第3話 就寝



 ゾンビAI。



 死亡した人間に特殊な腐敗防止処理をして、「ゾンビ状態」になった検体に、特殊なAIチップを挿入した、肉体がゾンビのAIである。



「あ、ろーくんホットミルクおかわり」



 俺の目の前でマグカップを掲げている女の子はすらぐちゃん。

一応、俺の所有しているAIゾンビということになっている。



 ウチの前に捨てられて野良ゾンビになっていたので、とりあえず拾ってきたら、いつの間にかユーザー登録されてしまった。



「君ほんとにゾンビ?」



 ただの食いしん坊ゾンビコスの脳みそハロウィン女なんじゃないか?



「失礼な。ボクは高性能なAIゾンビだよ。あ、ハチミツ多めに入れて」



 ハチミツをたっぷり入れたホットミルクをすらぐちゃんに差し出す。

ホットミルクは、夜勤明けでもぐっすり眠るために普段俺が飲んでいるものだ。



「今更なんだけど、人間と同じもの食ったり飲んだりして大丈夫なのか?」



 たしか食事とかはゾンビAI専用のエネルギー剤があった気がする。



「ボクは高性能だからね。人間と同じ物を食べられるんだ」



 すらぐちゃんによると、週イチでエネルギー剤を補給すれば普通に稼働できるらしい。

まあ実際、AIで膨大なデータを処理できるうえに、いくら働かせても大丈夫な労働力ってとこが売りだしな。



「でもエネルギー剤って美味しくないし、ボクのごはんはろーくんが作ってね」



「なんで俺の負担が増えてんだよ」



 金持ちの連中の中には、見た目が良いゾンビAIを子供やパートナー替わりに生活させてるってヤツもいるらしいけど。

こっちはしがない夜勤フリーターなわけで……食費カツカツなんだが……



 それにしても疲れた……あ、今クソ眠いわ。

夜勤のバイト明けで色々あったので、今になってドッと眠気が襲ってきた。



「……明日ってか今夜もバイトだし、とりあえずもう寝るわ」



「わかった。おやすみー」



 …………。



「……あの」



「ろーくんどうしたの? 寝るんでしょ?」



「いや一緒に寝るって意味じゃないよ」



 すらぐちゃんが普通にベッドに入ってきた。



「ボクにまたあの段ボールに戻れと?」



「いやそうは言ってないけどさ」



「スリープモードに入ったらボク動けないからなんでもやりたい放題だよ」



「なんもしねえよ」



「じゃあいいじゃん」



「じゃっ……いやさすがに」



 映画とかだとイスとかソファに座った状態でスリープモードに入ってるけど、あれじゃいかんのか?



「ほら、腐敗臭とかすると寝れないし」



「ボクの腐敗防止処理は完ぺきだよ。ほら、良い香りするでしょ」



「いや良い香りはしないだ……え、めっちゃ良い香りする」



 うっすらLUSHの店の前通りかかったときみたいな香りする。なんだこれ。



「添い寝もゾンビAIもお仕事のひとつでしょ」



「いやそんなことないだろ」



 ……一部の物好きな富裕層の間では以下略。



「また捨てられるかもしれないというトラウマで思考回路がショート寸前なので一緒に寝よ」



「同情を誘う月の戦士やめろよ。しょうがねえな今日だけな」



 施設育ちワイ、捨てられる系の話に弱い説。



「おやすみろーくん」



「はい、おやすみ」



「……」



「……」



「めっちゃ日光入ってきて眩しいんだけど。ゾンビにはシンドいんだけど」



「いいからはよ寝ろ」



 ……今度遮光カーテン買ってくるか。

 

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