第26話 プール際の少女たち
「…遅い。」
ヨコハマワールドパークの巨大プールエリアにて水着を着こんだコウは五人を待っていた。
流石に全員水着は持ってきてはいなかったが、様々な水着がレンタル出来ると知り折角来たのだからと入ったはいいが、しばらくの間コウは待ちぼうけを食らっていた。
「まさか俺の存在を忘れてるんじゃないだろうな。」
「そんな訳無いでしょ、人を何だと思ってるのよ。」
その言葉に反応したコウが後ろを振り向けば、そこには水着を纏った可憐な少女たちがいた。
「似合ってるじゃないか。どこのモデルたちかと思ったぞ。」
「フフン♪まあ褒められて悪い気はしないわね。これでもスタイルには結構自信があるのよ。」
そう言って黒髪を靡かせるシャナは、その褐色の肌を赤のビキニでコーディネートしていた。
候補生の中では一番の低身長ながら起伏に富んだスタイルをしてる彼女にとても似合っていた。
「着替えるの手間取ってしまい申し訳ありません教官。」
「いやまあ別にいいんだが…何でその水着を選んだゼムスコフ。」
「JAエリアを代表する水着と紹介されましたので。」
そう言ってシミ一つない白い肌と理想とも言えるプロポーションを見せるソフィアが身に着けているのはスクール水着であった。
だが本来魅せる水着では無いスクール水着でも、ソフィアが身に着けるとまるで輝いて見えるようであった。
「き、教官。変じゃないですか?気持ち悪くないですか?」
「どこまで自己評価低いんだよ。ちゃんと似合っているよマツナガ。」
「あ、ありがとうございます。」
白いフリルが付いた水着、いわゆるフレアビキニを身に着けたリンはコウにお墨付きを貰い安堵する。
均等の取れたスタイルをしているリンに可愛らしい水着がよく映えていた。
「みんなスタイルが良くて羨ましいです。私なんか胸だけ大きくなって…。」
「リーゼロッテ。それ、あんまり口にしない方がいいぞ?友達が出来ても消えるぞ?」
「消えるんですか!?」
実は候補生の中で一番のバストサイズを持っているリーゼロッテはそのスタイルのためか胸の部分にざっくりと切り込みが入った黒の水着を着ていた。
否が応でもその水着によってセクシーさを醸し出すリーゼロッテではあったが、本人的には不服らしい。
水着姿の四人を見渡しながら、コウはある事実に気付く。
「…あれ?レーナ―ルはどうした?」
「教官。アンジュ・レーナ―ルならあそこに。」
ソフィアが指で指し示した方向をコウが見てみると、そこには物陰から此方の様子を窺うアンジュの姿があった。
「どうしたんだ、アレ?」
「それが分からないのよね。水着に着替える前は普通だったのに。」
シャナがヤレヤレといった様子で肩を竦める。
他の三人も理由が分からないらしく疑問に思っているようだ。
「仕方ない、様子を見て来る。ナンパされてもついて行くなよ。」
「問題ありません。いざという時は再起不能にしてみせます。」
「…せめて三分の一殺しぐらいにしてやれ。」
普段から格闘術も教え込まれているソフィアたちなら、本気で再起不能にしかねないと思いつつコウはアンジュに近づく。
「どうしたレーナ―ル。こんな所でかくれんぼか?」
「…教官。」
アンジュはコウの軽口にも答えず、本気で悩んでいる様子で物陰から顔を出す。
「悩みなら相談に乗るぞ?それとも泳ぎたく無いのなら俺から伝えるが?」
「ち、違うんです。泳げない訳では無いんです。…見て下さい。」
そう言って物陰から出るアンジュはバスタオルでその体を包んでいた。
だがやがて勇気を出すようにそのバスタオルをを取ると、そこにはレースの入ったハイネック水着を着こんでいた。
「…?それがどうした?よく似合っていると思うが?」
高身長なアンジュに大人の女性らしさがあるレースのハイネックはよく似合ってるとコウは思っていた。
アンジュは少し嬉しそうにしながらもすぐに暗くなる。
「ありがとうございます。…けど私には圧倒的に足りないんです。」
「足りない?」
何の事か分からずコウが聞き直すとアンジュは腹部より上、胸部を擦る。
「つまり…こういう事、です。」
「あー。つまりスタイル的な、って事?」
そのコウの言葉にアンジュは静かに頷く。
アンジュの体型は良く言えばスラッとしている。
だが悪く言えば貧乳と言える体型であった。
どう言えばいいかコウが考えてるとアンジュが落ち込むもう一つの理由を話し出す。
「しかも、みんな私より大きくて…一番の年長なのに。」
そう候補生の中で最もバストサイズが小さい事をアンジュは密かに気にしていた。
特に着替えてる途中にリーゼロッテのものを見た際には一瞬思考が止まってしまった程である。
「遠くで遊んでいるので教官はみんなと一緒に居てあげて下さい。教官も大きい子の方が良いですよね?」
そう言って距離を取ろうとするアンジュにコウは声をかける。
「あまりにもデリケートな話題で少し戸惑っているが。それでもレーナ―ル、一言だけ言っておく。」
「何でしょう。」
「確かにお前にとって自分のスタイルは自信が持てないものかも知れない。だがな、俺はお前を綺麗だと思うぞ?」
「…お世辞は結構です。」
「世事でこんな恥ずかしい事が言えるものか。第一に胸の大きさで一緒に居たいかどうかは決めないぞ、俺は。」
コウがそう言うとアンジュは身を乗り出して迫る。
「ほ、ホントですか!」
「ホントだって。」
「嘘だったら償ってもらいますからね!」
「分かった、分かった。だからいい加減に合流するぞ。みんな待ちくたびれて…って本当にナンパされてるし。」
四人を見れば今まさにナンパを追い返したところであった。
他にもナンパをする輩がいる可能性を考えれば、あまり同じ場所で待たせたくはなかった。
「ほら行くぞレーナ―ル。スタイルの事なんて忘れるぐらい一緒に遊んで来い!」
「…はい!」
アンジュの手を引きながらコウは四人と合流する。
理由については一時的な体調不良と誤魔化し、皆で談笑を始める。
笑顔で会話に華を咲かせるその姿はA²乗りの候補生ではなく、五人の少女としての微笑ましい姿であった。
「よーし!水中訓練だと思って泳ぎまくるわよ!」
シャナのその一言で五人はそれぞれ遊び出す。
コウはその様子に微笑みながら、予定の時間が来るまで五人を見守るのであった。
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