第25話 つかの間の休息

 日曜日当日、コウは五人を連れて目的地へとキャンピングカーで移動していた。

 目的地の名は『ヨコハマワールドパーク』。

 この世界においてもはや数が少なくなった大型の娯楽施設であり、施設内は遊園地と動物園、そして大型プールが一つになっている。

 アランはヨコハマ基地の司令官として何度か招待されており、その度に優先チケットを貰っているため、それを分けて貰う形となったのである。


 リンとアンジュ、そしてリーゼロッテはかなり楽しみにしているらしく、車内でも楽しそうな会話が途切れる事が無い。

 ソフィアは会話に加わる事もなく、外の景色を見つめたまま動かない。

 相変わらず何を考えているかコウには分からなかったが、何時もどうりとも言えるので何も言わなかった。

 それよりもコウがいま問題視しているのは。


 「…。」


 黙って「納得していないわよ」オーラをまき散らしているシャナであった。


 「…機嫌を直せナフティ。これは一応褒美なんだから。」

 「理解してるわよ。けど子どもじゃ無いんだからそんな事で喜ばないわよ。」


 そう不機嫌そうに言うシャナに対してコウは運転しながら突っ込む。


 「歳から言えば十分に子どもだろうが、勝手に大人になったつもりでいるな。」

 「はいはい悪かったわね。…第一大げさじゃない?わざわざこんなのまで借りて。」


 実はこのキャンピングカー、普通のように見えるがフレームはA²と同様の物を使用。

 その他にも車内のあちこちにライフル等が隠されている代物である。

 アランが気を回して用意した物で、初見は流石のコウも引いていた。


 「まあこの車に関してはコメントは差し控えるとしてもだ。何がそんなに不満なんだ?まさかと思うが自分が遊ぶ事に罪悪感でも感じるか?」

 「…。」


 そっぽを向くシャナを見て当たりと判断してコウはため息を吐く。

 母親に楽をさせる為に上を目指してきたシャナにとって、ただ遊ぶという行為は罪悪感を覚えるには十分なのであろう。


 「ナフティ。気休めにしかならないが、その罪悪感を軽くするための方法。教えてやろうか?」

 「何よ。」

 「今日一日は頭を空にしてバカになって遊べ。」

 「全然解決方法になってないと思うんですが教官?」


 ジト目で睨みつけるシャナに対してコウは苦笑しながら続きを話す。


 「まあ聞け、何事も続けていれば効率は悪くなる。特にお前のように常に気を張り詰めているような奴は、いつか無理が祟る。」

 「…。」

 「ナフティ。偶には気を抜いて過ごせ。そんな自分が許せないと言うのなら、俺のせいにしろ。それが出来なければ、いつかどこかが壊れるぞ。」

 「…考えておくわ。」


 そう言って黙り込むシャナであったが、先ほどまでのオーラは消えているので納得したのであろうとコウは思いつつ車を走らせる。



 「あー!!あの子可愛い!!」

 「車でのやり取りは一体何だったんだ。」


 コウはシャナの浮かれように思わずそう口にしたが、小動物に夢中になっているシャナには聞こえない。

 無事にヨコハマワールドパークへと着いたコウたちはまずzooエリアへと足を運んだ。

 『天使』からの攻撃から生き残った動物たちが多く保護されており、様々な種類の動物たちが見られた。

 中でもシャナはフェレットのような小動物に夢中らしく先ほどから目を輝かせている。


 「全く。…まあアイツも年相応って事か。」

 「シャナ・ナフティがあそこまで動物に目がないとは思いませんでした。中々興味深いです。」

 「…ところでお前は何で動物も見ずに俺の隣にいるんだ?ゼムスコフ。」


 先ほどからアイスを食べながら隣から動こうとしないソフィアにコウは問いかけると何の迷いの無い答えが返ってくる。


 「ここらの動物よりも教官を見ていた方が有意義ですので。」

 「勝手に俺を観察対象にするんじゃねぇ。」


 そう言いつつコウはアイスを食べ終わったソフィアにホットコーヒーを差し出す。


 「ありがとうございます。」

 「気にすんな。」


 小さな口でコーヒーを口に運ぶソフィアを見ながら、コウは視界の端に見える三人の様子を見守る。

 友達が欲しいと思っていたリーゼロッテとマイナス思考になりがちなリン。

 それに人を思う気持ちが強いアンジュが加わり、友人関係が築かれている。

 何を話しているかまではコウには分からないが、楽しそうなのは確かであった。


 「…なあゼムスコフ。」

 「はい?何でしょう。」

 「お前は友人を作ろうとか思わないのか?大抵一人でいるが。」


 三人を見て思わず思った事を口にするコウ。

 だがソフィアは気を悪くする事もなく不思議そうに答える。


 「特に思いませんね。作らなければいけないという規則もありませんので。」

 「…そうか。」

 「ですが。」


 ソフィアはリンたちを見ながら感慨深げに答える。


 「もし友人と言える存在がいれば、あのように笑い合える日々もあったのか。そう思う時も、無い訳ではありません。」

 「ゼムスコフ…。」


 コウにはそう話すソフィアの顔がどこか悲しそうに見えた。


 「…ですが。私の合理性に納得する人でなければ関係を構築するのは難しいでしょう。」

 「お前の言う合理性は人とズレているけどな。…それにその考えも間違ってる。」

 「そうでしょうか?共通の考えを持っている者の方が関係は築きやすいと思いますが。」

 「そう思うのなら、一つ検証と行こうじゃないか。」


 そう言いつつコウはソフィアと向き合う。

 不思議そうにしているソフィアにコウはある提案をする。


 「これから俺とお前は友人だ。授業や訓練中はともかくプライベートでなら気軽に話しかけてこい。」

 「…ですが。教官と私では共通点が少なすぎると思われます。この友人関係を維持する事は難しいと思われます。」

 「だからこそ、だろ。もしこの関係が続くのであればお前の理論が間違っている証拠だ。例え共通点が少なくとも友人になれるって事の証明にもなる。」

 「…なるほど。」


 ソフィアは考え込みながら頷くと手を差し出す。


 「ん?」

 「折角ですので友人として握手をしたいのですが…ダメですか?」


 どこか目を潤ませながらそう聞くソフィアにコウが返す言葉は決まっていた。


 「まさか。友人として頼むぞ、ゼムスコフ。」

 「ええ。今後ともよろしくお願いします…コウ教官。」

 「いきなり名前呼びか。まあいいが。」


 コウが華奢なソフィアの手と握手をしていると、浮かれた様子のシャナが二人に近づいてくる。


 「二人とも!あっちで動物と一緒に写真撮影出来るんですって!行きましょう!って言うか来い!」

 「あ、ちょ、ちょっと!?」


 シャナに引っ張られていくソフィアは珍しく慌てた様子であった。

 そんな些細な事が面白く、笑みを浮かべながらコウは二人の後を追うのであった。

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