第6話 AI式睡眠学習
すらぐちゃんと一緒にバイトから帰ってきて、朝ごはんを食べて一息ついた。
「すらぐちゃんて、前のユーザー情報は消されてるんだよね」
「うん」
「その割には、日常会話の学習データとかはそのまんまなんだな」
まだ一緒に過ごして丸一日だけど、あきらかにデフォルト設定ではない接し方をしてくる。
「野良ゾンビになっても捕まらないで生き残る方法とかインプットされてるよ」
「それはちょっとグレーな情報な気がするけど」
野良ゾンビのスラム街とかあって問題になってるんだぞ。
まあそれは、ゾンビAIなんてものを生み出した我々人類の罪なんだが。
「ろーくんの権限で学習データのリセットできるけど」
「あーそうなのか。そしたらまともなすらぐちゃんに戻せる……」
「ボクをろーくん色に染めてくれよ」
「その言い方キショイからやめろ」
まあ1から学習すんのもめんどくさいからリセットはしないけど。
たった1日だけど、一緒に過ごした時間が消えちゃうような気もするし。
「そんなことよりろーくん、明日お休みなんでしょ。お酒飲もうよ」
「自分の脳内より酒のほうが優先度高いのかよ」
__ __
「はい、乾杯~」
「うぇ~い! お仕事おつかれ~!」
ちな今のは3回目の乾杯です。
「ろ~くん、これ美味しいね~!」
すらぐちゃんはコンビニで買ってきた鮭とばとスルメげそがお気に入りのようで、ワンカップの日本酒と一緒にキメている。
いや本物やん。
「前のユーザーはアル中のオッサンだったんじゃねえか?」
「え~なにろ~くんヤキモチ~? かわいいとこあんじゃ~ん」
「お前そのキャラやめろや」
ゾンビAIのくせにバチバチに酔っぱらっている。
「今更だけどゾンビって酔っぱらうんだ」
「ボクは高性能ゾンビAIだからね! 内臓機能も防腐処理とかサイボーグ化とかでいい感じになってんの~」
すらぐちゃんは高性能の高級AIらしい。いやゾンビになってその機能残しとく意味あるか?
「高性能なら、なんか株とか投資の学習してお金稼げないの?」
「やろうと思えばできるけど~インサイダーになっちゃうから~」
「なに? サイダー? 三ツ矢?」
「ご主人様の投資の知識が無さ過ぎるからやめといたほうがいいよ~」
「ご主人様言うなや」
実際に取引をするのは俺だから、俺にも投資の知識がある程度ないと成功しないらしい。
「俺バカだからな~投資はやめとくか。在宅で稼げればバイト行かなくて済むからいいよな~」
「ボクに任せりゃり!」
「任せ……なに?」
泥酔してバグってきたぞこいつ。
「AI式睡眠学習でろ~くんを投資マスターにしてあげよう!」
「……」
「あっ信じてないな~?」
「いや俺AIじゃないし」
「大丈夫だから! ボクを信じてベッドへGOだよ!」
というわけで、まあ俺も酔いが回ってきたし、そのまま寝ることにした。
「ろーくんは普通に寝てればいいからね。目が覚めたら億万長者だよ」
いや目が覚めても億万長者にはなってねえだろ。
「まあいいや。じゃ、おやすみ」
「いい夢を~」
……。
…………。
「積み立て……NISA……ドルコスト平均法……」
「…………」
「米国高配当……リート指数……」
「…………」
「PER……PBR……」
「耳元で謎の用語囁くのやめろや」
翌日、すらぐちゃんは二日酔いでなにも覚えてなかった。
「……頭痛い」
「すらぐちゃん、お前もう酒飲むな」
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