第18話 リーゼロッテ・バウマン②
「さて。『第一回 バウマンの友達作ろう会』の会議を始める。」
「あ、あの教官。そ、その名前は一体?」
「こういう事は形式からハッキリさせた方がいいからな。ネーミングが気に入らないなら変えるが?」
「い、いえ!実はこういう事に憧れてたんです!」
人気の無い第十三ミーティングルームにてコウとリーゼロッテはテーブルを挟んで話し合う態勢を作っていた。
議題は勿論どうすればリーゼロッテに友達が出来るか、である。
やる気を見せるリーゼロッテを見つつコウはある物を取り出す。
「き、教官。これは?」
「ああ。必要な事を書き出すためにホワイトボードを持って来た。」
そこには中心にリーゼロッテの名前が書かれており、その周りには他の候補生の名前が書かれていた。
「まずハッキリさせたいが、現時点で仲がいいと呼べる奴はこの中にはいないな。」
「は、はい。中にも外にもいません。」
落ち込みながら言うリーゼロッテを余所に、コウはボードに何かを書き込んでいく。
「バウマン、耳の痛い話だろうが聞け。今のままの状態では誰だろうと友人関係を築くのは難しい。」
「うっ!…そ、そうですか。」
「ああ、話を聞く限りお前のコミュニケーション能力はかなり低い。その点を考えれば、いきなり行動するのではなく俺に頼ったのは正解だ。」
ハッキリとコミュニケーション能力が低いと言われてさらに落ち込むリーゼロッテであったが、話は聞いているようでコウの言葉に相槌を打っている。
「まず俺が提案するのはお前の長所を得意な事、あるいは趣味を整理する事だ。」
「そ、それが何か役に立つのでしょうか?」
「友人関係は共通の話題、趣味があると構築されやすいと聞く。お前と他の四人の誰かが共通の趣味を持っていれば。」
「と、友達になりやすい!」
「そういう訳だな。分かったら書けるだけ書きこめ。」
ホワイトボードに考えつつ自分が出来る事を書き始めるリーゼロッテを横目にコウは教官としての仕事をし始めるのであった。
「か、書き終わりました。」
「ん?どれ?見せて見ろ。」
コウはリーゼロッテが羅列した趣味を見ていくと、若干眉間に皺が寄る。
「な、何か変でした?」
「いや。別にどんな趣味を持っていようと自由なんだが。」
コウは書かれた一つに一本の線を引く。
「A²の操縦、は無いだろう。確かに共通の話題ではあるがどちらかと言えば仕事だろ、これは。」
「そ、そうですよね…。」
「それからこの、一人人生ゲームって何だ?」
「し、知りませんか人生ゲーム。」
「いやそこじゃ無くて。一人で人生ゲームなんてして楽しくないだろ。」
「い、意外と楽しいですよ。どれだけ所持金を稼げるかとか、最短で結婚するのはどうすればいいかとか、あ、後は。」
「もういい。バウマン、お前の為に言うがそれは絶対口外するなよ。いいな、絶対だぞ。」
「は、はい。」
コウが強く念押しをしてリーゼロッテを頷かせると、その後も一人ツイスターゲームや一人オセロに線を引いていく。
「で?一人シリーズを除けれれば残ったのはコンピューター関係か。」
「そ、そうですね。」
コウは少しばかり憐れみの視線を向けつつ顎に手を当て考える。
「だが問題は、あの四人にここまで機械類に強い、あるいは興味のある奴がいるかどうかだが。」
「…。」
どのエリアであろうと、授業等で最低限は学ぶはずなので多少の話は出来るだろう。
だが、ハッキングや本格的な知識となると全員怪しいだろう。
(ゼムスコフが一番有力だが…。あの独特の価値観にバウマンが付いて行けるかどうか…。)
ソフィアの独特のワールドにリーゼロッテが巻き込まれてしまう想像をコウは必死にかき消そうとする。
するとリーゼロッテが、か細い声で呟く。
「…やっぱり、私に友人なんて、無理、なんでしょうか?」
コウは今にも泣きそうなリーゼロッテから視線をボードへと逸らす。
するとボードの端の方に何かを書いて消した跡を見つける。
「バウマン。ここには何て書いてたんだ?」
「え?あ、こ、これは。し、しばらくやってないですし。し、趣味とも言えるものでは…。」
「何が切っ掛けになるかは分からないだろ?言ってみろ。」
「わ、笑わないでくださいね。じ、実は…。」
その翌日。
「さて、今日はここまで。各自復習を忘れないように、基本あっての応用だからな。」
コウはA²の基本の知識を教え終わると、各自がそれぞれの予定を消化するため教室を出ようとする。
(行けバウマン!)
視線でリーゼロッテに合図を送るコウであったが、勇気が出ないのか中々動けずにいた。
そうしている間にも皆が教室から出ようとしていたので、コウはもう少し手助けをする事に。
「すまん忘れていた。バウマンから皆に用があるらしい。」
「バウマンが?」
一番最初に出ようとしていたシャナがそう言って教室に戻ったのを皮切りに全員がリーゼロッテに注目する。
「ぁ…その…。」
(後はお前次第だぞ、バウマン。)
必死に言葉を出そうとするリーゼロッテを心の中で応援するコウ。
その気持ちが届いたように彼女も覚悟を決める。
「何よバウマン。用が無いんだったら…。」
「あ、あの!!」
「ひゃっ!」
突然大声を出しながら立ち上がったリーゼロッテにシャナが驚くが、その事を気にする余裕もなく彼女はある物を取り出す。
「く、クッキー焼いて来ました!どうですか!?」
そうもはや叫びにも似た声を出しながら取り出したのは手作りクッキーであった。
クローバーの形に統一されたクッキーがギッチリと詰められた箱を差し出すリーゼロッテに対して四人の反応は。
「「「「…。」」」」
無反応であった。
と言っても意外な人物の突然の行動にどう反応すればいいか分からない、という反応ではあったが、誰も動こうとしない。
場が硬直してしまい、リーゼロッテが泣きそうになる中で唯一動いたのは。
「ん。美味いと思うぞバウマン。お前らもポカンとしないで食べて感想してやれ。」
コウであった。
コウに釣られるように四人は次々にクッキーに手を伸ばし感想を言い合う。
「お、美味しいですよバウマンさん。」
「本当ね。作り方を教えて欲しいぐらい。」
「リーゼロッテ・バウマンの意外な特技ですね。興味深いです。」
「それに関しては同意見ね。てっきりこういう事には無関心だと思ったわ。」
リンやアンジュ、ソフィアにシャナが口々にそれぞれの言葉でリーゼロッテを褒めるのを本人は照れくさそうに、されどどこか誇らしげにしていた。
その様子を見ながらコウは優しい笑みを残して、そっとその場を離れるのであった。
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