第11話 初めての部活動 その3

しばらくプレイを続けていくと、ゲームの中の関係性もどんどん変化を見せてくる。


このゲームには攻略キャラが五人存在し、その中の誰が気に入ったか宗太は一千夏に訊いてみることにした。



「やはり、この子だろうか」



彼女が選んだのは、二番目に出てきた……お昼時の風景に制服がよく似合う、快活な腐れ縁女子だった。



「へぇ、そうなのか。ちょっと予想と違ったよ」


「予想?」


「俺的には、歳上の上級生キャラとか好きなのかと」


「いや、あれはダメだ」


「どうして」


「……背が高い」



一千夏がボソッとつぶやく。



「隣に立ったら、わたしの背の低さが露呈してしまう。そんな気持ちを持っていては、たとえ親しい関係になったとしても長続きはしないだろう」



てっきり、背が低いからこそ、自分とは逆の魅力を持った相手を好きになると思ったのに。


予想が外れてしまった宗太だったが、詳細を口に出すと禍根を残しそうだったので、ひとまず相槌を打っておく。



「じゃあ、それ以外の子は?」


「まず、妹はダメだ」



即答する。



「え、そんなに嫌なの?」


「かわいらしさよりも、憎たらしさの方が勝ってしまう」


「まぁ、ゲーム内だと義理の妹って設定なんだけどね」


「そして、その妹の友達だが……確かにかわいいが、今回は昔なじみに軍配が上がってしまった。しかし、ゆくゆくは全員と交流を深めるつもりだ。ギャルゲーはそういう事ができるのだろう?」


