第5話 『トール』
「…凄いの一言ですね。」
「まあコウの実力を考えればやれて当たり前だがな。」
第三訓練場のそばにある施設にて司令と副司令であるアランとヨナは模擬戦の様子を見ていた。
思わず感嘆の声を出すヨナに対しコウと旧知であるアランは当然のように見ていた。
「最小限の動きで砲撃の直撃を躱け、かつ突撃しつつエネルギーライフルの射撃を避け接近し一撃で決める。口にするのは簡単ですが…。」
「実行するのは難しい。技術もだが胆力も備わってないとな。」
避けて切り込む。
口にすればそれだけだが実行するのにどれだけの実力と精神力が必要なのか。
A²に乗った事もないヨナには想像出来なかった。
「さて、ナフティは落ちたが…。他のメンツはどう出るかな?」
「理想で言えば数の差を活かすのが得策でしょうが…。無理でしょうね。」
「まず無理だな。」
アランがそう断言するのには理由があった。
撃墜されたシャナも含めた五人はまだ出会ってから数日である。
その間に行われた訓練や授業も各々の実力を上げるものであり連携訓練など話題にも挙がらなかった。
その彼女たちに連携を期待する方が無茶である事ぐらいはアランもヨナ理解していた。
「中尉が動きました。」
そしてそれはコウも理解しており各個撃破を狙っていくようであった。
次のターゲットに選ばれたのは。
「レーナ―ルか。」
「ハァァァァ!!」
向かってくるコウに対してアンジュは盾を構えつつ自らも突進し迎え撃つ事を選ぶ。
アンジュも本来の正解は数の差を活かす事である事は理解していた。
だが仲のいいリンとですら連携の訓練をした事もないのにあまり関わりの無いソフィアとリーゼロッテと連携など夢もまた夢であろう。
それに彼女の専用機であるジャンヌ・ダルクは先陣を切って突撃する事を想定に設計されたA²である。
(大丈夫、接近戦なら負けない自信がある。それに例え勝てなくても一撃でも与えられれば決めてくれるはず!)
そう考えを巡らせつつアンジュはジャンヌ・ダルクの兵装である槍をスパルタクスに向けて繰り出す。
それはアンジュが今できる最高の突きであった。
だがコウはその突きをまるで宙返りのようにスパルタクスを操ってみせ回避する。
「え…?」
会心の突きを回避された事に呆然とするアンジュはジャンヌ・ダルクの後方にスパルタクスが陣取った事すら気づけなかった。
コウはそのままジャンヌ・ダルクを近接ブレードで切り上げる。
「…ごめんなさい皆。」
ジャンヌ・ダルクがシステム道理に機能を停止したのを確認するとアンジュはそう皆に対して謝るのであった。
一方でコウは次の目標をリンが乗るツルヒメに定めていた。
「さ、させない!」
リンは腕に装備されている弓型エネルギー砲をとにかく撃ち続ける。
とにかく近づけさせない事を重視して威力よりも速度に重点を置いた攻撃であった。
「…。」
それを見たコウは装備していたハンドガンを取り出すとツルヒメに向けて打ち込む。
それは吸い込まれるように弓型エネルギー砲に当たる。
「う、うそ…!」
あの乱射の中で正確に武器を狙い撃たれた事が信じられないリン。
システムが反応しエネルギー砲が使用不可能となりリンは近接ブレードを構える。
そしてコウと僅かばかりに打ち合うが、ツルヒメの脇腹に蹴りを入れられ態勢を大きく崩される。
「きゃあ!?」
その間にハンドガンを連射されツルヒメも行動不能に陥る。
次の目標を定めようとするコウであったが、突如として横から大量の弾丸が襲ってくる。
当然のようにコウはそれを避け、確認するとリーゼロッテのクニグンデがサブアーム二本を展開しつつスパルタクスに攻撃していた。
今までのように点ではなく面での射撃に流石に苦戦を強いられる。
…と思われたが。
「!!」
スパルタクスはまるで弾丸を縫うようにして少しずつではあるがクニグンデに接近してみせた。
無論、無傷ではいられず何発かは当たるがそれでも致命傷は無かった。
やがて全弾撃ち尽くしてしまったリーゼロッテは急いでリロードしようとするが、その隙を逃すコウでは無かった。
一気にクニグンデとの距離を詰め、近接ブレードで切り裂くスパルタクス。
こうして先手を撃とうとしたリーゼロッテのクニグンデも沈黙するのであった。
「あと一機。」
コウは残ったソフィアが操るルサルカと相対する。
ルサルカはまるで最初から一機だったようにただそこに浮かんでいた。
だがコウが自身を目標に定めたのを理解してか、ソフィアはビット兵器を起動させる。
全部で三つのビットが空を引き裂きながらスパルタクスにエネルギー砲を撃ちこむ。
点ではなく面でもない、全方位からの攻撃にコウは回避に徹していた。
(正確無比な攻撃。ビット兵器を三つも操っているのにこの攻撃は流石としか言いようが無いな。)
コウは分析しつつそんな正確な攻撃を避けてみせる。
(だが。その正確さがアダだぞゼムスコフ!)
