第3話 曉闇

硬骨漢

曉闇


 弱音は死んでから吐けばいい


         真鍋昌平






































 第三飛沫【曉闇】




























 「監視カメラもない・・・」


 本部に侵入した海浪は、うろうろしている『扇』たちを見つけたため、トイレに入って動けずにいた。


 「・・・・・・でもこのままずっとここにいるわけにもいかねぇし」


 トイレの個室の中で両膝を曲げて座り、頬杖をついて考えてみたが、どうにも良い方法がなかった。


 それからしばらくして、海浪は気付く。


 「俺はそういう男じゃねえ」


 そう言うと、トイレから出て玉緒を探しに回る。


 途端、理斗と李詞に出会ってしまい、あっけなく捕まってしまった。


 だが、これで玉緒に会えるのだろうと、逃げることはせずにつれて行かれるまま向かった先には、玉緒はいなかった。


 1階なのか地下なのかは分からないが、とにかく下の階に連れて行かれたかと思うと、まずは理斗に殴られた。


 その反動で口の中を切ってしまい、鉄の味が広がる。


 それから李詞が右腕を掴んだかと思うと、そのまま勢いよくあらぬ方向に動かしたため、一瞬、分からなかったが、折られた。


 「・・・!!っっっっ!!!」


 これまでにも多くの怪我はしてきたが、こんなに完全に腕を折ったことはない。


 力が入らないというのはこういうことかと、海浪の頭は現状とは裏腹に意外と冷静に働いていた。


 「ついでに逃げられないように、足もイっておくか」


 李詞が理斗に任せようとしたとき、通信が入った。


 個人個人に対する通信ではなく、本部の建物全体に一斉に放送されるものだ。


 『海浪を捕えたなら、広場に連れてこい』


 「あーあ。呼ばれちゃった」


 「しかたねえ。連れて行くぞ」


 足が折られる手前、放送が入ったため理斗も李詞も動きを止めて玉緒に言われた通り


 本部の中央部分にある、吹き抜け状態で木々も育つような広い空間。


 玉緒はこの場所が気に入っている。とはいえ、植物を愛でているわけではなく、太陽光が浴びられるからだ。


 広場に出ると、理斗と李詞にそれぞれの膝裏を蹴飛ばされ、両膝をついてその場に座らされてしまった。


 折れた右腕を理斗に掴まれ、まだ無事な左腕は李詞に掴まれた。


 「・・・海浪、ようやく会えたな」


 「別に会いたかねぇだろ、互いに」


 「君のことを調べたんだ。まあ、当然のことながら、森蘭のもとで生活していることは知っていたが」


 「ストーカーか」


 「森蘭は、時代遅れの象徴だ。そう思うだろ?だからこそ、私の作った『扇』たちに無残にも殺された。君も見ただろ?森蘭のその様を」


 「・・・・・・」


 玉緒のシャツにベスト姿が近づいてくるが、逆光になるため影になった。


 神々しい存在だとは思ってないが、単なる比喩表現を使うならば、そういった表現だろうというだけだ。


 まだ海浪と玉緒の間には距離があるが、玉緒は続ける。


 「君の出生を調べてみたんだ。そしたら、森蘭が君を引き取る以前のことがわかった」


 「はあ?」


 「君の両親は、権力を持っていたんだね」








 「俺の両親・・・?」


 「ああ、生まれてすぐに森蘭に引き取られたんだ。君は覚えていなくて当然さ」


 海浪の思考は、停止していた。


 それでもなんとか必死に動かしてみるが、どうにも上手くいかない。


 自分がいるということは、両親がいてしかるべくなのだが、貧しい家にでも生まれて、それで育てられなくなったのかと思っていた。


 そんな海浪の様子を見て、玉緒は口角をあげて微笑む。


 「権力を持ち、ある程度の地位があったにも関わらず、君の両親は貧富の差があることを嘆いていた。しまいには、貧富の差や身分の差など取り払おうという動きを始めてしまってね。しょうがなく、当時問題になっていた汚職だの人身売買だの密売だの、全ての罪を着てもらったんだよ」


