第10話言いそびれた証言

団地の一室に現れた男の子の霊、詳しく調査を進める我々のところに電話がかかってきた。

「椿さん、真純浜路さんから電話です。」

朝美から椿に受話器が渡された。映像の撮影者である浜路さんからの電話の内容は、あの時に言いそびれたことがあるということだった。

「あの、このことについては幸生が言いたいそうなので、電話を変わってもいいですか?」

「はい、どうぞ」

ここで相手が幸生くんになった。

「あの、実は前に言い忘れたことがあって、アキラくんのことなんです。」

「アキラくんがどうしたの?」

「不登校から立ち直ったばかりの時、アキラくんの顔を見ると、なんだかボーッとしているような感じがして、こっちから声をかけても返事がなかったんです。それでアキラくんはぬいぐるみを持っていたんだ、そしてそれはあの団地の風呂場にあったのと同じぬいぐるみだったんです。」

「えっ!それって映像に映っていたのと同じもの?」

「うん、それから先生にアキラくんのこといろいろ聞かれました。アキラくん、最近すごく変だけど何かあったのかって・・。おそらくあのぬいぐるみのせいなんだろうけど、先生には本当のこと言えなくて・・。」

「そりゃ、そうだよね・・」

「それで帰りにアキラくんの家に寄って、アキラくんの母さんにぬいぐるみのことを聞いてみたんです。」

「それでなんて言っていた?」

「なんか自由研究に必要だとか言って持って帰ってきたみたいで、それから家でもずーっとぬいぐるみを手放さずにいるようになって、見た目も汚いからこっそり捨てようとしたら『捨てないで!』って激しくおこられたって言ってました。」

「わかった、話はそれだけかな?」

「うん、それだけ」

「ありがとう、またこちらで調べてみるよ。」

椿は通話を切ると、腕を組みながら考え出した。

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