第26話 ウーバーゾンビ



 ~~♪



 ピッ



「……はい、羽香森で」



「ロウ! 明日バイト休みだろ? ちょっと付き合え」



「えっ、誰すか……?」



「ウチだよ!! 番号登録してねえのかよ!」



「あー先輩か。すんません寝起きなもんで」



 画面見ないで電話に出るのは良くないな、うん。



「で、明日がなんでしたっけ?」



「ウチのケーキの配達に行くんだけどさ場所がちょっとな」



 イフ先輩の実家はケーキ屋をしている。

ちなモンブランがめっちゃ美味い。



「配達が不安な場所ってなんすか?」



「ゾンビスラム」



 ……。



 …………。



「マジすか」



「ああ」



「あそこ人間住んでるんすか?」



「住んでるっぽいぜ。ちゃんと人間から注文来たからな」



 マジかよ。野良ゾンビAIの巣窟かと思ってたわ。



「てなわけで、ウチ1人で行くのは流石にな」



「ビビってんすか先輩」



「あ?」



「いやなんでもないっす。ご一緒させてください」



「おう」



 __ __



 翌日。



「先輩よっす」



「イフちゃそよっす」



「よっす。……すら公もいんのかよ」



「あ、やっぱ二人きりが良かった?」



「ち、ちげえよ! すら公、お前野良ゾンビに加担するんじゃねーぞ!」



「大丈夫だよ。ボクはろーくんのゾンビAIだからね」



 先行き不安だなおい。



「ここから入るのかな」



 高架下の、俺たちが住んでる住宅地側から、フェンスで覆われている場所があり、その一部が破られて入れるようになっている。



「"ゾンビスラムへようこそ"……歓迎されてるな」



「ちょっとテーマパークみたいだね」



「……行くぞ」



 中に入ってしばらく進むと、いかにもスラムって感じのDIY感あふれる建物が所々に現れる。



「すらぐちゃん、どう?」



「あー……いるね」



「すら公どうした? なにがいるんだ?」



「野良ゾンビ。建物の中からこっち見てるね」



「……マジかよ」



 すらぐちゃんのAIサーチによると(そんな機能あったんだ)、通路には見えないけど、建物の中や、俺たちから見えない所に野良ゾンビたちが潜んでいるらしい。



「で、先輩。配達先はどこっすか?」



「あ、ああ。この先を右に行ったところにある、ガソリンスタンドだ」



「ここにガソスタなんかあるんですか」



「正確には元ガソスタだな。お、多分アレだ」



 少し先にガソスタ特有のオープンな屋根が見える。



「なんか看板が出てるな……"ゾンビAI診療所"?」



「注文してきた人はDr.イモータルって名乗ってたぞ。ゾンビAIの医者だってよ」



「イモータル?」



「不死身とか死神って感じの意味だよ」



 あーなんか、すごいそれっぽいというか、ザ・スラム街でゾンビAIの医者やってる名前感めちゃめちゃあるわ。



 ガソスタの店員がいるコンビニみたいな建物がある。あそこが診療所だろうか。



「じゃ、行くか」



 イフ先輩が気合いを入れて、入り口のインターフォンを押す。



「ハーイ」



「空宮ケーキ店からご注文のケーキをお届けだ」



「オーウ! お待ちしてました!」



 ガチャッ



「おわっ」



「でかーい」



 白衣を着た、めちゃめちゃでかい金髪のねーちゃんが出てきた。188cmある俺より10cm近くでかいぞ。



「オツトメご苦労でーす! ゾンビAIのやぶ医者やってるDr.イモータルです」



 お勤めて。刑務所から来たわけじゃねえんだが。



「空宮ケーキ店のイフだ」



「ども。付き添いのロウです」



「ろーくんの付き添いのすらぐちゃんだよ」



「オーウ!!」



「ぐえっ」



 いきなりドクターがすらぐちゃんに抱き着いた。



「これはスペシャルなゾンビィAIでーす! すらぐちゃん! ウチの子になりませんか!?」



「えっ?」



「なっ」



「く、首取れそう……」



 な、なんだって……?

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