第2話 再会、そして疑念

朝のHRの時に事件は起きた。


先生の話がひと段落した矢先、ふいに発せられた一言。



「実は今日、このクラスに転校生がやってきます」



教室内がざわつく。


高校二年のこの時期に転校生というのもそうだが、それ以上にクラスをうるさくさせている要因がある。



「転校生!? よしっ、これで灰色だった俺の青春にもチャンスが!」


「どんな子だろ。もし男の子ならイケメンがいいなぁ……南くんみたいな……」


「とりあえず面白いやつならヨシ!」



一部おかしいのもあったが、そのほとんどは期待の言葉だった。


事前に聞かされないまま、当日になって明かされたサプライズ。内容はなんであれ、学生というのはそういったものに弱い傾向がある。


ただ一人を除いて。



(昨日は共通クリアしたから、今日からは個別だな。ひとまず、最初は気になったキャラから攻めてくか)



周囲には目もくれず、宗太は昨日買ったばかりのゲームの事で頭がいっぱいだった。


そうしてる間に、転校生が教室に入ってくる。思考を巡らせていた宗太が、ふと壇上に目を向けると。



「……えっ?」



そんな声が、いつの間にか口から漏れ出ていた。


先生が黒板に名前を書き込んでいく。


鳳一千夏おおとりいちか。それが壇上にいる、彼女のフルネームだった。



「はい、それじゃあ自己紹介して」


「ーー鳳一千夏と言います。鳳が名字で、一千夏が名前です。至らぬ点もあるかと思いますが……その時は、すでにこの学校に慣れ親しんだ皆さんのお力をお貸しいただけると幸いです。どうぞ、よろしくお願いします」



宗太の中に、疑問が積み重なっていく。


なんだそのしゃべり方は? 昨日、ゲームショップにいた時と全然違うぞ? ていうか、どうして制服姿なんだ?


混乱する宗太だったが、その感情は、堰を切ったように広がる喧騒によって邪魔されることになる。



「ふぅぅぅぅーーーーー!!! 女の子、女の子だ! しかも超かわいい!」


「女の子か~。少し残念だけど……まぁ、あれなら私のストライクゾーンだし……」


「かわいくて面白そうなのでヨシ!」



教室のあちこちから聞こえる各々の感想。


しかし、そんな中でも、宗太の困惑が尽きることはなかった。あとこのクラス、結構ヤバいやつが多いとも思った。







昼休み。宗太はイスから立ち上がると、疑問の答えを知るために背後を振り向く。


だが。



「うわ、なんだあれ」



教室の一番後ろ。そこの窓際の席は、たくさんの人であふれかえっていた。



「ねぇ鳳さん、一緒にお昼食べようよ!」


「ふふっ」


「私たちも混ざっていい? ご飯食べながら、鳳さんの前の学校の事とか聞きたいんだよね~」


「ふふっ」



転校生にありがちな、男女を問わない一過性のモテ期。ああなってしまっては、余程の勇気がない限り近づくことはできない。


しかし、どうしてか。今の会話は、どこか違和感があるようにも思えて。



「宗太、今から学食か? だったら一緒に行こうぜ」


「えっ?」



孝介の誘いに一瞬、返事が遅れてしまう。どうやら、いつの間にか意識が飛んでいたらしい。


二人で教室を出て、学食までの道を進む。



「……俺さ、ついに能力を手に入れたのかもしれない」



道中、不意に宗太がそうぼやいた。



「能力ってどんな?」


「妄想を現実に変える力」


「なにそれ最強すぎる。ためしにオレの好きなキャラ出してみてよ」



最初は冗談っぽく言っていた孝介だったが、宗太が本気なのを察すると、



「で、どうしてそう思うんだ?」



真面目な表情で、そう聞き返してくる。



「俺、昨日とある女子と会ったんだ」


「とある女子とは」


「着物姿の女子。ゲームショップの前で、ガラスケースとにらめっこしてる系の」


「それは……すごく興味深いな。店の前にいただけなのか? 他になにかしてたとかではなく?」


「ああ、それだけ。でも俺は今日、その女子と再会した。しかも学校でだ」



再会という言葉。転校生というサプライズ。


そして、宗太と孝介は同じクラスで、同じ出来事を経験している。それらを繋げた結果、導き出せる答えは一つしかない。



「宗太は昨日、ゲームショップ前で鳳さんと会った。で、一夜明けて、今度は彼女が転校生としてやってきたと」


「正解」


「でも、だからと言って、鳳さんが妄想っていうのがオレにはよくわからないんだが」


「だってほら、あんな見た目してるじゃん」



言葉を濁す宗太。


だが、孝介はすぐ思い当たったように。



「要するに、かわいいからか」


「あくまで、俺の認識してる顔面偏差値レベルでの話だが」



理屈っぽい物言いは変わらない。しかし、だからこそ、それだけ自分は動揺してるのだと暗に伝えたかった。


そして、その思いは無事、目の前の相手にも伝わったようで。



「ならとりあえず、声をかけてみるべきだな。大丈夫、もしもの時はオレがフォローするから! 親友なめんなよ!」


「……あー、うん。ありがとう」



どうやら伝わりきれてなかったらしい。


でも、結局はそれしかないのだ。このまま真相を明らかにしないままでは、モヤモヤが続いて夜も眠れそうにない。


宗太はそんな事を考えつつ、昼休みを過ごした。正直、学食でなにを食べたのか覚えてないが、うどんののど越しだけはかすかに覚えている。


そして、あっという間に時間は進みーー放課後がやってきた。

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