第25話 初めての課外活動 その2

そんな風に騒がしくしていると、最後に舞冬がやってくる。青のVネックのオーバーに、下はジーパンのカジュアルなファッション。


胸元に垂れる銀色のアクセサリーが、最年長という印象をまた一段と強くさせていた。



「みんなおっはー。ずいぶん早いのね、まだ10分前よ?」


「まさかのここにもおっはー教が!?」



ジェネレーションギャップが右往左往して、もはやどこからツッコんでいいかわからなくなる。



「あら、なにかおかしかったかしら。家ではいつもこの挨拶だから、特に疑問を感じた事はないんだけれど」


「い、いや特別おかしくはない……ないんだけど! 現代に生きる者として、その挨拶はやはりダメだと思う! ここは普通におはようでいきましょう!」


「そうね。まぁ、今のは冗談で、本当はおっはーなんて言わないんだけどね」


「……なん、だと……?」



衝撃の事実に、宗太は言葉を失った。



「ふむ、やはり『おっはー』は挨拶として間違っているということか。蔡未も案外、知識量ではわたしと大差ないな。はっはっは」


「そうですね」



蔡未の目は笑っていなかった。







「しかし、先輩はきっちり10分前なんですね。さすがは生徒会長と言うべきか」



10分前行動を順守する舞冬に、宗太が称賛の言葉を送る。



「別に狙ったつもりはないんだけどね。ただ、早く来すぎても後の人が気を使っちゃうかもと思ったから」


「それは……なんかすみません」



そう謝罪を口にすると、舞冬は「別に構わないわ」と返して、全員の姿格好をあらためて観察した。



「小鳥遊さんは私服姿はそんな感じなのね。見た目に合っていて、すごくカワイイと思うわ」


「そう、ですか? ありがとうございます……」



顔をうつむかせて、照れる秋衣。



「南條さんは……うん、いつもと同じね」


「メイド服は場所を選ばずに着れる万能さを兼ね備えているので」


「それは多分、お前だけだと思うが」



宗太がやんわりとツッコむ。


次に舞冬は一千夏を見て……そして、驚きの表情を浮かべた。



「……正直言うと一瞬、誰かわからなかったわ」


「わたしは鳳一千夏だ」


「ええ、知ってるわ。でも、普段が普段なだけに余計にね。その紺色の着物、鳳さんによく似合ってるわよ」


「う、うむ……。こうして面と向かって言われると、なんだか照れてしまうな……」


「で、最後に宗太くんだけど」



舞冬の射抜くような視線に、つい緊張してしまう。



「……服のチョイスは中々いいと思う。でも、色合いをもう少し明るめにした方がいいかもしれないわね」


「そ、そうですか」



普通にアドバイスされてしまい、少し困惑する。


宗太としてはがんばってオシャレしてきたつもりだったのだが、やはり経験値の差というのは大きいらしい。単に舞冬の好みという可能性はあるが。



「さて、それじゃあ全員集まったことだし、校外活動をはじめましょう。ちなみにだけど、この中でお昼を食べていない人はいる?」



誰も手を上げない。


それを見た舞冬は感心するように、うんうんと数回頷いた。



「すでに食べてきてるなんて、みんなさすがね。じゃあ、目的地はそのままでいきましょう」


「目的地とは一体」


「ケーキバイキング」


「……なぜに?」



宗太の口から、そんな一言が漏れる。



「食というのは人同士の交流を深める上で、とても重要なの。それが甘い物とあっては、人は自らの本音をさらけ出すしかなくなるわ」


「え、じゃあさっきの確認はなんだったんです?」


「甘い物は別腹でしょ?」


「そういうことなの!?」



わりと幅広く使われてるトンデモ理論が飛び出してしまう。



「まぁ、実を言うと、四人までの半額クーポンが今日までなの。だからみんな揃ったこのタイミングで使っておきたくてね」


「でも、それだと人数的に一人多いですよ」


「そこは自分が普通に払うからかまわないわ。お昼を食べていない人がいるなら、その時はファミレスとかでもいいかなと思ったんだけど」


「俺はどっちでもいいですけど……」



肝心の他のメンバーの意見を聞いてない。


宗太はチラリと、舞冬以外の女子メンバーの方を見た。



「ケーキバイキング……ケーキバイキングか。どんな場所か興味はあるな。いや、むしろ興味しかない」


「私もお嬢様と同じ意見です。いえ、断じて甘い物が別腹というわけではなく」


「……甘い物は別腹……かもしれない」



一千夏、蔡未、秋衣が続けて自らの意見を述べる。


最終的に利害が一致しているように聞こえたのは、おそらく気のせいじゃないと思った。



「……女子は甘い物に目がないっていうのは本当なんだな」


「ごめんね宗太くん、なんだかこっちの意見を通しちゃう形になって」


「今日の行き先任せてる時点でそれは覚悟してたので平気です。あと、俺も甘い物キライじゃないですし」


「ふふっ、優しいわね」



口元に手を添えながら、舞冬がにっこりと微笑む。



「別に優しくなんてないですよ。ただ事実を言っているだけなので」


「いえ、優しいわ。その屁理屈一つ取ってもね。そこはあなたの美点よ」


「単にひねくれてるだけだと思うんですが……」



自覚しているだけに、過度に褒められてしまうとどうにも落ち着かない。


舞冬を先頭に、一同は街に向かうため改札を抜けた。



「……宗太お兄ちゃんは、やっぱり今でも優しい男の子のままだよ」

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