第12話 街中すら散歩
「ろーくん、明日バイト?」
「いや、休みだよ」
「ちょっとシャバの案内してよ」
「シャバて」
すらぐちゃんが出所した組長みたいなこと言い出した。
「え、なに? 街の案内?」
「うん。外の世界あんましわかんないから」
データを消されてるのか、元々家から出てなかったのかわからないが、前のユーザーの時のデータには、外出した記録がほとんどないらしい。
「ネットのマップ情報インプットしたから、なんとなくは分かるんだけどねー」
「なるほどな。じゃあ明日、この辺りブラブラするか」
「お散歩いえ~い。お弁当作って」
「はいよ」
というわけで、すらぐちゃんに散歩がてら、街の案内をすることになった。
__ __
「それではシャバへ、レッツゴー!」
シャバ言うなや。
「まずはこちら」
「ここは?」
「ウチのアパートのゴミ捨て場。すらぐちゃんにもゴミ捨てやってもらうから分別覚えてね」
「時が来たらね」
復活した魔王かよ。
__ __
「続いてこちら」
「コンビニだ」
「前に酒とツマミ買ったとこね」
ウチの近所にある、何故か酒のラインナップが豊富なコンビニ。
個人オーナー(アル中)の趣味らしい。
「酒買ってこうぜ」
「……」
ゾンビがカップ酒飲みながらぶらついてたら流石に通報されかねないので無言でたしなめた。
__ __
「ここは何回か来てるね。ショッピングモール”ウォーキング”」
「ろーくんのバイト先」
「そ」
来たって言うか酔っぱらって勝手に侵入したんだけどね。
「映画館とかもあるから、今度一緒に視ようよ」
「プリキュアがいい」
「ライトは貰えないぞ」
「えー」
見た目的にはキッズ達の応援で倒されるほうだからねあなた。
__ __
「ここで昼食にしようか」
「ランチタイム待ってました!」
ウォーキングのちょっと先にある森林公園に来た。
「自然がいっぱいでいいとこだね」
「ここに来ると落ち着くんだよな。リスとかもたまにみかけるぞ」
「リス! おいしそ~だね」
「ちょっと収集データ訂正するね」
リス食おうとすんな。猛禽類と同じ考え方になっとる。
「はいお弁当」
「ありがと。美味しそ~! この卵焼き甘いやつ?」
「甘いやつだよ」
「やった」
母さん直伝の甘い卵焼き。
塩とかだし巻き卵も美味しいけど、ウチはこれが家庭の味。
ケチャップかけても美味しい。
「そっちのは?」
「ふっふっふ。これはね……」
ぱかっ
「イナリ寿司ぎっしりだ」
イナリ寿司は神の食べ物なのでお弁当にも勿論入れる。
しばらく二人でランチタイムを楽しんだ。
__ __
「最後はここ」
「良い景色だ」
お昼を食べた後も色々回って、最後に来たのは高台にある神社。
この辺りで一番高い所にあるこの神社から、街中が見渡せる。
「でもボクみたいなゾンビが神聖な神社に来ていいのかな」
「大丈夫でしょ。百鬼夜行的な感じで」
「あはは! めっちゃ適当じゃん」
すらぐちゃんが楽しそうで良かった。
「ちょっとお参りしていこうか」
「うん」
二人で拝殿の前に並んで手を合わせる。
これからも楽しく過ごせますように。
__ __
「これで、大体この辺りは案内できたかな」
「あれ、あそこは行ってない気がする」
そう言うとすらぐちゃんが街のある一点を指さす。
そこだけ何故か周りより暗く、廃墟のようなビルや、トタン屋根の建物が並んでいる。
「ああ……あそこはね、”ゾンビスラム”だよ」
「ゾンビスラム?」
「AIのデータ学習には無いかもね。あそこはね、捨てられたり、廃棄処理から逃げ出したゾンビAI達が不法占拠しているスラム街なんだ」
「……ゾンビスラム」
すらぐちゃんは、何を考えているのか、どこか遠くを見透かすような表情で、崩れかけのビル群を見つめていた。
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