第34話 粉砕する弾丸

 「レーナ―ル!!」

 「だ、大丈夫よ。一か所に固まっていたのが幸いしたわね。」


 権天使級から発せられた攻撃に、咄嗟に反応したのはアンジュであった。

 彼女は前に出ると同時に、ジャンヌ・ダルクの盾にて受け止めたのである。

 結果として盾に大きなヒビが入る事にはなったが、全員に被害が無かった事を考えれば必要な損傷と言えるだろう。


 「今のは…。」


 リンがそう口にすると、データを調べていたソフィアが説明する。


 「データに該当があります。権天使級の特徴でもある衝撃波のようです。」


 権天使級と戦う上で多くのA²乗りが口にする事。

 それがこの衝撃波である。

 強力な事に加え、不可視であるこの攻撃によって今まで多くの犠牲が出ている。


 「あの衝撃波の直撃を受けたら大破してしまいます。どう攻めたら…。」

 「そんなの決まっているでしょう!」


 リーゼロッテの不安げな言葉を吹き飛ばすように、シャナはクレオパトラを権天使級に突撃させる。


 「ナフティさん!」

 「あの衝撃波が来る前にあの牛を叩き壊す!」


 シャナは権天使級との距離を詰めていき、その頭部目掛けて大型エネルギーライフルを向ける。


 「もらった!」


 その声と共に放たれた高威力のエネルギー弾であったが、権天使級に当たる前にかき消されてしまった。


 「っ!!」

 「どうやらあの衝撃波は防御にも使われるようですね。」


 クレオパトラの後を追いかけていた他の面々も追いつき、ソフィアが分析を口に出す。


 「なら接近戦に持ち込みますか?…私が先駆けしますよ。」

 「マツナガ。気持ちは嬉しいけど、そうさせる気は無さそうよ。」


 シャナの言葉にリンが反応して権天使級を見て見ると、ミサイルが既に発射体勢に入っていた。


 「来ます!」


 それが発射されると同時に候補生たちはその場に留まりミサイルの群れを射ち落していく。

 だが権天使級はその間に衝撃波を放つ。


 「そう何度も!!」


 だが既にデータにて衝撃波が平面にしか広がらないのを知っていたため、何とか回避する事に成功する。

 だが、そこを追撃するように後ろからキューピット級が攻撃してきた。


 「きゃぁ!!」

 「リン!この!!」


 被弾したツルヒメを庇うようにリーゼロッテがキューピット級に乱射していく。

 その間にリンはキューピット級から距離を取る。


 「リンさん!大丈夫!?」

 「あ、アンジュ。だ、大丈夫。装甲が削れただけ。」

 「なら二人とも集中してください。次が来ます。」


 ソフィアの言葉どおり、権天使級はその全身から機銃が飛び出し隙間なく撃ってくる。


 「やらせない!」


 その攻撃をアンジュは盾で防いでいく。

 だがその後ろからキューピット級が突撃していく。


 「やらせません!」


 だがジャンヌ・ダルクに当たる前にリンがツルヒメの二刀にて両断していく。


 「ありがとうリンさん。」

 「礼を言うなら後にしなさい!衝撃波が来るわよ!」


 シャナがそう叫ぶ頃には衝撃波は既に近くまで迫っていた。

 間一髪で避ける事に成功するアンジュとリンであったが、キューピット級の迎撃に集中していたリーゼロッテだけは回避が遅れた。


 「しまっ!!」

 「バウマン!!」


 何とか回避運動を行うリーゼロッテであったが、衝撃波がクニグンデの脚部に当たり破壊されてしまう。


 「リーゼロッテさん!マナ漏れが!」

 「っ!」


 A²を動かす要であるマナの流失を防ぐためにリーゼロッテは緊急マニュアル通りに損傷個所である脚部をパージし、ケーブルも遮断する。

 それによりマナの流失は防げたが結果としてクニグンデは、脚部とその分のスラスターの推力を失った


 「リーゼロッテ・バウマン。どうですか。」