「そうだな」



それに、たとえ好みに合致しなくても、仲良くなっていくことで新たな魅力を見つけ出すこともある。一千夏のやる気を間近で感じ取れ、それが少しうれしくもあった。


ゲームもいよいよ佳境に入る。気になるキャラがいたら、あとはとにかく攻めるべし。


二人っきりのデート、些細な事でのケンカ、仲直り。


そんなイベントを超え、ついに告白。晴れて恋人同士。トントン拍子に物事は進んでいって、場面は卒業式。


筒に入った卒業証書を持ちながら、二人は帰路の途中にある桜並木の下で会話する。



これからも、ずっとよろしくな←

どうか、私と共に来てくださいマイプリンセス



「ふむ、ここは……」


「一番上だな」


「そうだな、そうしよう」



一千夏はカーソルを動かすことなく、そのままコントローラーのボタンを押した。


というか、ここで一番上以外を選ぶプレイヤーがいるのだろうか。もしいるとしたら、それはまんまと開発者にやられてしまってるという事になる。


開発者の悪ノリというやつに。



「しかし思ったのだが、こんな簡単に関係が進んでいいのだろうか。人間関係というのはもっと淀んだ泥のように先が見えず、一筋縄ではいかないものだと思ってたが」


「まぁ、そこはゲームだし。でも、現実とそこまで乖離してるとも思わないんだよな」


「変に見繕わず、ストレートな方が相手との関係もより深まるという事か?」


「とはいえ、そうするのが一番難しいんだけど」



シーンは飛び、その後、二人は無事結婚。


最後に『俺たちの幸せはまだこれからだ』という打ち切り漫画みたいなセリフを添えて、ゲームはエンディングを迎えた。



「……終わってしまった」



エンドロールが流れる。一千夏はコントローラーを膝上に置き、スタッフロールを見ながら、



「平凡だ」



淡々とした調子で、そんな感想を呟く。



「もしかして、微妙だったか?」



不安な面持ちで、宗太が尋ねる。


しかし、一千夏は否定するように首を横に振った。



「そうではない。内容自体は面白かったし、出てくるキャラもとてもよかった。しかし……最後がな」


「最後?」


「あれだけ勉強したのに、ごく普通の会社に就職しただけで終わってしまった」



まさかの不満点を指摘する。



「まぁ、それはたしかに。あれだけ知識のステータス上げてたのにな」


「ただ一心に努力すれば、最後には必ず大物になれると思ってた。だが案外、そういうわけでもないのだな」



考えをまとめるようにして、一千夏が腕を組む。


その姿を傍から見ていた宗太は、どのような言葉をかければいいかわからなかった。


彼女にゲームを教えるかどうか。それを最終的に判断したのは宗太自身だったが、遊びの延長といった部分が心のどこかではあったのかもしれない。


しかし、気づいてしまう。彼女ーー鳳一千夏という子は、本気でゲームというものを知ろうとしている。


流されるまま教え役を請うことになったが、これはそんな生半可な気持ちでやっていいものではなかった。



「……まぁ、これは入門編みたいなものだからな。次は応用も含めて、色々なやり方を試していこう」


「だが、これだけでも色々と学ぶものがあった。このままゲームを知っていけば、わたしもいつか立派になれるのだろうか?」


「ああ、なれる。そして全部を終えた頃には、きっと誰もがうらやむギャルゲーマスターになってるはずだ」



同じギャルゲーマーでも思わず顔をしかめてしまう称号。


だが、それくらいの言葉でないと彼女は納得しないだろう。そして、言ってしまったからには、宗太自身もそれに真剣に取り組む必要があった。



「ただいま戻りました」



その時、蔡未がドアを開けて部屋に戻ってくる。



「なにやってたんだよ、こんな時間になるまで」


「今後、円滑に学校生活を進めるために、少し校舎の中を散歩してました」


「意味がわからん。お前がそんなことしてる間に、こっちはゲームクリアしちまったぞ」


「中々にお早いですね。ということは、もう別のゲームにいくという事ですか?」


「いや、クリアはしたけど、まだ一人だけだ。攻略対象は他にもいるから、次も同じゲームをやるつもり」



窓の外は、すでに夕焼け色に染まっている。一周が短めとはいえ、時間の経過も忘れて集中してしまっていたらしい。



「そうですか。では、その辺の判断は宗太さんに任せるとして、今日はお開きとしましょう。お嬢様、部を発足して最初の活動はいかがでしたか?」


「非常に興味深かった」



一千夏は感慨深そうに、ブラウン管に映るゲーム画面を見つめる。



「自分の知らない世界を垣間見て、価値観がガラッと変わった気さえする。続きをプレイするのが今から楽しみでならない」


「だそうですが、宗太さん的にはどうでしたか?」


「まぁ、俺も……少なくとも、教え甲斐はあるなとは思ったよ」



「……まぁ、これは入門編みたいなものだからな。次は応用も含めて、色々なやり方を試していこう」


「だが、これだけでも色々と学ぶものがあった。このままゲームを知っていけば、わたしもいつか立派になれるのだろうか?」


「ああ、なれる。そして全部を終えた頃には、きっと誰もがうらやむギャルゲーマスターになってるはずだ」



同じギャルゲーマーでも思わず顔をしかめてしまうそんな称号。


でも、それくらいの言葉でないと彼女は納得しないだろう。そして、言ってしまったからには、宗太自身もそれに真剣に取り組む必要があった。



「ただいま戻りました」



その時、蔡未がドアを開けて部屋に戻ってくる。



「なにやってたんだよ、こんな時間になるまで」


「今後、円滑に学校生活を進めるために、少し校舎の中を散歩してました」


「意味がわからん。お前がそんなことしてる間に、こっちはゲームクリアしちまったぞ」


「中々にお早いですね。ということは、もう別のゲームにいくという事ですか?」


「いや、クリアはしたけど、まだ一人だけだ。攻略対象は他にもいるから、次も同じゲームをやるつもり」



窓の外は、すでに夕焼け色に染まっている。一周が短めとはいえ、時間の経過も忘れて集中してしまっていたらしい。



「そうですか。では、その辺の判断は宗太さんに任せるとして、今日はお開きとしましょう。お嬢様、部を発足して最初の活動はいかがでしたか?」


「非常に興味深かった」



一千夏は感慨深そうに、ブラウン管に映るゲーム画面を見つめる。



「自分の知らない世界を垣間見て、価値観がガラッと変わった気さえする。続きをプレイするのが今から楽しみでならない」


「だそうですが、宗太さん的にはどうでしたか?」


「まぁ、俺も……少なくとも、教え甲斐はあるなとは思ったよ」



本心を悟られないように、ぶっきぼうにそう答える。


その後、片付けを終え、三人そろって部室を出る。一千夏の足取りは、まるでスキップでも踏むみたいに陽気だった。



「そうだ。鳳さんってさ、習い事の後とかは空いてる時間あるか?」



その後ろ姿を眺めながら、宗太がふと蔡未に問いかける。



「一応、あるにはありますが」


「だったらこれ、はい」



そう言って宗太が渡したのは、色鮮やかな冊子だった。



「私はともかく、お嬢様と交換日記をやるにはまだ関係性が進展してないように思われますが」


「そうじゃない。大体、これどう考えてもノートって見た目じゃないだろ」



蔡未は冊子をパラパラと開いて、中身を確認する。


そこにはストーリー解説や操作説明。あとは多種多様の女の子の絵と、性格などが簡潔に書かれていた。



「ゲームの取扱説明書、ですか?」


「それ読むだけでも、キャラの把握の仕方だいぶ違ってくるから。不足してる情報は、またこっちでリサーチしてまとめとくよ」


「……ふむ」



蔡未は顔を上げると、まるで世間話をする時のような口調で言った。



「今の発言は、まるで新手のストーカーかなにかみたいですね」


「……」




心に見えない傷を負いながらも、表情を崩さない宗太だった。


ここまでが起承転結の起だとするなら、その先は苦難の連続。いつか訪れる結末のための、いわば試練のようなもの。


そうして、その日をきっかけに物語は動き始めーー宗太の『普通』の日々は、ここからさらなる変動を見せようとしていた。

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