コウはそう心の中で叫ぶと同時にハンドガンを何も無い空中に撃ち込む。
だがスパルタクスを囲んでいたビット兵器の一つが現れ直撃する。
大破と認識したシステムによってそのビット兵器は止まるが、残り二つの動きが先ほどより速くなる。
だが再びコウが何もない空中に弾丸を放つとその軌道上にビット兵器が現れ直撃する。
「…まだ終わってません。」
残り一つとなったビット兵器を忙しなく動かしながらソフィア自身もルサルカを突撃させる。
エネルギーソードを持って突撃するソフィアをコウは真正面から近接ブレードで受け止める。
鍔迫り合いのような形になる二機であったが、ソフィアは後方からビットを接近させる。
これで勝負は決まった。
見ているほとんどの人間はそう思った。
「だから狙いが、まる見えだって!」
コウはルサルカを振り払うとその勢いのまま近接ブレードでビットに攻撃。
大破認定されたビットが止まるのも確認しつつコウはハンドガンにてルサルカを攻撃。
直撃を受けたルサルカはそのまま大破扱いとなる。
同時に5対1の勝負はコウの圧勝という形で幕が下りた。
「…というわけだが。誰か異論がある奴はいるか?」
第三訓練場にA²から降りた候補生たちを集合させたコウの一言目がそれであった。
皆は落ち込んでいたり相変わらずの無表情だったりそれぞれであったが結果に文句を言う者はいなかった。
「…一体何者なのよ、アンタ。」
だがシャナは顔を赤くしながらコウを問いただす。
「自己紹介はしたはずだが?ナフティ。」
「信じられる訳無いでしょ!オモイカネ所属が何であそこまでA²を操れるのよ!」
シャナの言葉は全員が思っていた事らしく、誰も彼女を止めようとはしなかった。
コウがどう対処しようか悩んでいると拍手しながら近づく人物がいた。
「相変わらずの凄腕だな。コウ。」
「フ、フェデリーチ司令官!」
突然のアランの登場に動揺する候補生たちであったが、コウは胡散臭そうに見ている。
「何でここにいるんだよアラン。」
「次代のエース候補たちとお前の戦い何てそうそう見れるもんじゃないからな。楽しかったぜ。」
「見世物じゃねぇぞ。全く。」
「あ、あの~。司令官とロックハート中尉はお知り合いなのですか?」
二人の会話を聞いて疑問に思ったのかアンジュが代表して質問する。
答えずらそうにするコウであったが、逆にアランはペラペラと話す。
「コウと俺は同時期に軍隊に入ってな。まあこいつと違って俺の活躍何て地味なもんだったが。」
「その歳でエリアの司令官をやっといて、よく言う。」
「…ロックハート中尉はどこかでご活躍を?」
シャナがアランに質問するとコウは諦めたようにため息を吐く。
コウの予測どうり、アランは質問に素直に答えるのであった。
「当然!こいつはBRエリアの前線のA²エース部隊『トール』に所属したんだよ。最年少でな。」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます