世間知らずのお嬢様にギャルゲーを教えたら人生うまくいかない

ロリじゃない

第1章

第1話 出会いと予感

その日、北島宗太きたじまそうたは人生で初めて一目惚れを経験した。


厳密に言えば、それは一目惚れではないのかもしれない。ただこれまで生きてきた中で、現実の女子にここまで心を動かされた事はなかった。


きっかけは些細な事だった。いつものように宗太がゲームショップに向かうと、店の外のガラスケースに額を押しつけている子を見つけた。


背は宗太の肩上あたり。腰まで伸びたキレイな黒髪で、格好は紺を基調とした着物姿。コスプレなのか本気なのか。どちらにせよ、興味をそそられるには十分な要素しかない。


ガマンできず横からのぞき見ると、宗太は一瞬、目をつむりそうになった。


実際にまぶしかったわけではない。ただその少女が、あまりに現実離れした顔つきをしてたから。


端的に言えば、めちゃくちゃかわいかった。



「……?」


「あ、やべ」



少女がこちらに気づいた。


宗太はまるで下着泥棒を目撃された犯人のような声を出し、その場であたふたする。



「ーーのう。一つ聞いていいか?」



まさかの質問。


しかも、予想だにしなかった古風な話し方に、宗太はさらに動揺した。



「あ……はい、なんですか?」


「ここに映っているのが、いわゆるげーむというやつなのか?」



ガラスケースの中に置いてあるモニター。そこに映し出されているドット絵のキャラクターを、少女は指差す。



「一応。これは少し古いやつだけど」


「そうなのか。ふむ……」



少女は腕を組み、端正な顔を悩ましそうな表情で崩した。


そこで宗太は確信した。この子は自分の妄想だと。


そもそもこんな可愛い子が現実にいるわけないし、立ち振る舞いもどこか浮世離れしている。


そしてなにより、ゲームというものを見たことがない……っぽい。このご時世、遊んだことはないにしろ、ゲームを見たことがない人種が果たして存在するのだろうか。


しかも、ここに映ってるのは有名にもほどがあるゲームだ。亀を踏み、キノコを取ってパワーアップするやつ。世代が違えど、誰しも一度は見たことがあるだろう。


ゆえに、この子は存在しない。初めての感情にやられてしまっていた宗太は、そんなよくわからない思考に支配されていた。



「む? しまった、もうこんな時間ではないか! またサイミのやつに小うるさく言われてしまう!」


「えっ? あ、ちょっと」



宗太がなにか言う前に、少女はその場から去って行ってしまった。


その場に取り残される。妄想は消えたはずだが、どうしてかモヤモヤが残る。それに今の去り際の勢い……あれは妄想と違い、明らかな現実味があった。


ともあれ、そんな事はいいとして。



「予約したゲーム早く取りにいかないと」



目的の品を手に入れるために、宗太は自動ドアをくぐり、ゲームショップに入っていった。







次の日。通学路を歩く宗太の肩を、ふいに強い振動が襲う。



「おはよ、相変わらず眠そうだなお前は」


「普通、朝は眠いに決まってるだろ。逆にテンション高いやつの方がおかしいんだ」


「ははっ、それもそうだ」



さわやかな笑顔を向ける彼の名前は南孝介みなみこうすけ


成績優秀、スポーツ万能。髪をワックスで立たせただけで道行く女性が皆振り返る、絵に描いたような好青年である。ちなみにサッカー部所属。



「そういえば、言ってる間にゴールデンウィークだな。宗太はなにか予定とかあんの?」


「家でゲーム」


「だと思った。お前、そういう時に遠出とかしないもんな」


「せっかくの大型連休にわざわざ外出するとか、俺には考えられん」



当然のように答える宗太に、孝介はまた太陽のような笑顔を向ける。



「でも、それがお前の個性だもんな。俺はキライじゃないよ」


「そいつはどうも」



こんな会話をしてると、仲良くなったきっかけをふと思い出す。


あれは中学一年の時。宗太がいつものように行きつけのゲームショップに向かうと、そこに孝介の姿があった。


見ている棚は、スポーツマンらしくスポーツゲーム……と思いきや違った。


孝介がいたのは、他と比べて少し異質さを放ってるコーナー。パッケージにはかわいらしい女の子が描かれていて、耐性のない人ならその場で回れ右してもおかしくない。


だが、慣れた様子でゲームを吟味する孝介を見て、宗太の中でとある確信がはじけた。


こいつは俺と同類だーーと。



「あ、そうだ。前に宗太に借りたやつ、昨日クリアしたぞ」


「マジか。どうだった?」


「……めちゃくちゃ良くて、終盤ずっと泣いてた」


「他には?」


「幼なじみヒロインがかわいい」


「友よ」



二人は熱い握手を交わした。人が行き交う、往来のど真ん中で。



「やっぱり、宗太もああいう幼なじみが欲しいって思うのか?」


「いや、俺が好きなのは二次元の幼なじみだから。あんな小さい頃の事覚えてる奴なんて、現実にはいねーよ」


「それはそうだけど……でも、将来結婚する約束して、それが叶う展開とか本当ヤバいよな。どうぞ末永く爆発しろって感じ」



そうしたトークで盛り上がっていると、いつの間にか学校にたどり着いていた。


だが、その後すぐ、とんでもない事態が降りかかろうとは、その時の宗太自身も想像だにしていなかったーー。

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