もう既に遅い。
権天使級がその決断に至る前に、シャナは一言だけ叫ぶのであった。
「サ・ヨ・ナ・ラ!!」
極大の光の束が権天使級を飲みこんでいく。
そして後に残ったのは飲みこまれなかった脚部ぐらいであり、それ以外は跡形も無く吹き飛ばしたのであった。
ナイルが排熱を行う時に出る煙がクレオパトラを包む中でシャナはまるで夢から覚めたかのように立ち尽くしていた。
「…やった?…本当に?」
「ええ、やりました。我々の完全な勝利です。」
立ち尽くしたままのクレオパトラにルサルカが肩に手を置く。
シャナはどうやら現実感が無いようで、権天使級の残された脚部を見つめていた。
「あの様子を見ても信じられませんか?」
ソフィアが示す方をシャナが見ると、そこにはジャンヌ・ダルクとツルヒメが抱き合って喜んでいる姿があった。
A²同士であの様子なのだからアンジュとリンは嬉し涙で、それはもう酷い顔の状況なのは目に見えていた。
さらにそこに下半身がないままこちらに近寄って来たクニグンデが合流し、さらに抱き合いに加わる。
「あ、アハハ。ほ、本当に私。倒したんだ、『天使』を。」
「ええ。」
「守ったんだ。人々を。」
「ええ。守り抜きました。都市も、人も。」
「っ~~~~~~~~~!!」
声にならない喜びの声を上げるシャナ。
それを見守るソフィアも喜びの顔が隠せないでいた。
「はぁ。これからの事も忘れて、喜びを爆発させてるなぁ。」
コウは五人の様子を少し離れたところで見守りながら、これからについて考えていた。
各エリアへの報告や、さらに上への言い訳を考えれば頭が痛くなるばかりであった。
「…まあ、もう少しいいか。」
だがコウはもう少しだけ彼女たちを勝利の余韻に浸らせる事にしたのであった。
その表情はまるで父親のように優しいものであった。
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