第23話 初陣の行方

 『ガーディアン』とは、反連が統一連合のA²に対抗して造り上げた人型兵器である。

 マナで動くA²に対して、ガーディアンの利点はマナを必要としないため乗る者を選ばない事と量産性である。

 たが当然、A²と比べれば性能が格段に落ちる。

 故にこの結果も必然と言えたであろう。



 「倒れろ!!」


 シャナの叫びと共にクレオパトラの両肩にそびえる大型ガトリング砲の砲身が回転する。

 と同時に大量のエネルギー弾が前方に撒き散らされていく。

 大破したのは一機のみではあったが、そもそも相手を散らして各個撃破が目的である。

 そしてその狙い通りにガーディアンたちは散り散りになっていく。


 「全機、逃がすなよ。敵機の位置データは常に把握しといてやるから。」


 コウの言葉を受けて各機はそれぞれガーディアンを仕留めにかかる。

 その中でも最も早く動いたのはアンジュが駆るジャンヌ・ダルクであった。

 真っ先に敵陣に突入する事を想定して建造されたジャンヌ・ダルクはこの状況に一番適したA²と言えたであろう。


 ジャンヌ・ダルクの接近を察した反連たちは、近づけさせまいと装備されているマシンガンを乱射する。

 だがジャンヌ・ダルクの標準装備である大型盾によってそのほとんどが防がれる。

 そしてもう一つの標準装備であるハルバートを突進の勢いのまま振るう。


 「逃しません!」


 そして一機のガーディアンの脚部を切り裂くとハルバートを回転させ周りにいた二機の頭部を破壊し行動不能する。


 「…ふぅ。」


 何とか戦えた事に安堵しつつアンジュは次のガーディアンに狙いを定め移動する。

 だが、その隙を狙うように別のガーディアンが森に隠れて狙撃しようと構えていた。

 今まさにジャンヌ・ダルクに狙いを定めてその引き金を引こうとしていたガーディアンであったが、その弾が発射される事は無かった。

 リーゼロッテが操るクニグンデに握られた、二丁のライフルの内一つをそのガーディアンに向けて弾丸を放ったからである。

 狙撃しようとしていたガーディアンは反応も出来ずに頭部を破壊されてその場から動けなくなる。


 「よ、よし!」


 上手く狙い撃てた事に喜ぶリーゼロッテであったが、その背後から迫る影があった。


 「うおぉぉぉぉぉぉぉ!!」


 その雄たけびと共にガーディアンが大型ナイフを振り上げクニグンデに襲い掛かる。

 少し反応が遅れたリーゼロッテであったが、すぐさま対処しようとする。

 だが、それよりも早くリンのA²であるツルヒメが間に割って入る。

 ツルヒメは手に持ったブレードの二本を扱い、ナイフを持ったガーディアンの右腕を叩き切るとそのまま腰部も両断する。

 そのまま倒れ込むガーディアンを確認するとリンは不安そうにリーゼロッテに問いかける。


 「も、もしかして余計なお世話だった?」

 「そ、そんな事ないよ!助けてくれてありがとうマツナガさん!」

 「そ、そう…。良かった。」


 それだけ言うとリンは次のガーディアンをツルヒメで追いかける。

 リーゼロッテもライフルのスコープを覗き込み離れた敵を狙い撃つ。

 だがこの時、偶然にも二人は同じ事を考えていた。


 ―基地に戻ったらリン(リーゼロッテ)と友達になろう、と。


 そのような出来事があった一方で、ソフィアが操るルサルカによって多くのガーディアンが戦闘不能に追い込まれていた。

 ルサルカの特徴であるビット兵器、正式名称『脳波使用オールレンジ遠隔兵器 トリグラフ』に反連たちは対処出来なかったのである。

 既に六機のガーディアンが地に倒れているが、それでも反連の者たちはルサルカに向かって行く。


 「無駄です。」


 だがソフィアは冷たくそう言い放つとトリグラフを再び機動させる。

 まるで水の中を泳ぐ魚のように自由自在に宙を舞うトリグラフたちから放たれるエネルギー砲によってまたガーディアンが地に倒れる。


 「隙あり!!」


 だが隠れていたガーディアンが無防備な状態であるルサルカにナイフを振るう。

 直撃間違いなしと確信した反連であったがその確信は打ち壊される事になる。


 「はぁ!?」


 トリグラフの一つが遠距離モードから接近戦モード、つまりはエネルギーブレードを発生させた状態でナイフを受け止めたのである。

 その間にも残りの二機のトリグラフが襲い掛かったガーディアンに向けてエネルギー砲を放つ。


 「く、クソォォォォォォォ!!」


 そう叫びながら地に伏せる反連にソフィアはただ一言だけ呟いた。


 「だから無駄だと言いました。」


 呆れたように言うソフィアのルサルカにジャンヌ・ダルクが近づいて来る。


 「流石ね、ゼムスコフさん。」

 「いえ、そちらもお見事でした。アンジュ・レーナ―ル。」

 「けど通信を確認してないのはいただけないわよ。」

 「すみません。トリグラフで意識を集中させていたので。」


 ソフィアがその内容を確認すると残るガーディアンは一機、というものであった。


 「…残り一機、となれば。」

 「ええ、急ぎましょう。ナフティさんの元に。」


 二機のA²はすぐさま飛び立つとシャナの元に急ぐのであった。



 「何故だ!何故だ!何故だ!!どうして正義が負けるのだ!!」


 残る一機のガーディアンである隊長機に乗った反連の男はヒステリックに喚き散らす。

 その様子を見て、逃がさないように追っていたシャナが呆れたように言う。


 「それはアンタたちが正義じゃなかったって事じゃないの?」

 「否!!我々は正義!我々は絶対!我々の理想こそが秩序!!」

 「はぁ、もういいわ。相手にするのも疲れたし、さっさと捕縛しましょうか。」


 そう言ってシャナはクレオパトラの近接武器であるナイフを構えるとガーディアンと本格的に相対する。


 「やってみろ小娘!!」


 隊長機のガーディアンはソードを構えるとクレオパトラに真っ直ぐ突進していく。

 だがシャナはそれに動じる事もなく、ナイフを逆手に持ち直すとガーディアンの腕部を切り裂く。


 「何ぃ!?」

 「甘いのよ!」


 そのまま硬直したガーディアンに腹部に蹴りを当てて倒すと、止めと言わんばかりに腹部にナイフを突き立てる。

 ガーディアンから漏れだしたオイルがクレオパトラに浴びせられ、まるで血まみれのようになる。

 ちょうどその時、他の候補生のA²とコウの乗っている指揮車がやって来た。


 「お疲れ様ナフティ。功労賞ものだな。」

 「褒めすぎでしょ教官。それに作戦はまだ終わっていないんでしょ?」

 「いや?今さっきアランから情報が入った。敵司令部を完全に制圧、後は残党を狩るだけだと。後は後続の部隊に任せてさっさと帰れ、とな。」


 作戦終了と聞き安堵する候補生たちであったが、突如各機のアラートが鳴り響く。


 「っ!ナフティ!」

 「!!」


 コウの呼び声に反応してシャナはすぐさまその場から離れる。

 それと同時にガーディアンの隊長機が爆発する。


 「じ、自爆!?」


 アンジュの叫びと同時に各ガーディアンが次々に自爆をしその姿を消す。


 「「「「「…。」」」」」


 五人が辺りを見渡せば、存在しているガーディアンは存在しなかった。


 「…ったく。命を粗末にしてるんじゃねぇよ。」


 コウはそう苦い顔で言葉を吐き出すのであった。



 こうして彼女たちの初陣は勝利ながらも苦々しいものとなったのであった。

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