第5話 初めてのゲームショップ その1
時刻は夕方過ぎ。
春の空は、この時間でも未だ明るさを維持している。いくものちぎれ雲と、たまに吹く強い風が4月後半の季節感を演出していた。
「こうしてあらためて来ると、なんだか心がワクワクするな! う〜早く中に入りたい!」
「今日は習い事の先生が遅れるようなので、時間も十分にあります。では
うぃーん。
自動ドアが開く音とともに、ゲームショップに入っていく大所帯。メイドとキラキラした目で店内を見回す黒髪美女、そして死んだ目をした男子で組まれたパーティ。
売り場にいた店員が疑惑の視線を向けるくらいには、その光景はあまりに異質だった。
「……なんで俺、こんなところにいるんだろう」
「お嬢様にゲームを教えるためですね」
「いや、俺は一言もやるって言ってないんだけどね」
むしろ必死に回避しようとしてた……が、なし崩し的にこうしてゲームショップまで来てしまった。
こうなった事に後悔を感じつつも、諦めという感情が宗太の中に浮かび上がる。
「これがげーむ……ゲームか! すごい、種類が多すぎてよくわからん! 内容もわからん!」
「わたしもお嬢様と同じような気持ちです。ゲームに触れたことがあるとはいえ、それから年月も経ってますし。まさか、今はこんなに進化してるなんて」
店内を見回しながら、驚嘆の声をあげる二人。まるでテーマパークにでも来たかのようなテンションの上がりようだった。
「このゴーグルみたいな物はなんですか?」
「VRだよ。それを被ると、自分がゲームの中に入ったみたいに感じられるんだ」
「なるほど、これがVRですか。名前は聞いたことがありますが、実物を見るのは初めてです」
蔡未は箱を持ち上げて、様々な角度からそれを眺める。
一千夏はもちろんだが、蔡未も知識としては同じようなものだ。変に昔のゲームを知ってる以上、今の進化ぶりは舌を巻く勢いなのだろう。
「おお、これは外に映ってたゲームのキャラか!? でも立体的になってる! めちゃくちゃ3D!」
「めちゃくちゃ3Dってなんだよ」
ジャンプする勢いで叫ぶ一千夏に、冷静なツッコミを入れる。
店に来て数分も経ってないはずだが、宗太の顔にはすでに疲労の色が見え始めていた。
このままでは一向に話が進まない。こうして来た以上は、自分の事もきちんと説明しなければダメだ。
「じゃあ、まずなにからやればいいのか説明を……って、どこにいくのだ?」
一千夏の言葉を置き去りにしながら、足早に棚を移動する宗太。
そして目的の場所にたどり着くと、その中から一本のパッケージを手に取る。
「実は言ってなかったことがある」
後をついてきた一千夏と蔡未に、シリアス顔でそう切り出す。
「もしかして、ずっとお手洗いをガマンなされてたのですか? どうやらこの店には無いようなので、いくとしたらさっきのコンビニまで戻る必要があります。ここで待ってますので、どうぞ遠慮なさらず」
「違うわ。会った時からガマンしてたとしたら、ここに着く前にトイレいってるよ」
「そうですか」とだけ返してくる蔡未。もしかして、真面目に心配されてたのだろうか。だとしたら、わかりづらいにもほどがある。
「それはともかく、まずはこれを見てくれ」
「それはなんですか?」
「ゲームだよ。他と同じ、な」
パッケージを受け取ると、蔡未はそれを凝視する。まるで穴でも開きかねないレベルで。
「ふむ、どうやらゲームに違いないみたいだが……この表紙に映ってる
「二次元だからですね」
蔡未が表情を動かさず答えた。
「二次元?」
「直接的な意味だと、2D……さっきお嬢様が言った3Dと同じような意味です。奥行きがないので数字が一つ減って2D。しかし、この場合では架空の女子、という意味合いの方が正しいのかもしれません」
「架空の女子とな?」
一千夏の頭にハテナが浮かぶ。なにを言ってるのかはなんとなくわかるがやはりわからない、と言ったような顔だ。
一方で、宗太は硬直していた。まるでボディーブローでも食らったかのように。
(こいつ今、全ギャルゲーマーを敵に回す事言ったぞ)
架空の女子。それは疑いようのない事実だが、それを言ってしまっては元も子もない。
ここは説明してやる必要があるらしい。宗太の中で、メラメラと謎の感情が燃え上がる。
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