第2話 ユーザー登録
「ただいまー」
1人暮らしなので返事はないけど、施設で生活してた頃からの習慣ってやつだ。
「さて、この子はどうすっかな……」
拾ってきたゾンビAIの女の子は、とりあえず段ボールごと玄関に放置してある。
「まあいいや。腹減ったし朝メシ作るか」
鍋にトマトジュースとコンソメ、刻んだ野菜を入れて、サッと煮込んでからごはんを投入。
仕上げに粉チーズとバジルをかけて、簡単なリゾットの出来上がり。
ガッツリ食べたい気持ちもあったが、夜勤明けなので、胃に優しい料理にした。
「よし、なかなか美味しそうにできた」
「いい香り。美味しそう」
「そうだろうそうだろう」
「ボクの分もよそって」
「おう、ちょっと待ってな……って」
リゾットを皿に盛ってたらいつの間にか隣に知らない女の子が立っていた。
いや知らない子ではないけど。
「起きたのか」
「おなかすいた」
ゾンビってメシ食うのか……?
「まあいいや。メシ持ってくから、向こうのテーブルのとこで待ってな」
「わかりました。なにかサポートできることがありましたら入力してください」
「急にAI出してくるじゃん」
入力ってなんだよ。
__ __
「「いただきます」」
ぱくっ
「どう?」
「めちゃウマ」
出来立てのリゾットをガツガツ食い出すゾンビガール。
ゾンビだから熱さに強いのか、ヤケドを気にしないのか分からないけど、よくいけるな……。
俺は猫舌なので、ゆっくり冷ましながら食べ進めた。
「「ごちそうさまでした」」
デザートのプリンも食べて、二人で一息ついた。
「美味しかった。料理の上手い男はモテる」
「そりゃどうも……彼女なんて出来たことないけどな」
「ふーん。モテそうなのに。背高いし、ボクみたいなゾンビAIにも優しいし」
施設育ち、高身長、高卒フリーターの3連コンボで実際は怖がられる方が多いんだよな。
「それで、君の名前は? なんで捨てられてたんだ? 前の所有者は?」
「てかLINEやってる?」
「俺のセリフだよ」
いや俺のセリフでもないけど。
「ボクの名前はすらぐちゃん」
「すらぐね。了解」
「違う、すらぐちゃん」
「……」
「すらぐちゃん」
「……すらぐちゃん」
「はい、すらぐちゃんです」
なんだこいつ。
「データベースを一部リセットされてるっぽい。前の所有者もわかんない」
「そうか……」
ちゃんと役所に登録してれば前の所有者を追えるんだが、不法投棄するようなやつだし、多分無理だろうな。
「アナタの名前は?」
「ん? 俺は羽香森ロウ」
「ろーくん。年齢と誕生日は?」
「えーと、22才、4/2日生まれ」
誕生日は俺を保護した病院で決められたから、実際の生まれた日ではない。
それでも、施設のみんなに毎年祝ってもらったから、特別な日であることに変わりはない。
「ろーくん」
「ろーくんて……で、なんだ?」
「ボクの目を見て」
「? おう」
右目は前髪に隠れて見えないけどな。
「そのまま目線外さないで、手出して」
「はい」
ぎゅっと、すらぐちゃんに手を握られる。
ちょっとヒンヤリする。さすがゾンビ肌。
「なに急に」
「いいからそのまま10秒ほどお待ちを……はい、登録完了」
「えっなに登録って」
おもむろに手を解放された。
「今からろーくんはボクの所有者、つまりユーザーになったから」
「なるほど、ユーザー……え? 俺が?」
「うん。あ、WEBで役所のほうにも所有申請出しといたよ」
「それはどうもお手数おかけして……じゃなくて」
「ろーくんがボクを捨てても、役所にバレちゃうからね」
「…………」
「これからよろしくね」
こうして何故か、謎のゾンビAIガール、すらぐちゃんとの二人暮らしが始まったのであった。
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