第3話 候補生との初対面

 「ったく!何で私が何時までも待機させられないといけないのよ。」

 「そんなにカリカリしないでナフティさん。マツナガさんが怖がってるわよ。」

 「ヒィ!そ、そんな事ないでしゅ!」

 「一々そんなに怯えないでよ!こっちが悪いみたいじゃない!」

 「「…。」」

 「でもってアンタたちも何かリアクションしなさいよ!」


 彼女たち専用に作られた教室は広く防音処置もされていたが、少女たちの騒ぐ声が何時までも響いていた。


 「大体何で私がJAエリアにまで来て指導を受けないといけないのよ。それもこんな各エリアから集めたクラスで。」


 EGエリア出身であるシャナがそう悪態をつくと珍しい人物から反応が返ってきた。


 「その意見には賛同します。シャナ・ナフティ。」

 「…珍しい事もあるのねゼムスコフ。明日は雪でも振るのかしら?」


 今まで何も反応してこなかったRUエリア出身であるソフィアが淡々と意見を述べる。


 「単に問題があるのであれば各エリアで解消すればいい事。わざわざ別のエリアで集まって指導を受けるのは非効率です。」

 「ご、ごめんなさい。集まるのがJAエリアで。」

 「…問題はそこじゃないわよマツナガ。」


 JAエリア出身であるリンが誤った方向に謝罪するのをシャナが突っ込むが、リンは聞こえていないのかひたすらに謝り続ける。


 「そんなに謝らないでマツナガさん。だれもあなたを責めてはいないわ。ほら、涙を拭いて?」

 「あ、ありがとうございますレーナ―ルさん。」


 FR出身のアンジュが持っていたハンカチをリンへと渡し涙を拭かせる。

 その様子をジッと見ていたのはGEエリアのリーゼロッテであった。


 「…。」

 「?どうしたのよバウマン。」

 「…何でもない。」


 そう愛想なく答えるリーゼロッテであったが内心は。


 (うぅ~。折角仲良くなるチャンスだったのに。ハンカチ渡しそこねた。)


 リーゼロッテ・バウマン。

 彼女は口下手な上に顔がこわばるため勘違いされがちであるが、この中で一番友達を作りたいと思っている少女であった。

 この少女たち5人が各エリアから招集、または軍に押し付けられたとも言えるエース候補たちであった。


 「あ~!!もう待てない!あと五分して何も無かったら私戻るから!」

 「けどこの待機は副司令のデミレルさん直々の命令よ?それを破るのは不味いんじゃないかしら。」


 アンジュがシャナを止めようとするが、彼女は中々止まらなかった。


 「関係無いわよ!きっとあのオバサン。若い私たちに嫉妬してるに違いないわよ!」

 「ほう?それは実に面白い意見だなナフティ。」


 その声を聞いた途端にシャナから一気に血の気が引いて行く。

 シャナが恐る恐る後ろを振り向くと、そこには無表情ながら『天使』も引くような怒気を発するヨナがいた。


 「ふ、副司令?い、いつからそこに?」

 「[関係ないわよ!]の辺りだが話はきちんと[ったく!何で私が何時までも]の辺りから聞いていたぞ?」

 「そ、ソウデスカ。」

 「で、だ。ナフティ。誰が。いつ。お前たちに。嫉妬したと。言った?」

 「痛たたたたたたた!あ、アイアンクローしながら質問しないでぇぇぇぇぇぇ。」

 「ふ、副司令。もうその辺りで。」


 アンジュが止めた事でヨナはシャナに掛けていたアイアンクローを解く。


 「一つ言っておくと、自分はまだ三十三だ。オバサンと言われる筋合いは無い。」

 「…私たちからすれば十分(ボソッ)。」

 「何か言ったか?ナフティ。」

 「いえ!全く何も!」


 再びアイアンクローの体勢に入るヨナに恐れおののきシャナは敬礼しながら答える。

 ヨナはシャナを睨みつつも座らせ、自分は教壇に立つ。


 「待たせて済まなかった。そして報告だ。貴様らに正式な教官がつく、以後は彼の言う事を忠実に聞くように。」

 「すみません。質問したいのですが。」

 「発言を許可した覚えは無いが…。まあいいだろ何だレーナ―ル。」

 「副司令ではダメなのでしょうか?」

 「ダメだ。上が吟味し決められた教官だ。信用していい。」

 「信用できないわよ!私たちが集められたのだってソイツの差し金なんじゃないの!?」

 「…随分な言い方だな、シャナ・ナフティ訓練生。」

 「ロックハート中尉。」


 突然入って来たコウに対して五人はそれぞれの反応を示した。

 怯える者、興味深そうにする者、無表情の者たち、そして睨みつける者。


 「場が収まってから入って来て欲しかったですが。」

 「何時までも賑やかなものでね、つい。…それで?シャナ・ナフティ。」

 「な、何よ。」


 突然話題を振られ動揺するシャナにコウは一つの質問をする。


 「まさか自分がここに来た理由を全く想像がつかない。なんて妄言、言う訳ないよな。」

 「うっ!そ、それは…。」


 自分がここに集められた理由に心当たりがあるのか、顔を伏せるシャナ。

 いや、シャナだけでなく五人全員が反応を示した。


 「だ、だけど!何で私があんたみたいな訳の分からない奴の言う事聞かないといけないのよ!大体、私の事を何も知らないくせに!」


 シャナがそう叫ぶとコウは持っていたメモ帳に目線をやる。


 「シャナ・ナフティ。出身エリアはEG、家族構成は母親一人の母子家庭。」

 「…何よ。そのくらいデータベースを見れば。」

 「ペットとして犬を飼っていたが可愛がりすぎて逃げられ大泣き。好きな色はピンクだが周りには赤と言って誤魔化している。恋愛漫画のような出会いを求めており、好きなキャラは俺様系。最後におねしょをしたのは…。」

 「わー!!わー!!わー!!」


 シャナが慌ててコウの口を塞ごうとするが、その行為自体が本当である事を示していた。


 「な、なんでそんな事まで知ってるのよ!ストーカー!?」

 「俺は元々戦略機動作戦立案部隊、通称オモイカネに所属していた。だから情報を扱う凄腕と深い付き合いがあってな。」


 オモイカネ。

 それは常に前線部隊に従事しつつ異常事態時に作戦をより良い方向に導く戦術プランのスペシャリストたちの集まりである。

 思わぬ部隊名に部屋中が驚きに包まれる中、ヨナは安心しかけていたが。


 「な、何よ!私の情報を集めただけで調子に乗らないで!」

 「…ナフティ。」


 一人秘密を暴露されたシャナは怒りが収まらないのかコウに突っかかる。


 「オモイカネを馬鹿にする訳じゃ無いわ!けど、私たちが教わるのはA²の扱い方よ!分野違いじゃない!」

 「おい、ナフティ。いい加減に。」


 完全に興奮しているシャナを止めようとするヨナであったがコウがそれを止める。


 「つまりこういう事だなナフティ。俺にはお前たちを指導する資格がない、と。」

 「そ、そうよ。」

 「…そうか。なら全員A²に乗って第三訓練場へ来い、模擬弾でな。」

 「な、何する気よ。」


 立ち去ろうとするコウはシャナの言葉に真面目な表情でこう返すのであった。



 「模擬戦さ、俺とお前ら五人。五対一でな。」

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