第2話 JAエリア・ヨコハマ基地
―数日後
JAエリア最大の基地となるヨコハマ基地にコウが輸送機から降り、ヨコハマ基地に足を踏み入れた。
長時間の移動で体が凝り固まったのか、あちこち動かしているコウに近づいて来る人影があった。
それはコウと同い年に見える若き軍人であった。
「長旅ご苦労だったな中尉。このヨコハマ基地の司令官を務めるアラン・フェデリーチ少佐だ。」
「司令官自ら、感謝いたします。これよりお世話になるコウ・ロックハート中尉であります。」
「…。」
「…。」
「「プッ!アハハハハハハハハ!!」」
突然の沈黙の後、二人同時の大きな笑い声が滑走路に響き渡る。
「あー、ビックリした。いきなり真面目な挨拶するなよアラン。」
「そっちだって乗ってきたじゃないか。それに最初ぐらい真面目でもいいだろコウ。」
「よく言うよ、訓練生時代に問題を起こしてばっかりの男が!」
そう言って二人は肩を寄せて抱き合う。
階級に差はあれど、二人は固い絆で結ばれていた。
「にしてもお前が基地の司令官とはな。予想だにしなかったぜ。」
「まあ人生色々って奴さ。俺もまさかお前をこの基地に案内するとは思わなかったぜ。」
「そうかよ。…で?例の落ちこぼれ候補生たちは?」
「それは基地を案内しながら話すさ。乗りな運転してやるよ。」
二人のそばにはジープが用意されておりアランは既に運転席に乗り込んでいる。
「お前の運転、荒いから嫌なんだけど。」
「文句言うなって、それとA²であんな操縦するお前に言われたくない。」
「そりゃそうだ。」
コウが乗り込んだのを確認するとアランはジープのエンジンを入れ走り出す。
「コウ、それで体の調子はどうなんだ?」
「やっぱり知ってるのかよ。」
「当たり前だろ?で、どうなんだ?」
「…日常生活には問題ないってさ。」
「ふーん。まあ良かったじゃないか。中には余命宣告受けた奴もいるんだろ?」
「…ああ。」
コウの曖昧な返事に何か感じる物があったのかアランはジープを急停止し、深刻な様子で聞く。
「おいコウ。まさかお前、アレを使ってるんじゃないだろうな。」
「使ってねぇよ。…今のところはな。」
「マジかよ…。分かってんのか?あんなもん命の前借りみたいなものだぞ!」
「知ってるって。…だけど使わないで後悔するよりはマシさ。」
「…は~。まったくお前って奴は。」
コウが意地を張り出したら言う事を聞かない事を知ってるアランはため息を吐く。
「無理やり取り上げる事はしないがあまり使いすぎんなよ?ただでさえ無茶しがちなんだからよ。」
「安心しろ。…『天使』の奴らがいなくなるまで、そう簡単にくたばらないからよ。」
「…そう言う事じゃねぇんだけどな。」
コウの言葉に呆れつつも何も変わっていない親友に安心を憶えるアランであった。
「で、ここがヨコハマ基地の司令部。つまりは俺の仕事場だ。」
アランは自らの椅子に腰かけつつ周りを見渡す。
大規模な司令部だけあって多くの人間がせわしなく動いている。
司令官であるアランが入って来た時には一同敬礼していたが、アランが仕事に戻る様に一声かけると先ほどまで同じように動き出した。
「やっぱり司令官なんだなお前。」
「何だよ、まだ信じてなかったのかよ。」
そのようにからかい合っているとツカツカと誰かが間に入って来た。
「司令官。中尉と旧知の仲なのは知っていますが、皆がいる前では威厳を保ってください。」
「へいへい。口うるさい副司令官様だこと。」
副司令と呼ばれた女性はアランを一度睨むと、コウに手を差し出す。
「ヨコハマ基地副司令、ヨナ・デミレルです。ロックハート中尉、以後よろしくお願いします。」
「いえ、こちらこそ世話になります。」
厳しそうな女性であったが、思っていたより温和に接してきた事にコウは驚いた。
「惚れるなよコウ。優しいのは最初だけだからな。」
「司令官のように毎日ふざけるような方でなければ、自分も優しくいられるのですがね。」
ヨナのデカい釘差しにアランが苦い顔をするが、とりあえず本題に入る事にする。
「デミレル副司令にはお前が来るまでの代わりとして、彼女たちの指導を頼んでたんだ。」
「では率直に聞きますが、あなたから見てどう思いますか?天使候補生たちは。」
「自分としては敵の呼称が『天使』と定まってきているのにその呼称はどうかと思いますが…。一言で言えば全員優秀ですよ、それこそ各エリアから専用機を与えられるほどに。」
「専用機、ですか。」
A²の本格的な運用が決まって五年、需要が高まる一方で供給が中々追いついていない問題が各エリアで浮彫になる中で専用機を与えられるというのは未来を期待されている証拠である。
(まあ実験的な意味が大きいんだろうけどな。)
コウは心の内にそれを仕舞うとヨナの話の続きを聞く。
「ですが各々に大きな問題点があり実力を出し切れないというのが現状です。例えば…。」
ヨナは電子の資料を弄るとコウに差し出す。
そこには褐色の肌をした少女の顔写真と事細かなデータが記載されていた。
「EGエリア出身のシャナ・ナフティ。高火力の兵器を扱う事に長けていますがプライドが高いため周りとの衝突が多かったようです。」
「…なるほどね。」
問題児と呼ばれていた理由の一部を理解しつつコウはページをめくっていく。
「RU出身のソフィア・ゼムスコフ。遠隔操作兵器の制御を得意としてるが、奇怪な行動が多々見られる、か。」
「俺が知ってるのはこのJAエリア出身のリン・マツナガだな。各能力が高いのに意思が弱いから強く出れない。」
「FRのアンジュ・レーナールは各々に気を使いすぎて最終的に自分が動けなくなる事が多いですね。」
「最後はGEエリア出身のリーゼロッテ・バウマン。移動しながらの射撃が得意だが他のとコミュニケーション不足で孤立する事が多々ある。…か。」
資料を閉じてヨナに返すとコウはため息をつく。
「これは一筋縄ではいきそうにないな。」
「まあ年頃の少女なんだからそんなもんだろ?」
「司令、他人事ではありませんよ。ロックハート中尉の指導が上手くいかなければ我々の問題にもなりかねません。」
「分かってるって。」
ヨナの言葉を軽く受け流しつつアランはコウに問いかける。
「で?どうする気なんだ指導官さま?」
「…今彼女たちはどこに?」
「現在は空き部屋を改造した専用の教室で待機させています。」
ヨナがコントロールパネルを弄るとその様子が映し出された。
各々がそれぞれ不機嫌であったり無表情であったりと様々な様子で席に座っている。
「そうか。…じゃあ挨拶と行くか。」
「…もう少し情報を集めてからの方がよろしいのでは?」
そうヨナが忠告とも取れる言葉で止めるが、コウは不敵に笑って返す。
「ご心配なく。これでも元オモイカネ所属なので。」
そう言うコウの手には通信機器が握られていた。
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