第11話 羽香森兄妹



「ただいまー……」



 バイトから帰ってきた。二人が寝てるかもしれないので忍び足で歩く。



「あ、ろーくんおかえり」



「すらぐちゃん起きてたんだ。ヨウちゃんは?」



「ロウにぃちゃんが帰ってくるまで起きてるんだ―って言ってたけど、日が変わったくらいで寝落ちした」



「ヨウちゃん夜更かしとかできないからなー」



 いつもテンション高めな分、夜は電池が切れたようにスッと寝ちゃう。



「すらぐちゃんはスリープモードになんなくて大丈夫?」



 ヨウちゃんが来て強制的に起こされたから、いつもより稼働時間が長いはずだ。



「あ、ボクは別に毎日スリープしなきゃいけないとかないから」



「ねえのかよ」



 じゃあいつも一緒に寝てたのはなんだったんだよ。



「言わせんな恥ずかしい」



「何も言ってねえよ」



 絶対前のユーザーに変なプログラムインストールされてるよなこの子。



「くかー……Zzz」



「気の抜けた寝顔しちゃって」



 ヨウちゃんの布団をかけ直す。昔から寝相が終わってるから、こうやってよく直してやってた。



「よーちゃんとは、施設の時から仲良しだったの?」



「んーそうだなあ。最初はそうでもなかったかな。年も離れてるし」



 ヨウちゃんが施設に来たのは、俺が10才のときだったか……



「こーれ回想入りますわ」



「回想とか言うなや」



 ヨウちゃんは幼いころに事故に遭い、両親が死亡。本人も重体だったが、奇跡的に一命をとりとめた。

しかし、事故の影響で記憶を失ってしまい、引き取る親戚もいなかったため、施設に預けられた。



「施設に来た時からあの明るい性格でさ。みんなにかわいがられてたよ」



 ふとある時、1人でいるヨウちゃんを見つけた。



「隠れて泣いたりしてるんじゃなくてさ、壁にもたれて何の感情もない目で空を見上げてんの。まるでロボットみたいだった」



「そこを突いてろーくんはぐいぐい距離を詰めたんだね」



「なんもしてねーよ。なんか分からんけど、一緒に横に座ってボーっとしてただけ」



 そしたらなんか懐かれた。



「そんで、二人一緒に羽香森さんちの子になって、いつの間にか、兄妹になってた」



「いい話や……目からエネルギー剤が」



「目から緑色の液体出すなこええよ」



 感染するホラー映画のやつじゃん。



「ふあ……あれ、ロウにぃちゃん」



「おう、おはよう」



 ヨウちゃんの頭を軽くなでる。



「バイトお疲れ様。ヨウ、寝ないで待ってようと思ったのに寝ちゃった」



「いいって。今朝ごはん作るから待っててな」



「やった~ロウにぃちゃんの朝ごはん!」



「ろーくん、朝ごはんなに?」



「今日はヨウちゃんいるし、ホットケーキにしようかな」



「ホットケーキ! やった~!」



「FOO~! テンション上がってきた~! ボク3段重ねにして!」



「あっすらぐちゃんずるい! ヨウも3段!」



「はいよ」



 妹が二人に増えたみたいだ。



「あ、ろーくん生クリームとイチゴも乗っけて」



「ないよ」



 三人で山盛りのホットケーキを食べたあと、ゲームをして遊んだ。



 すらぐちゃんがNPCハッキングして邪魔してきたので二人で羽交い絞めにした。



「ロウにぃちゃん、今度すらぐちゃん連れて帰ってきてね! 泊りでだよ!」



「う……そのうちな」



「ちゃんとお義父さんとお義母さんに紹介してね」



「婚約するみたいに言うな」



 ウチの親、ヨウちゃんがそのまま大人になったみたいな性格してるからなあ、色々聞かれるんだろうなあ。

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