 「推力が20%落ちますけど。大丈夫です。」

 「そう?次は気を付けなさい。正直気にしてる暇も無いんだから!」


 そう言いつつシャナはリーゼロッテを守るように近づいて来るキューピット級を射ち落していく。

 だが未だにキューピット級は減る様子を見せず、権天使級も健在のこの状況。

 五人にとっては絶望的な状況であった。


 「ったく!何が数十よ。百は越えてるんじゃないの!?」

 「…中型を撃破すれば小型であるキューピット級は指揮系統がいなくなり無力化します。それは判明している事ですが。」

 「問題は。その中型に近づく事も出来ないって事…ですよね。」


 リンの言葉に誰も何も言えなくなる。

 遠距離攻撃が衝撃波で止められる以上、近づいての近距離戦に持ち込む他は無い。

 だが機銃で弾幕を張っているうえに、キューピット級の妨害がある現状では近づく事が難しい事は全員がよく分かっていた。


 「アンジュ。その盾を貸してください。」

 「…どうする気なの、リーゼロッテさん。」

 「クニグンデが文字どうり盾になります。皆さんは後に続いてください。」


 リーゼロッテの発言に全員が更に黙り込む中、本人は説明を続ける。


 「この中で一番接近戦に不慣れなのも、損傷を受けているのも私とクニグンデです。なら私が犠牲になるのが道理です。」

 「リーゼロッテ…!」

 「その作戦は却下させてもらいます。リーゼロッテ・バウマン。」


 リンが声を荒げる前に、ソフィアがリーゼロッテの提案を否定した。


 「どうして…!」

 「ここでアナタを犠牲にして近づいても仕留められる確証がありません。ならばクニグンデはキューピット級の迎撃に専念させた方がまだ役に立てます。」

 「…けど!」

 「それに。この作戦は全員が生き残って初めて成功と言えます。犠牲前提の作戦は認められません。」


 いつもの様に淡々とした口調ではあったが、口にした言葉には確かに確固たる意志が見られた。

 その言葉に感じるものがあったのか、リーゼロッテは黙り込む。


 「で?随分と説教じみていたけど。何か策でもある訳?ゼムスコフ。」


 シャナが近づいて来たキューピット級をナイフで切り裂きながらそう聞くと、ソフィアは断言する。


 「ありません。現状、権天使級には手が出せないと言えるでしょう。」

 「え!?」


 アンジュがそう思わず叫び、リンとリーゼロッテ。

 そしてシャナは開いた口が塞がらないようであった。


 「キューピット級をどうにかすれば権天使級に集中できて攻略の可能性があるのですが。…現状維持がやっとですね。」

 「それでよくバウマンを説得する気になったわねゼムスコフ!一周回って感心するわよ!」


 ソフィアに全力でツッコミを入れるシャナ。

 その間にもキューピット級は彼女たちを取り囲んでくる。

 五人とも必死に迎撃するが、権天使級の弾幕による妨害もあり間に合っていない。


 「ここまで…なのかしら。」


 アンジュが思わず弱音を漏らす。

 それを後押しするかの様に、権天使級が衝撃波の構えを取る。

 キューピット級が周囲を囲んでいる現状では満足に回避運動を取る事は難しいだろう。

 何機かは脱落するかも知れない。

 そんな予感が全員によぎる。


 「…えっ?」


 だが実際に彼女たちの横を通り過ぎた物体があった。

 それは真っ直ぐと権天使級に向かって行き、一本の角を粉砕する。

 それと同時に、彼女たちには聞き覚えのある一喝が五人に通信越しに耳に鳴り響くのであった。


 「簡単に諦めるな!不良娘ども!!」


 それは紛れもなく、元トールであり彼女たちの教官であるコウ・ロックハートの声であった。

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