第6話 初めてのゲームショップ その2

「ああ、そうだ。これは二次元の女子と親しい中になるゲーム……いわゆる恋愛シミュレーションってやつだ」


「そこはギャルゲーと言わなくていいのですか?」


「どうしてその名称を知っている?」


「ここにそう書いてあるので」



蔡未が指し示した先には、『ギャルゲーコーナー』と書かれたジャンルを区別するための仕切り版が置いてあった。



「ギャルゲー……つまり、ギャルを攻略するゲームという事か? というか、ギャルというのがわたしにはよくわからんのだが」


「素直にわからないと言えるのは、立派な人間であるために必要な素質です。さすがですお嬢様」



ここぞとばかりに主人を立てる、立派なメイドがそこにはいた。



「……話を戻していいか?」


「はい、構いません」



そして切り替えも早いメイドだった。



「まぁ、こい……蔡未の言う通り、これはギャルゲーとも呼ばれるジャンルだ。マニアックなところだと、恋愛シミュレーションとギャルゲーは違うって言うやつもいるが、とりあえずは同じと思ってもらって構わない」


「それで、そのギャルゲーを宗太さんは嗜んでおられると」



ズバリ答えを当てられてしまう。


最初から言うつもりだったので構わないのだが、なぜか微妙に納得がいかない。



「ギャルゲー……ギャルゲーか。でも、これもゲームには変わりないのだろう? なら全部同じではないのか?」


「その考えはステキだけどな。でもやっぱり、そういうわけにいかないのが世の常なんだ」



ゲームというのは、大まかに言ってしまえば娯楽だ。その中はさらに細かくジャンル分けされていて、ギャルゲーもそのうちの一つに過ぎない。


だというのに。ギャルゲーはゲームじゃない、そもそも絵がキライだと言い出す人もいるこの現状。


考えれば考えるほど、胸の奥がムカムカする。そう考える人もいる、と余裕を見せられればいいのだが、宗太はそこまで大人にはなりきれなかった。



「女子を攻略する、というのは同性からしてみれば違和感でしかありませんからね。そういったセクシャリティを持ってるなら話はまた別ですが」


「でも、かわいいは正義とも言うぞ?」


「そうですね。私もそういった感情なら、お嬢様相手に持ち合わせてますので」


「ふふっ。もー、照れるではないかー」



イチャイチャしはじめる二人を尻目に、宗太はさらに言葉を重ねる。


もう言ってしまったんだ。なら、この思いをもっと熱くぶつけてやればいい。それこそ、二度と関わりたくないと思ってしまうくらいに。



「ギャルゲーに出てくる女子はかわいい子しかしない。しかし、だからこそギャルゲー足り得るんだ。これをリアルじゃないとか言ってしまったらおしまいだ……いや、世界の終わりに等しい。ギャルゲーという男の夢が詰まったステキな世界。そんな場所を否定するなんて、それは幸せそのものを否定するのと同じではないだろうか!?」


「……熱いですね」



蔡未の返しに一瞬めげそうになるが、宗太はなんとかそれに耐える。



「人は幸せを求めてなんぼだ。そして、幸せの形は人それぞれでもある。その中でギャルゲーだけを異質と呼ぶのは、ちゃんちゃらおかしいって話だよ。それを言ったら、FPSで楽しそうに人撃ってるやつの方がよっぽどヤバイだろ」


「FPS……FPSとはなんだ? それは楽しいのか?」



一千夏はそう言って、蔡未に視線を向けた。



「ファーストパーソンシューター……操作するキャラの目線で戦ったりするジャンルを、そう呼ぶみたいです」



携帯で該当ページを開きながら、解説する蔡未。


それで納得したのか、一千夏がそれ以上、興味を発揮してくる事はなかった。よし、このままなんとか押し切ろう。


そう思った宗太だったが。



「……まぁ、内容はともかくとして……宗太さんの熱い思いは伝わりました。それで、お嬢様に合いそうな作品はありますか?」


「……えっ? 合いそうな作品って?」


「そのままの意味です。普通というものを知るために、これからお嬢様はゲームの事を勉強する。ならその師である宗太さんが、プレイする作品を選ぶのは当然ではないですか?」



困惑した。


それは果たして当然なのだろうか。しかし、まったくゲームの事を知らないなら、なにを選んでいいかわからないのは当然ではあった。



「でも、俺がプレイするのってこういうジャンルだし……覚えるべき内容としては、明らかに不適格じゃないか?」


「しかし、ゲームという大本は変わりませんよね? だったら、それでいいんだと思います。そういう事にしておきましょう」


「ええ……」



論理も何もない。まさに力押し。


それで『オッケーわかった』なんて言う人間は、そもそも最初から考える事を放棄しているに違いない。


反論しようと、宗太は口を開きかけるが、



「のう、こっちのゲームはどんな内容なのだ? 表紙には小さい子がたくさん映ってるが?」



ギャルゲーのパッケージを手にする一千夏によって遮られる。


それ自体は妄想のような光景だったが、そこにあるのはきわめて普遍的なもの。


ゲームに対する純粋な興味。もしくは探求心。内容は別として、鳳一千夏という少女は間違いなく一歩を踏み出そうとしている。


宗太は悩みに悩みぬいた後、意を決した顔で。



「……くそっ、わかったよ。教えればいいんだろ教えればっ。ただし、言ったからにはマジでやるからな?」


「その言い方だと、なんだかイキりの入った若者みたいですね」


「決意して数秒後にやる気を削ぐ事言うな」



嘆息しつつ、頭の後ろをかく。


ーーかくして、この日から宗太の苦難の日々が始まったのだった。

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