第35話 好きだから

 「き、教官!?」


 突如現れたコウに対して思わず声を上げるシャナ。

 他の候補生も気持ちは同じなようで、動揺がA²の挙動に目に見えた。

 だがそんな面々に対してコウは一喝をする。


 「それよりもキューピット級が来てるぞ!迎撃!」


 コウの言葉で自分たちにキューピット級が接近しているのを気づいた一同はすぐさま迎撃していく。

 無論コウの方にも近づいて来るが、歴戦のA²乗りであるコウは冷静にキューピット級の数を減らしていく。

 だが、コウが乗っているのはA²では無かった。


 「教官。何故ガーディアンに乗っているのですか?」


 ソフィアが口にしたように、コウが現在乗っているのは反連が使用しているガーディアンであった。

 その疑問に対してコウはため息を吐きながら返す。


 「それ今気にする事か?…前回接収したガーディアンをお前らを追いかける為に突貫で改造してもらったんだよ。それでも動きが鈍くて仕方ないけど、な!」


 そう言いつつも迫り来るキューピット級のエネルギー砲を華麗に避け、尚且つ実弾を確実に当ててみせるのは流石元エース部隊出身と言えただろう。

 本来飛行ユニットが搭載されていないガーディアンではあるが、その背面にはA²用の大型ブースターが付けられている。

 その為、ヨコハマ基地から此処まで最短で到着する事に成功したのであった。


 また、A²に比べて性能が落ちるガーディアン。

 だがA²のパーツを使用する事、そして何よりヨコハマ基地が誇るメカニック達による改造によって量産機のA²にも負けない性能となっている。

 だが元がガーディアンだけに耐久性に問題が有り、一発でも直撃を食らえばそこまでという事実はメカニック達と乗っているコウを除けばアランしか知らない事実であった。

 両手に手にしたライフルでキューピット級を片っ端から落としていくコウに一同は驚きを隠せなかった。


 「凄い。」


 その言葉が誰から出たか分からない程、それは的確で無駄のない攻撃であった。

 一度だけ手合わせしたが、アレが実力の全てで無い事を思い知らされるのであった。

 コウは近づいて来るキューピット級を右腕に内蔵しているブレードで引き裂きながら候補生たちにドスの効いた声で問いかける。


 「こっちを見てる余裕があるみたいだから言わせてもらうが。随分とまあやってくれたな、お前ら。」

 「うっ!」


 思わずそんな声を出してしまったリンを始めとして、候補生一同は黙り込んでしまう。


 「A²の無断使用に無断出撃。よくやる事を決断したなと逆に感心する。」

 「教官。それは…。」


 ソフィアが責任を取ろうと口を出すが、それを察したようにコウがそれを制す。


 「皆まで言うな。話に乗った時点で全員同罪だ。誰が最初に言いだしたかは今は関係ない。」

 「それは…そうですよ、ね。」


 アンジュが思わずその言葉に頷くと、コウはさらに追撃する。


 「しかも、戦ってみれば特攻の話が出る始末。不利は仕方ないにしても命を簡単に投げ捨てる事を教えたか?バウマン?」

 「す、スミマセンでした!」


 思わず謝るリーゼロッテ。

 他の面々もコウに何も言い返せないでいた。

 その様子に再びため息を吐くと、コウは両肩のマイクロミサイルを撃ち尽くしミサイルラックをパージしながら一言付け加える。


 「まあ。ここまでしっかりと粘った事、それだけは褒めてもいい。」

 「…当然でしょ。死に来た訳じゃないんだから。」


 そう言い返すシャナであったが、その顔はどこか嬉しそうでもあった。

 その事をモニター越しに見て笑いながら、コウは候補生たちに命令する。


 「さて、各機は俺の指示に従って貰うぞ。ここまで来たらあの機械牛、沈めるぞ。」

 「「「「「了解!」」」」」


 誰一人として異議を唱える事もなく了承するメンバーに、コウはまず作戦を伝える。


 「さて。権天使級の特徴でもある衝撃波は角のパーツから発せられる。だが、さっきの一発で片方潰した。これでさっきまでの威力は出せないはずだ。」


 コウが言った事が事実であることを示すように、権天使級はコウが参戦してから一度も衝撃波を放っていない。

 機銃による弾幕は激しさを増すが、見方を変えれば苦し紛れのようにも見えた。


 「俺とバウマンはここでキューピット級の足止めをする。残る四機は全力を持ってあの牛を調理しろ。…まさか権天使級も俺が倒してくれるなんて甘い事は考えてないよな?」

 「当然でしょ。むしろ望む所よ。」


 そんなシャナの言葉に続くようにリンとアンジュも意欲を語る。


 「や、やってみせます!」

 「任せてください。…リーゼロッテさんを頼みます。」

 「応援しか出来ないけど、頑張って。」


 四人を見送るようにリーゼロッテが言葉を贈ると、コウは最終の確認を取る。


 「…以上になるが、聞いておきたい事はあるか?」

 「教官。一つだけよろしいですか?」


 ソフィアのその問いかけにコウが頷くと、彼女は珍しく戸惑う様に口を開く。


 「教官は、何故ここまで来てくれたのですか?」

 「…。」


 コウが一瞬黙り込む間にシャナがソフィアに呆れた様子で静止しようとする。


 「ゼムスコフ、アンタねぇ。」

 「こんな事を聞くべきタイミングではない事は理解しているつもりです。ですが、ただの責任感でここまで来てくれるとは思えません。できればお答えください。」


 真剣な様子のソフィアに対して、コウは迷う事も無く答えてみせる。


 「まあ色々言い方はあるが、一言で纏めてしまえば。お前らが此処にいるのと一緒だよ。」

 「…それってどういう事でしょうか?」


 リンがそう疑問を口にすると、コウは笑みを見せつつ答える。


 「お前らは『天使』の迎撃をすべき事だと思って、命令違反でも此処までやって来た。俺もお前らを助ける事がするべき事だと思ったから此処にいるんだ。」

 「教官…。」


 アンジュがそう言葉を漏らす以外には黙り込む状況で、コウは付け加える。


 「ん~。言い換えるならそうだな。お前らの事がこの位の無茶をするぐらいには好きだって事かな。」

 「「「「「!?!?」」」」」


 その言葉は年頃の少女である候補生たちの心に大きな衝撃を与えた。

 リンは思わずA²の操作を間違えそうになる程であった。


 「は、はぁ!?あ、アンタ!!何て事言うのよ!!セクハラじゃない!?」


 シャナが思わず顔を真っ赤にして怒鳴るのに対して、コウはキューピット級の攻撃を避けながらため息を吐く。


 「はぁ。これもセクハラになるのか。中々に厳しい世の中だ。」


 だが、コウはすぐさま真剣な表情になると四人に命令する。


 「その事についての謝罪は後でする。だからあの鉄牛、完全に破壊してこい!」

 「言われなくても!行くわよ!」

 「教官。また後で。」

 「行きます!」

 「わ、私も!」


 シャナが、ソフィアが、アンジュが、そしてリンが権天使級を撃破するために突撃していく。

 それを見送りながらコウはリーゼロッテと共に残るキューピット級と対峙する。


 「バウマン。無理する必要は無い。一機づつ確実に仕留めるぞ。」

 「り、了解!」


 その返事に頷くと、コウはライフルをキューピット級に向けて宣言する。


 「意味も無い事であし、月並みな言葉ではあるがな。…ここからは一歩も通さない。」

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