第5話 バイトパニック



「……ヒマだ」



 バイト終了まであと5時間、ひたすら虚無の時を過ごす。



 夜間警備の仕事は、モニター監視しつつ、納品業者の受付。

あとは定刻ごとの施設の見回り。



 基本的にヒマだし、深夜割増で時給も良いので、夜勤が苦じゃなければオススメのバイトだと思う。



 やることなさすぎるのもアレだけど。



「すらぐちゃん大丈夫かな」



 ちゃんと大人しくしてくれてるといいんだが。



「そろそろ巡回時間か」



 無線で他のエリアにいる警備に連絡し、ショッピングモールの巡回に出かける。



「今日もなにもありませんように……」



 さすがにもう慣れたけど、深夜の無人になったショッピングモールってかなりホラーなんだよな。

バイト始めたての頃、清掃業務用のゾンビAIがトイレでスリープモードになってるのを発見して普通にビビった。



「明日から休みだし、帰ったらすらぐちゃんのAI学習でもやってみるか」



 なんか学習元が偏ってる気がするんだよなあの子。

前のユーザーの顔が見てみたいぜ。



 ぺた……ぺた……



「……ん?」



 ぺた……ぺた……



「……」



 おっと……この足音は……



 ぺた……ぺた……



「……」



 あーこれ、後ろに何かいるなあ……嫌だなあ……



「……くん」



 最近、野良ゾンビに襲われた人のニュースやってたよなあ……



「ろー……くん」



 肩ポン。



「うわっ!」



「ろぉ~くぅん~みつけた~」



「えっなに!? 誰!?」



「すらぐちゃんだけどぉ~?」



「すらぐちゃん!? ……えっすらぐちゃん?」



 振り向いたらすらぐちゃんがいた。なんかフラフラしてるけど。



「いやこんなところで何やってるん君」



「ろーくんちにぃ~ツマミがなかった!」



 知らねえよ。



「てかなに、なんか酔っぱらってない?」



「冷蔵庫にあったエチルアルコールを摂取しました。いぇ~い」



 やっぱ酒飲んどるわコイツ。エタノールとか回りくどい言い方しやがって……。



「帰りなさい。てかどうやって侵入したんだよ」



「入り口の守衛さんにぃ、ユーザー証明データ送ってぇ、ご主人様のお弁当を届けに来ました~って言った」



 そんなんできるのかよ。



「……あ、お疲れ様です。あのーなんかウチのゾンビAIがご迷惑を……すぐ帰しますんで……あっ全然いい? そのままバイト終わるまで一緒に? あ、じゃあそうします……」



 ……。



「すらぐちゃん、俺と見回りしてくれるか?」



「おっけ~」



「いい加減酔い冷ませ」



 自販機で水を買ってすらぐちゃんに渡す。



「ふう。落ち着いた」



「すらぐちゃん、お前もう酒飲むな」



「そんな殺生な」



「……俺と一緒にいるときだけにしてくれ」



「だからろーくんってすき」



 出会ってまだ1日も経ってねえんだわ。



「バイト終わるまで大人しくしててな」



「ヴィレヴァンでよくわからんオススメ本読んできていい?」



「よくねえよ」



「学習データの補強なんですけど?」



 いや必要ねえって多分その本のデータ。



「そういえば、ゾンビAIにはエタノールの摂取が必須って言ってたけどなんでなんだ?」



「あ、それウソ。お酒飲みたかっただけ」



「おい」



 バグッてんじゃねえかこいつ。



「そんなんやってるから捨てられるんじゃ……あ、いやスマン」



 さすがに今の言い方は良くなかったか。反省。



「今のボクの性格とか学習データのベースは前のユーザーの志向が入ってるから、ボクを捨てた前の持ち主がゴミカスクソ雑魚DTなだけだよ」



「めちゃくちゃ言うじゃん」



DTはどっからきたんだよ。



 そんな感じで二人でやいのやいのしながら無人のショッピングモールを巡回し、すらぐちゃんとモニター監視室に戻ってきた。



「あとはここでモニター視てるだけ?」



「まあほぼそんな感じかな」



「それならすらぐちゃんにおまかせ」



 きゅいーん……



「モニターと同期したからもう眺めなくていいよ。なんかあったら言うね」



「あ、ありがとうございます」



 そんな感じで、二人でバイト終わりまで時間を潰した。



 __ __



「お先に失礼しまーす」



「しまーす」



 バイトが終わって二人で帰路に就く。



「疲れた……今日も朝日が眩しいな……」



「朝日浴びるとビタミンDが合成されるんだよ」



「急にうんちくみたいな情報出してくるじゃん」



 一応一緒に働いてたわりに元気だなこの子。



「そういやすらぐちゃんは全然平気そうだけど、ゾンビAIって太陽苦手じゃないの?」



「ちゃんと防腐処理されてるから大丈夫。ほら臭くないでしょ」



「顔が近い近い。わかったから」



 意外と良い匂いがした。



「防腐剤の香り、なんかいい匂いすんね」



「ヴィレヴァンの香水混ぜてるから」



 ヴィレヴァンなんでもあるな。



「明日から休みだし、寝る前に酒飲んじゃおうかな~」



「ボクも飲む!」



「……ちょっとだけね」



 帰る前にコンビニに寄って、酒とツマミ買ってくか。



「鮭とば食べたいかも」



「おっさんじゃねえか」

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