 当初は追放するだけだったようだが、海浪の両親はそんなことをしないという国民の反勢力もいたため、処刑することとなった。


 しかし、その時にはすでに追放された後で、この国から両親はいなくなっていた。


 そこで、両親を追い掛けて処刑することにしたのだが、どこから情報が漏れたのか、両親はそのことを知ると、すぐに行動に移した。


 追放されてすぐに産み落とした赤子を、この辺りに暮らしているという男に託すことにした。


 その男のことなど良く分からないが、国に捕まり、自分達と一緒に処刑されてしまうくらいならと、望みを込めて。


 「愚かな親を持つと、大変だね。同情するよ」


 ざざ、と太陽光が狭まったかと思うと、360度前面に、『扇』が並んでいた。


 昼間だと思うが、これほどまでに黒に包まれてしまうと昼間とは思えない。


 「私の時代に、君等は不要なんだ」


 玉緒が腕をあげると、『扇』のうちの1人が海浪の肩に矢を射る。


 「その矢には、毒が塗ってある。なに、心配はいらない。ちゃんと苦しめるよう、数時間かけてじっくりと回る」


 『扇』は海浪をハリネズミにする心算らしく、理斗と李詞は腕を解放して少しだけ海浪から離れた。


 動く左手で矢を抜いてみるが、すでに毒が体内に入っているため、フラフラする。


 いや、このフラフラするのは別の理由かもしれないが、思考回路がショート寸前とはまさにこのことかもしれない。


 「止めはこの私が直々にさしてあげよう」


 スローモーションのように、逃げようのない沢山の矢が、海浪の方へ向かってくる。


 逃げる気力など最早無い海浪は、ただただ、時間が止まったような感覚の中、身体中に押し寄せる痛みを感じる。


 「うお。間近で見るとまたこりゃ・・・」


 李詞は、目の前で毒の矢で覆われている海浪を見て思わず口を開いた。


 ぐら、と少し海浪の身体が揺れたかと思うと、前のめりに倒れ込みそうになったその身体を、理斗が肩を掴んで倒さない。


 ぐったりしている海浪のもとに玉緒は近づくと、思い切り頬を叩いた。


 自分の方を見ろということだろうが、自分の顔をあげる力さえ、今の海浪にはきっとないのだろう。


 仕方なく、玉緒は海浪の太ももに足を置き、膝で海浪の顎をあげさせると、口からも頭からも血を流している海浪を見て嗤う。


 「そうだな・・・。まずは、その生意気な目から抉り抜いてやろう」


 腰に装着してあったのだろうホルダーからナイフを取り出すと、海浪の眼球目掛けてそのナイフを突きつけて来た。


 身体が動き、なんとか眼球は抉られずに済み、耳が少し切られただけだった。


 「・・・ちゃんと押さえておけ」


 「はい」


 後ろにいる理斗と李詞に告げると、海浪を動けないようにしっかりと固定する。


 李詞には海浪の顔を固定するように指示すると、玉緒は足を戻して自分のバランスも崩れないようにすると、今度こそ、と海浪の眼球目掛けてナイフを振り下ろす。








 「っ・・・!!?」


 振り下ろされたナイフは、地面に落ちた。


 「大丈夫ですか!?」


 「誰だ・・・!!」


 ナイフを持っていた玉緒の手からは血が出ており、反対の手でその手を押さえていた。


 玉緒は、自分の手に刺さっているクナイが何処から飛んできたのか分かっているようで、眉間にシワを寄せた形相で、そちらを見上げて叫ぶ。


 「誰だ!!貴様!!!!」


 玉緒の視線の先には、『扇』にも似たような黒に染まった男が立っていた。


 「・・・・・・」


 返事の無い男に、玉緒は手に刺さっているクナイを自分で抜くと、その男に向かってクナイを投げつける。


 男は近くにいた『扇』を盾にする。


 「殺せ・・・。そいつも始末しろ!!」


 『扇』はその男もターゲットにするが、180度逆にいる『扇』が数名、玉緒たちのいる場所に落ちて来た。


 何事かと思い顔を動かすと、そこにはまた別の黄土の髪の男がいた。


 「まったく。この人数を相手にするなんて無理だろ」


 「遅い」


 「お前が速いんだよ。俺いつ引退したと思ってるんだ」


 なんとか動いた顔でその2人を見上げれば、黒夜叉と龍海だった。


 「わざわざ殺されにきたということか。ならば良かろう。私の時代に着いてこれぬ者はここで死ぬゆくが良い!!!」


 玉緒の言葉に、『扇』が動く。


 「俺が死んだらお前のせいだぞ!!」


 「自分の死を他人のせいにするなんて、武士の風上にもおけないな。お前が死んだらお前の弱さの責任だ」


 「言ってくれるね・・・!現役の時と違って、余裕ないっつーの!!!」


 そもそも、『扇』相手であればサシの勝負であっても余裕などないだろう。


 黒夜叉の方をちらっと見てみたが、黒夜叉とて、攻撃を回避することを優先していて、戦って勝つ、ということは避けているように見える。


 「っと!!」


 他所見をしていたからか、龍海は腕と脇腹を切られてしまった。


 その様子に、玉緒はさらに叫ぶ。


 「こいつらを、絶対に生きて帰すな!!殺せ!!コロセ!!!!」


 黒夜叉も龍海も、防戦一方なだけではない。


 かろうじて避けている状態で、まだ戦い始めて数分も経っていないというのに、すでに身体はボロボロだ。


 生きているのが不思議なくらいの中、急に、何かを感じた。


 何かは分からないが、それらは海浪たちではなく、『扇』に向かっていることがわかる。


 「なんだ?」








 次々と『扇』が倒れ込んでいくのを見て、玉緒が説明を求めた。


 先程現れた男たちかと思ったが、その男たちも呆然としており、どうやらあの男たちの仕業ではないらしい。


 「ど、どうなっている!?どういうことだ!!?私の最強の兵器たちが!!何が起きている!?誰か!!!状況を説明しろ!!」


 するとようやく、各方向からの放送が入ってきた。


 『こ、こちら、顔に火傷のある男が現れ、すでに負傷者数名・・・!!』


 「なに・・・?」


 報告のあったとおり、顔に火傷のある男は『扇』を前に剣を握っていた。


 「負の感情のみで動くとは、人にあらず。早く信様のもとへ戻らねばならないというのに」


 それからも、どんどん報告は入ってくる。


 『こちらには、目つきの悪いオールバックの男が現れました!!』


 「目つきの悪い!?どういうことだ!!」


 『こちらには、金髪の魔法使いが!』


 「魔法使い!?」


 『銀髪で煙草を吸っている男が!』


 「戦闘時に煙草!?」


 『腰に酒を下げた着物姿の男が!』


 「戦闘時に酒!?」


 『左目に眼帯をつけた男が!』


 「すでに負傷!?」


 『笑顔が怖い男のトラップがあちこちに!』


 「どういうこと!?」


 『吸血鬼が!!』


 「昼間なのに!?」


 一体何が起こっているのかと、全くもって状況が理解も出来ずに整理も出来ない。


 玉緒はとにかくその男たちを全員殺すように指示を出すが、『扇』相手にも引けを取らないその男たちは、次々に『扇』を倒して行く。


 それを見ていた黒夜叉と龍海は、自分達の苦労は何だったのかと頭をかく。


 『扇』と戦っている男たちとて、余裕だったわけではない。


 たかが相手は10代の子供だが、それでも洗練された技に、熟練された攻撃。


 特に呪術や幻術は厄介だったため、それにかからぬように最善の方法を考えて動いている。


 7割ほど『扇』を倒したところで、男たちは一息吐く。


 目つきの悪いオールバックの男は言う。


 「それで本気か、小増共」


 金髪の魔法使いは言う。


 「あーあ。綺麗なお姉さんいると思ってきたんだけどなぁ」


 銀髪に煙草を吸う男は言う。


 「ふー・・・。若い芽を摘む気は無かったんだがな」


 酒をぶら下げた着物姿の男は言う。


 「ワシが来るまでも無かったのう」


 左目に眼帯をつけた男は言う。


 「時代が変わるのは良いことだ。だが、変わったとして、あんたらにゃ任せらんねぇな」


 笑顔が怖い男は言う。


 「トラップ勝負なら負けないよ。何しろ、こっちは人外を相手にしてるんだからね」


 吸血鬼の男は言う。


 「人間ごときが、俺を狩ろうとは良い度胸だ」


 そして、最後にこの男が、口を開く。


 「よお、兄弟」


 「・・・?」


 「お前がそんなに師匠想いだったとはなぁ・・・。驚きだよ」


 「な、何でお前、こんなところに・・・」


 「なんでって、お前んとこのガキが2人、俺んとこに来たんだよ。まあ、来たって言うよりは偶然会ったんだけどな。泣きそうな面で助けてくれってな。ああ、今は俺んとこのガキと一緒にいるから大丈夫だ」


 残してきた天馬と蒼真は、海浪に言われた通り、2日経っても戻らないため小屋から出ることにした。


 だからといって、そのままにしておくことも出来ず、誰を探し、誰に助けを求めたらよいのかわからない状況で、偶然、出会った。


 「あ」


 「どうした、黒夜叉?」


 何かに気付いた黒夜叉は、海浪がいる広場の中央へと向かった。


 「お前、何しに来たんだ」


 「お、久しぶりだな。海浪、解毒薬もう塗り込んであるから大丈夫だ。身体動けるようになっただろ?」


 「・・・そう言えば。身体動く」


 「お前たまに天然なとこあるからな」


 「おい、なんでお前が此処にいるんだ、銀魔」


 「落ち着けって。俺とこいつ、兄弟弟子なんだわ。で、この理斗って奴に変装する前に、師匠んとこ寄ってみたら死んでて、変装して調べて、師匠が殺されたこと知ったんだよ。ま、俺は一定期間いただけで、こいつは産まれたときからだからな。親代わりがあのジジイだもんな。な、兄弟?」


 その会話を聞いていた李詞は、理斗に変装していたこの男が、森蘭のもう1人の弟子と言われている銀魔だと気付いた。


 そこで、李詞は海浪たちに気付かれないように武器を手に取り、自分に背を向けて話を続けている銀魔に襲いかかる。


 しかしその時、銀魔に『兄弟』と言われたことが気に入らなかった海浪と、その海浪に気付いた銀魔によって、海浪には股間を、銀魔には頭を殴られてしまった。


 よろよろとよろけながら黒夜叉の方にきたため、反射的にカウンターを入れてしまった。


 「わー。なんとも気の毒・・・」


 「龍海、久しぶりだな」


 よ、と軽い挨拶をしている銀魔に、龍海はそれよりも3人の攻撃を受けた李詞の姿に、思わず同情するのであった。








 「何がどうなっている!?『扇』がやられるはずがない!!これから私の時代がくるんだ!そのために森蘭を殺した・・・!!どうして!!なんでだ!!!」


 海浪に刺さった矢を全部抜き終えても、玉緒はまだ何か叫んでいた。


 きっと混乱しているのだろうが、龍海も首を捻りながら『扇』と戦っている男たちのことを眺める。


 「・・・何者だ?あいつら」


 「知らん」


 「あ、見知った顔発見。でもほとんど知らねえ顔だな」


 「あーまだクラクラする。おい、本当に解毒薬効いてるのか。まがい物じゃねえだろうな」


 そんな会話など聞いていないようで、玉緒はわなわなと震えだした。


 自分が作った、自分の時代を作る為の土台作りだったはずが、こんなことになるなんて思っていなかったのだ。


 「殺してやる・・・!!殺してやる!!時代に名も残らぬ英雄など、もはや英雄にあらず!!私こそが、永久に名を遺す時代の覇者となるのだ!!!貴様等はただただ蟻のように、気付かれもせずに踏みつぶされるのだ!!!」


 そう言うと、玉緒は海浪の方を目を見開きながら見つめ、爪で海浪の頬を引っかいた。


 すると、海浪の顔には何かの模様のような、痣のようなものが現れ始め、それは次第に首から手足へと向かって伸びていった。


 呪術の類をかけたと分かり、銀魔は玉緒を押さえつけようとするが、海浪が銀魔の方を見て来たため、足を止めた。


 玉緒は海浪の髪を掴むと、見下すように叫んだ。


 「お前は近い未来、呪いで悲惨な死を遂げるのだ!!これは変えようのない未来となる!!」


 色濃く身体中に刻まれる模様は、次第に海浪の身体になじむように肌に吸い込まれて消えて行く。


 海浪は、自分の髪を掴んでいる玉緒の腕を掴むと、その強さに玉緒は海浪の髪から手を離した。


 そして、反対の手で、今度は海浪が玉緒の髪の毛を掴みあげると、こう言った。


 「お前の近い未来はな、俺に頭突きされて気絶すんだよ・・・!!」


 少し顔を後ろに反らせたかと思うと、思い切り頭を衝突させた。


 「・・・お前の頭突きは辛いな。石頭だからな」


 「石頭から血が出るほどの奴らを相手にしてたんだぞ」


 ふと龍海が顔をあげると、すでにそこには、男たちの姿はなくなっていた。


 ただそこには『扇』が倒れていた。


 「よし、さっさとずらかるぞ」


 それから僅か数分後、パトカーがサイレンを鳴らしながら沢山やってきた。


 「おいおい、これは一体どういうこった?」


 黒髪に煙草、白い手袋をした男が、誰かからの一報を受けて駆け付けた。


 その男のもとに、黄土髪の少し幼い顔をした男が近づいてきたかと思うと、こそっと耳打ちをする。


 「将烈さん、カラ―コンタクトは入れなくてよろしいのですか」


 「一応入れておくか。別の部署の奴らが来たとき面倒だしな。それより、これはどういう状況だ?説明しろ波幸」


 「分かりかねます」


 「とりあえず1人残らずしょっぴけ。話はこいつらに聞きゃいいだろ。てなわけで、コンタクトはいいや。さっさと終わらせろ」


 玉緒たちは捕まって、政界にも司法にも、激震が走ったとか走らなかったとか。


 警察の中にも、玉緒の言いなりになっている連中がいたようだが、その連中共々捕まえたらしい。


 「ったく。どこのどいつだ。この連中をぶっ潰しやがったのは」


 「覚えてくれているといいですね」


 あれからすぐにとんずらした海浪たちだったが、海浪は気絶してしまったため黒夜叉が運んでいた。


 目が覚めると、そこは相変わらずの龍海の部屋で、身体中が何かもごもご蠢いている気もする。


 なんとも気味の悪い感覚を覚えながらも、海浪はため息を吐く。


 「起きたんだね」


 「・・・あいつらは」


 「銀魔も黒夜叉も、もう帰ったよ。何か伝言でもあった?」


 「いや、別に」


 「かけられた呪いだけど、正直、俺達だけじゃどうすることも出来ない。銀魔が言うには、玉緒の部屋で見つけた呪術の本には、魔女にも解けない呪いって書かれてたらしい。ま、それが本当かは知らないけど」


 「・・・そうか」


 「それから、分かってると思うけど、右腕は完全に折れてるから動かさないように。まさか折れた腕で玉緒の髪掴むとは思ってなかったけど」


 「動いたってことは完全には折れてなかったんだな」


 「結果として完全に折れたけどね」


 しっかりと右腕にはギプスがつけられており、少し動きにくい気もするが、2、3日は大人しくしていることにした。


 なぜかって、龍海が監視していたから。


 銀魔の解毒薬のお陰か、身体は随分と楽になっているし、骨折も今は特に痛くない。


 「世話になった」


 「気をつけてな。あんた、死に急ぐとこあるから」


 「ああ。しょうがねえから、世話のかかるガキんとこに戻るよ」


 2、3日経って、海浪は龍海に礼を言って去って行く。


 瑠堂にも礼を言おうとしたらしいが、どうやら仕事が溜まりに溜まってしまっているらしく、龍海から伝えておくとのことだった。


 城主も大変なんだなと思いながら、龍海に貰った地図を頼りに歩き続ける。


 見覚えのある、それほど大きくない小屋。


 玉緒たちにボロボロにされてしまったかと思ったが、誰もいなかったからか、壊されてはいなかった。


 海浪はギプスをしていない左手で扉を開けると、中からバタバタを足音がして、すぐ目の前にボサボサ髪の男と、ツナギ姿の男。


 「「おかえりなさい!師匠!!」」


 「・・・・・・」


 嬉しいのか照れくさいのか、よくわからないが、小さく笑ってしまった。


 2人の頭をガシガシとかき乱すと、少し不機嫌そうな顔をされたが、まあいいだろう。


 「ああ。ただいま」


 無事な左手を引っ張られたため、その勢いで中に入ってみれば、相変わらずそれほど綺麗にされていない家だった。


 「ちっとは掃除でもしろ」





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