第24話 得たものと、ご褒美

 「お疲れさん。で、どうだった?あの子たちの初陣の様子は。」


 アマノイワト作戦から数日経ったある日、コウはアランに司令室に来るように言われていた。

 向かうとそこには、呼び出したアランと副司令のヨナが待っていた。


 「まあ良くも悪くも、といった感じだな。それぞれ成長と課題は実感できたと思うが、あんな幕切れだったからな。」


 コウは肩を竦めながら何とも言えない雰囲気となった撤収時の事を思い出す。

 まるで通夜のような空気の中で長時間過ごしたのを今でも鮮明に思い出せるほどである。


 「こっちもあれだけの用意をしたが得る物は少なかった。…やっぱり幹部級が全員死んだのが痛かったな。」


 この作戦の最大の目的は、このエリアだけでなく全てのエリアの反連合武力団体の情報を得る事であった。

 しかし、知りえるであろう幹部級は戦死か自決という道を選んだ。

 データ上にあったであろう情報もほとんどが消されており、復元はかなり難しい状況であった。


 「しかしながら、得るものもありました。」


 司令室に流れていた空気を断ち切るようにヨナがプラスの面を語り始める。


 「まず第一に反連のエリアを叩いた事で市民の信頼を得ました。第二に各エリアもこれを受けて反連のアジトを叩く事に積極的になるでしょう。どちらともすぐに影響が出る訳ではありませんが、いずれ良い方向に向くでしょう。」

 「だといいけどな。骨折り損は勘弁して欲しいぜ。」


 アランが脱力した様子で愚痴を言うのをコウは感情を見せない表情で見ていた。

 例えどのようにふざけた態度を取っていようと、その内には様々な策謀が渦巻いている。

 アラン・フェデリーチはそういう男だという事をコウはよく知っていた。


 (たぶん今もこの状況を上手く利用する事を考えているんだろうな。)


 ヨナに戒められているアランを見ながらコウはそう考える。

 考えている事が自己保身や過剰な欲望であればコウも友人関係を切っているが、アランの目的は昔から変わらない。


 ―世界を今よりも平和にする事


 その為にアランは様々な謀略を張り巡らせている。

 手伝いたい思いこそあるが、下手に手を出せば逆に迷惑を掛ける事を知っているコウは今回のように依頼を極力受けるだけに留めている。


 「っと。今回呼び出した要件を忘れるところだった。」


 そう言うとアランは何かをゴソゴソと取り出そうとしている。


 「作戦に参加した奴にはそれぞれ臨時ボーナスが支給される事になっている。当然この基地所属となっているお前にもな。」

 「俺は大した事はしていないんだがな。」

 「参加したのは事実です。受け取らない、という選択はありませんよ。」


 コウはヨナの発言に苦笑を返しつつ、アランに続きを促す。


 「だが、彼女たちは違う。アイツらは確かにこの基地預かりとなっているが、立場はまだ学生だ。給金の類は発生しない。」

 「まあそうなるか。…アイツらも給金目的で動いた訳では無いとは思うがな。」


 もちろん貰える物はもらうだろうが。

 と口にするコウに対しアランは笑みを浮かべながらある物を引っ張り出す。


 「だがアイツらだけ何も無しと言うのはあまりに可哀そうだろ?」

 「幸いにもここにそれを解決する品があります。中尉には彼女らが羽を伸ばし過ぎないように見守ってもらいます。」


 コウが訝しげにその品を確認すると、眉がピクッと動く。


 「…いいのか?」

 「いいって、どうせ持っていても持ち腐れだからな。精々楽しんで来い。」


 それを聞いてその品を素直に受け取ると、コウは候補生全員に教室に集合するようメッセージを送るのであった。



 「よし。全員集まっているな。」

 「一体何なのよいきなり。また戦場にでも?」


 少し遅れて来たコウに対してシャナが厳しい口調で問いかける。

 作戦が終わってから日が浅く、初陣であった事も加味して今日は授業やトレーニングを休みにしていただけに不満は大きそうだ。

 他のメンバーも口にはしないものの、それぞれ何か言いたげである。


 「まあいきなり招集した事は謝る。謝るんだが…いくつか突っ込ませてくれ。」

 「な、何よ。」

 「ナフティ。こんな時にもトレーニングか?少しは体を労われ。」


 シャナの服装はトレーニングウェア、しかも汗で濡れているため直前まで訓練していた事は明白であった。


 「し、仕方ないじゃない!体を動かしてないと落ち着かないんだから!」

 「分からんでもないが、体と心を休めるのも軍人として大切な事だ。休める時に休んでおけ。」

 「…了解。」


 不承不承といった様子で頷くシャナを確認するとコウは他の四人に視線を向ける。


 「まあレーナ―ルの私服、マツナガの道着、バウマンの寝巻は仕方ないから置いておくとして。」


 コウはその三人から視線を外すと、残る一人を注視する。


 「問題はお前だゼムスコフ。」

 「?何か問題があるでしょうか教官。」


 何が問題か分からないと言わんばかりに首を傾げるソフィアにコウは頭を抱える。

 その気持ちを代弁するかのようにシャナが大声でツッコミを入れる。


 「いや問題ありすぎでしょゼムスコフ!何がどうなったらナース服を着こむ理由になるのよ!」


 そう、現在ソフィアの身を包んでいるのは制服でも私服でもなく本来看護師が着るはずのナース服であった。

 しかもミニスカート仕様となっており、その綺麗な素足が丸見え状態であった。

 もはやこの時代において遺物となりつつある服装に身を包んでいるソフィアは堂々と説明をしだす。


 「今回我々は無事に初陣を迎え無事に帰還する事に成功しました。ですが気づかなくとも心身は疲労しているでしょう。ですのでこの服装を着こむ事によって回復のスピードを上げれないか検証していました。合理的です。」

 「どこを!どう聞けば!今の話が!合理的に聞こえるって言うのよ!!ただコスプレしているだけじゃない!!」


 シャナが力の限り咆哮するが、どうやらソフィアには届かないらしく不思議そうな顔をしている。

 ぜぇぜぇ息をしながら更に声を荒げようとしてるシャナであったがコウが口を挟む。


 「あー、ゼムスコフ?着こむ事で治療効果があるかはさておいて。少なくとも心を癒すのは心療の医師じゃないか?」

 「!!??」

 「き、気づいてなかったんだ。」


 リーゼロッテの呟きと共に驚愕の顔のまま崩れ落ちるソフィアを一先ず放置し、コウは話を進める。


 「さて。今回集まって貰ったのは今度の日曜日に予定を空けて貰いたいからだ。」

 「…今回も何か重要な事が?」


 アンジュが真剣な様子で聞くが、コウはそれを笑顔で否定する。


 「違う違う。どちらかと言えばご褒美の類いだな。」

 「ご、ご褒美…ですか?」


 リンの問いかけにコウはニヤッと笑うとある物を見せる。

 それは何らかのチケットのように見え、ちょうど六枚あった。

 そしてコウは高らかに宣言するのであった。



 「全員。今度の日曜日に遊びに行くぞ。」

 「「「「…はい?」」」」


 ソフィアを除いた全員の声が教室で重なり響くのであった。

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