第22話 作戦名『アマノイワト』
候補生たち全員が作戦参加の意思を示してから決行まで、コウたちは表向きは通常通りの日々を過ごしていた。
しかしその実は秘密裏にそれぞれのA²を作戦地点まで運び込み、作戦に向けて入念に話し合いを行った。
テロという脅威を未然に防ぐため五人は真剣に作戦に向き合い、そして作戦当日を迎えた。
作戦名『アマノイワト』。
テロの脅威を崩し、人々の平和という太陽を引きずり出す作戦開始まであと数分となっていた。
「「「「「…。」」」」」
コウたちは反連がアジトとしている山、その麓にあるトンネルの一つの前に陣取っていた。
中途半端な位置に作られた脱出道のため、ここから逃げ出す者はいないであろうと予測されてはいたが初めての実戦に候補生たちは緊張していた。
緊張とは無縁そうなソフィアでさえ緊張で何も話さない事から緊張の具合が見て取れる。
「今から緊張してたら身が持たないぞ。もう少し気を抜いておけ。」
今回はA²に乗らず指揮車にて候補生たちのサポートに回るコウから軽い口調で通信が送られる。
「…簡単に言ってくれるわね。こっちは初めての実戦なのよ。」
今回は両肩のエネルギー砲『ナイル』を大型のガトリング砲に変えたクレオパトラに乗り込んだシャナがコウに対して苦い顔をしながら反応する。
それに対してコウは両肩を竦めながら答える。
「そりゃそうだろ。俺はもう通った道だからな。」
「き、教官はそうかも知れないですけど…。」
ツルヒメの装備である日本刀型の実体ブレードを握り込みつつリンは緊張を少しでも紛らわせようとしている。
(まあネガティブに支配されるよりはマシだがな。)
コウは内心でそう評価しながら全員の緊張を紛らわせるための情報を口にする。
「まあ安心しろ。アランは用心深い、お前らの後ろにも部隊を展開している。(…そして作戦で話していない部隊も恐らくな)。」
コウのこの予想は的中しており、アランは各地に自身の命令に忠実な秘密裏の部隊を各地に配置していた。
実際にコウはアランからこの部隊の事を聞いた訳では無いが、それでも存在している事は予想がついていた。
アランもコウに隠していた訳ではなく、言わなくても分かるであろうという予想から言わなかっただけである。
「私たちが失敗しても問題はない…という事ですか。」
専用機であるジャンヌ・ダルクの武器であるハルバートにマニピュレーターを握り込ませながらアンジュが漏らした言葉をコウは否定する。
「いや?どこの部隊の後ろにも部隊を展開しているぞ。アイツは基本誰も信用していないからな。」
「え?で、でも何時も笑顔で接してくれてますよ?」
五度目となるクニグンデ用である二丁のライフルの点検をしながらリーゼロッテが信じられないといった風に反応する。
それに対してコウはため息を吐きながら答える。
「アイツは誰に対しても基本笑顔だよ。例え心底嫌いな相手でも笑って対応して見せるだろうな。…本当に信用している人間は数えるほどだろうな。」
「ですが、教官は司令官と友人関係なのですよね。それも
「…聞きづらい事を聞くよな、ゼムスコフ。」
何もしてない様に見えて実際はルサルカのチェックを何度もしているソフィアが切り込んだ事に対して、コウは苦笑を返す。
「…通常の付き合いの奴よりは信用されてると思うよ。友情も無い訳ではない、とも思う。ただアイツが命をかけて俺を助けるかと問われれば疑問だな。」
「もっと人情味にあふれた人だと思っていたけど…人って分からないものね。」
シャナがそう感想を言うとコウは先ほどより苦い顔で答える。
「そうでもなければあの若さで一つエリアを任されるほど出世しないさ。あいつにも理想がある、そこを目指すために努力してるんだよ。」
そこで話を区切ると、コウの表情が真剣なものになる。
「そろそろ時間だ。各員、覚悟を決めろ。」
その五分後、遠く離れたコウたちにも聞こえる程の砲撃音が鳴り響いた。
作戦開始から一時間が経過しようとしていた。
状況は圧倒的に統一連合側が有利であった。
徹底した情報管理と高練度の部隊による強襲によって完全に不意を突かれた反連はまともな反撃も出来ずにいた。
各地で次々と幹部級の捕縛、もしくは戦死が伝えられる中でコウたちは状況を見守っていた。
「…本当にやる事無いわね。」
「だから言ってるだろ?ここに来る可能性は低いって。」
シャナのボヤキにも似た感想にコウは半笑いで反応する。
他の候補生たちも時間が経過するごとに段々と緊張の糸が解れてきたのか、今にも談笑をしそうな様子であった。
しかし、その空気を一変させるアラートが指揮車に鳴り響く。
「…全員、気を引き締めろ。どうやら中途半端な道を選んだ状況の見えない奴が来るみたいだぞ。」
「「「「「!!」」」」」
候補生全員に緊張が再び戻って来る。
コウが警告した数分後に反連の主力である人型兵器『ガーディアン』。
統一連合の中ではA²モドキと言われている機体、十五機ほどが脱出道から現れた。
初めて明確な敵と出くわし緊張に包まれる候補生たちを余所に、コウは形式として降伏勧告を行う。
「反連合武力団体に告ぐ!降伏するなら条約に則って対処する事を宣言しよう!」
「黙れ!統一連合の犬め!」
隊長機と思われるガーディアンから怒りが混じった声が返ってくる。
その声は怒りのままに喚き散らす。
「どうせお前らは統一の名の元に弱者から搾取する虫だ!我々は市民の目を覚ますために立ち上がった救世主なのだ!」
「…お前たちがどの様な理想を掲げようと全く、明日の朝食ほどの興味も無い。」
コウは呆れたような口調で反連の人物に反論する。
「だが、お前らの主張が正しいとしても。一般市民を巻き添えにするような行為を認める訳にはいかないな。」
「民衆の目を覚まさせるには多少の犠牲は必要だ!革命のためには血が付きものなのだ!どうしてそれが分からん!」
「単に自分たちの力を誇示したいだけだろうが。…全員聞いていたな。」
コウの言葉に候補生たちは戦闘態勢を取る事で答える。
例え候補生とはいえ、犠牲を正当化する者を軍人として見逃す訳にはいかなかった。
緊張を通り越してやる気に満ちた全員を見てコウは満足げに命令を下す。
「このバカに現実を教えてやれ。力で解決しようとする輩はそれ以上の力で叩き潰される事をな。」
「「「「「了解!!」」」」」
「やってみるといい!命令に従うしかない犬め!」
候補生たちのA²と反連のガーディアンが衝突する。
彼女たちの初めての実戦が今、始まるのであった。
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